キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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浮気ものへのおしおき 11

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 秋弦の脳裏に浮かびかけていた人影は、楓の叫びによって蹴散らされた。

「子種をまき散らす……?」

 一体何の話かわからない。

『秋弦さまの子種は私のもの。よその国のお姫さまではなく、全部私にくださいませ』

 秋弦の腕を逃れ、くるりと一回転した楓は人の姿を取るなり身を寄せる。

 押されるままに仰向けに倒れた秋弦を見下ろし、嬉しそうに笑う。

「秋弦さま。何からお試ししましょうか? 私のイチオシは……」

「な……ま、待て、楓っ!」

 着物の裾をまくりあげようとする手を押さえ、秋弦は楓の身体を押しやろうとした。

 春之助には人払いをしろとは言ったが、さすがに真っ昼間から四十八手を試すつもりはない。楓のふかふかの毛並みを撫でて、ちょっと抱きしめたりするだけで十分……。

――始めたら……昼までに終われそうもないではないか!

 楓は、そんな秋弦の葛藤にも気付かず、眉をハの字にして嘆く。

「秋弦さま……秋弦さまは、私が共寝していなくとも寂しくなかったのでしょうか?」 

 楓は、落ち込み過ぎて気が回らなくなったのか、黒髪は白髪へ、黒い瞳は金の瞳へと変化していく。

 白い睫毛に覆われた金の瞳が潤むのを見て、何か言わなくてはと焦った秋弦の口から、自分でも思いがけない言葉がこぼれ落ちた。

「……寂しかった」

 一度口にしてしまえば、パタリパタリとその先に続く歯止めが倒れて行く。

「楓が傍にいないと落ち着かない。ひとりで草餅を食べても、少しもうまくなかった。じいや春之助には、きっとすぐに帰ってくると言われても、信じられなかった。もう二度と会えないのではないかと思うと不安で仕方がなくなって、眠れずに……そこに元照魔鏡が現れて……」

 自分が人間ではなかったら――。もしも、あの鏡に映ったような本物の異形だったとしても、楓はつがいになりたいと言うだろうか。

「鏡……?」 

「……楓。もし私が、人間ではなかったとしたら、それでもつがいになりたいか?」

 秋弦の問いに、楓はびっくりしたように目を見開いた。

「楓がつがいになりたいのは、人間の私だろう?」

 楓は、押し返そうとする秋弦に逆らうようにして、無理やり身体を寄せようとした。

 突っぱねようと思えば、そうすることは難しくなかったが、秋弦は楓の身体を支えていた腕の力を抜いて、楓を胸に抱き止めた。
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