キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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浮気ものへのおしおき 9

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 邪魔者がいなくなり、楓と二人きりとなった秋弦は、大きく息を吐いた。

「楓」

『はい、秋弦さま……』

 行儀よく向き合って座り、見上げる金の瞳には昨夜見た狼ではない、人間の姿である秋弦が映っている。

 今朝、秋弦は畳の上に大の字で転がった状態で目が覚めた。

 恐る恐る触れた自分の顔は、無精髭こそあったものの毛に埋もれてはおらず、人間のものだったが、元照魔鏡が内に潜む真の姿を映すのだとすれば、あの異形こそが自分の本来の姿ではないかと思えて、恐ろしかった。

「……黙っていなくなると心配するだろう?」

『ごめんなさい……』

 楓の身体を抱きしめれば、フワフワの毛並みに少しだけ怯えて萎縮した心が解れる気がした。

「それで、昨日はどこへ行っていたんだ?」

『ええと……そのう……色々行ったんですが、最初は淨春院さまのところです』

 意外な名に、秋弦は思わず抱きしめていた腕を緩めて楓を覗き込んだ。

「淨春院?」

『あの、怪しい人……人じゃないけど、人の姿をしたもの……銀嶺の国の神使を見かけて、追いかけて行ったら淨春院さまのところに辿り着いたのです』

「神使?」

『はい』

「それが、淨春院に会いにいったということか」

 淨春院は関係ないと思いたかったのは、自分の甘さだったかと苦い思いを抱きかけたが、楓はそうではないと首を振った。

『はい。でも、淨春院さまは格好良く追い払ってしまいました』

「追い払った……?」

『悪企みにはのらないと言って怒らせて襲われたのですけれど、無事、黒い装束の人たちが追い払ったのです。あれは、お城の人たちでしょうか?』

「あ、ああ、そうだが……」

 昨日、淨春院に付けていた影から報告はなかったはずだが、追って行った先で返り討ちにあった可能性もある。確かめなくてはと考えながら秋弦が先を促すと、楓は首にくくりつけた匂い袋の中を見てくれと秋弦に言った。

『銀嶺の国では、真神(まかみ)という狼の神様を信じているそうですが、神使が人と会うつなぎを付けるときに使っているものがあるそうです』

 甘い匂いの香を焚きしめた匂い袋の中には、白い小さな牙が入っていた。
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