キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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浮気ものへのおしおき 4

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 世の人々が起き出す明け六つ。満を持して楓は照葉城へ戻って来た。

 昨日、淨春院の尼寺を後にした楓は、秋弦のところへまっすぐに戻りたかったが、母の葛葉から聞いたと言う右近左近に引き止められた。

 秋弦が銀嶺の国の三番目のお姫様である更姫さまとの縁談に乗り気で、国境付近で会う手筈を整えている。ついては、横取りされたくなければ秋弦を喜ばせる手練手管が必要だと言われたのだ。

 右近左近と花街を覗きに行き、赤くなったり青くなったりしながら、四十八手というものの十手ほどを観察し、そのうち秋弦に効き目のありそうな五手を、一晩かけて一生懸命覚えた。

 淨春院から聞いた銀嶺の国の真神の話やその神使が秋弦を狙っていることなど、色々と考えなくてはいけないことがたくさんあったが、まずは秋弦の浮気を防止しなくてはいけない。

 子種の一滴まで、秋弦はつがいである楓のもの(になる予定)なのだ。

 覚えたことを忘れないうちに実践しなくてはと、夜明けと共に小伊奈利こいなり神社を狐姿で飛び出し、朝靄の中、出勤する役人たちに交じって通用口からこそっと城内へ戻ろうとしたところ、仁王立ちで待ち構えていた角右衛門に出くわした。

「嫁入り前の狐が朝帰りとは、いい度胸だ!」

『か、角右衛門さま……』

 慌てて逃げ出そうとしたが、がしっと抱えられ、いきなり担がれた。

「角右衛門様っ!」

「ご大老! 無理はいけませぬ!」

「それがしが代わりに運びましょう!」

 行き交う人々が慌てて角右衛門から楓を引き受けようとするが、「なに、これしきの重さ大したことはないっ!」と鼻息荒く断られる。

 オロオロと見守る人々の前をさっそうと歩きだした角右衛門だったが、三歩進んだところで「ぎくっ」という恐ろしい音がして「うぅぅ、無念」と呻き声を上げ、蹲った。

「角右衛門様、しっかりっ!」

「誰かっ! 医師をっ!」

「まずは殿へ知らせをっ」

 それ見たことかとワラワラと駆け寄った人々により、今度は角右衛門が担がれ、奥へと運ばれていった。
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