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真神さまの使い 8
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「文は読ませてもらった。更姫殿の年は……」
「十六です。年回りもちょうどよろしいのではないかと」
「なるほど。見目は……もちろん、麗しいのだろうな」
「はい」
「実は、いい加減正室をもらえとうるさく言われるのに、辟易していてな。縁があればと思っていたところだ。まさに渡りに船ではあるのだが……その方も、我が父と母の話は知っているだろう? 相思相愛で結ばれながらも幸福とは言えぬ結末だった。政略的に魅力があっても、そう簡単には踏み切れぬ。できれば、直接顔を合わせ、話をしてみたいと思うのだが……姫君にご足労願うのは、酷であろうか? もちろん、こちらも国境まで赴くつもりだ」
春之助と角右衛門の双方から、突き刺さるような視線を向けられているのを感じたが、大物を釣るには美味い餌が必要だ。
使者は、まさか秋弦が城を離れて会いに行くと言い出すとは予想していなかったのか、微かに目を見開いたものの、頷いた。
「私の一存では、この場でお返事できぬお話ですが……おそらく、我が主も姫も承諾されるかと。明日にでも急ぎ国へ戻り、改めて文でお知らせしてもかまいませぬでしょうか」
「そうしてくれ。私からの返信は、明日の朝までに用意しよう」
秋弦が乗り気であると見て、朱理と名乗った使者はあっさり引き下がった。
角右衛門が朱理を連れて退出した途端、春之助がぎりぎりと歯ぎしりする。
「春之助。山ほどあるだろう文句は、明日聞く。まずは楓を探してくれ。誤解される前に、きちんと話しておきたい」
いつもなら、一緒に湯殿で互いの背中を流している時間なのに、ちらりとも覗きに来ないのが気になった。
春之助は、大きく深呼吸した後すっと立ち上がると、秋弦へ持っていた刀を突き出した。
「ちなみに、どこまで探せばよろしいのですか?」
「どこまで……とは?」
城の中に決まっているだろうと怪訝に思った秋弦に、春之助は呆れた眼差しを向けた。
「犬の耳は、人には聴こえない音も聴くことができるとか。壁に耳あり、障子に目ありどころの話ではありませんね。ちなみに、狐も犬と大差ないのではないかと思われますが。しかも、楓はただの狐ではなく、神使のお狐さまですしね? もしかしたら、家出ならぬ城出しているかもしれませんよ。兄上」
「十六です。年回りもちょうどよろしいのではないかと」
「なるほど。見目は……もちろん、麗しいのだろうな」
「はい」
「実は、いい加減正室をもらえとうるさく言われるのに、辟易していてな。縁があればと思っていたところだ。まさに渡りに船ではあるのだが……その方も、我が父と母の話は知っているだろう? 相思相愛で結ばれながらも幸福とは言えぬ結末だった。政略的に魅力があっても、そう簡単には踏み切れぬ。できれば、直接顔を合わせ、話をしてみたいと思うのだが……姫君にご足労願うのは、酷であろうか? もちろん、こちらも国境まで赴くつもりだ」
春之助と角右衛門の双方から、突き刺さるような視線を向けられているのを感じたが、大物を釣るには美味い餌が必要だ。
使者は、まさか秋弦が城を離れて会いに行くと言い出すとは予想していなかったのか、微かに目を見開いたものの、頷いた。
「私の一存では、この場でお返事できぬお話ですが……おそらく、我が主も姫も承諾されるかと。明日にでも急ぎ国へ戻り、改めて文でお知らせしてもかまいませぬでしょうか」
「そうしてくれ。私からの返信は、明日の朝までに用意しよう」
秋弦が乗り気であると見て、朱理と名乗った使者はあっさり引き下がった。
角右衛門が朱理を連れて退出した途端、春之助がぎりぎりと歯ぎしりする。
「春之助。山ほどあるだろう文句は、明日聞く。まずは楓を探してくれ。誤解される前に、きちんと話しておきたい」
いつもなら、一緒に湯殿で互いの背中を流している時間なのに、ちらりとも覗きに来ないのが気になった。
春之助は、大きく深呼吸した後すっと立ち上がると、秋弦へ持っていた刀を突き出した。
「ちなみに、どこまで探せばよろしいのですか?」
「どこまで……とは?」
城の中に決まっているだろうと怪訝に思った秋弦に、春之助は呆れた眼差しを向けた。
「犬の耳は、人には聴こえない音も聴くことができるとか。壁に耳あり、障子に目ありどころの話ではありませんね。ちなみに、狐も犬と大差ないのではないかと思われますが。しかも、楓はただの狐ではなく、神使のお狐さまですしね? もしかしたら、家出ならぬ城出しているかもしれませんよ。兄上」
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