キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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真神さまの使い 7

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 春之助は、悔しそうな顔をしたものの、それ以上反抗することなく俯いた。

「…………いいえ。出過ぎたことを申しました。申し訳ありません」

「春之助」

「……はい」

 じっと目線を落としたままの春之助は、膝の上で手をきつく握りしめている。 

「何を考えているのかわからぬ相手が、一番恐ろしい。だから、相手を知る必要がある」

「はい……」

「敵の姿を確かめもせずに逃げ出すのは、腰抜けのすることだ」

 ビクリ、と春之助の身体が揺れ、拳が解かれる。

「やたらと吠えるのは、弱い犬である証拠。牙を剥くのは、相手を噛み殺すときだけでいい。だが、油断はするな」

 春之助は、背筋を伸ばして視線を上げ、秋弦を見つめて頷いた。

「はい。心して、取り掛かります。兄上」

「頼りにしているぞ」

 廊下を近づいてくる足音を聞きつけて、秋弦はすっと背筋を伸ばした。

 角右衛門の声がして、下段の奥、薄闇がわだかまった場所に人影が現れる。

 ゆっくりと上段へと進み出た人物は、若い男だった。

 黒い股引のようなぴたりと足に沿った下衣は、あちらの国では一般的であるという長靴を履くためだろう。上着は、腰丈の羽織のようなもので幅広の帯でしっかりと身体に合うように留めている。肩から後ろへと払った長合羽のような布は旅の埃や雨を避けるためと思われるが、鮮やかな深紅で裏打ちされていた。

 どれにも華美な飾りや刺繍などはないが、厚手の生地は質が良さそうだし、帯もよく見れば、頑丈そうな黒革だ。

 男は、予め作法を学んできたらしく、腰を落として中段の中ほどまで来ると膝を折り、美しい所作で深々と平伏する。

「銀嶺の国より参りました、朱理しゅりと申します」

 その髪は、灰色がかった白で、瞳の色も曇天の空を映したような灰色だ。

 抜けるように白い肌に、赤い唇だけが鮮やかに浮かび上がる。

「突然の訪問にもかかわらず、こうして面会の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。先にお渡しさせていただいた文にも記した通り、我が国の三の姫との縁組について、ぜひともご一考いただきたいと我が主たっての希望でございます」

 顔を上げるなり、すらすらと照葉の国の言葉で述べた朱理は、じっと秋弦を見つめた。
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