キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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真神さまの使い 3

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 お光も、国のためとわかってはいただろうが、どうしても側室と夫を分かち合うことが許せなかった。

 お遊の方が城へ上がることになったと聞くと、その日のうちに本丸御殿から二の丸御殿へ移り、お遊の方になかなか子ができず、お須磨の方が二人目の側室となって以降は、公式行事にも一切顔を見せることをしなくなった。

 お須磨の方を側室としてからお光が亡くなるまでの十数年、秋弦の父は妻の姿を見ることさえできなかった。

 亡骸となった母にようやく対面し、泣いて詫びながら添い寝する抜け殻のようになった父の姿を見た時、秋弦はこれまで厭わしく思っていた跡継ぎという立場を一刻も早く全うすることが、唯一の親孝行だと気が付いた。

 身も心も疲れ果てた父を、これ以上望まぬ場所に置いておくのはあまりにも心苦しかった。

 進んで政務を手伝い、蔑みや嫌悪の眼差しを恐れずに、積極的に家臣たちと関わるように努力した結果、ようやく父の口から「隠居したい」という言葉を引き出すことに成功したのは二年後。秋弦が十七の時のことだった。


 あれから三年。ようやく安らぎを得た父を再び煩わせるようなことはしたくないが、五年前、お遊の方が様々なものを一緒くたに放り込んで蓋をした、玉手箱の中身を検めるべきときが訪れたのだろう。

――とにかく、楓が誤解しないよう、できる限り慎重に説明しなくては……。

「今となってはお断りせねばなりますまい」

 楓になんと言おうかと考えていた秋弦は、角右衛門の言葉を聞き流しかけてハッとした。

「……ん? じい。今、断ると言ったか?」

「はい。寺社奉行殿の言う通り、二代続けてよその国から正室を迎えることに否やを言い出す者も現れるでしょうし、殿には楓殿という奥方がいらっしゃるのですから、正室としてはお迎え出来ぬと、まずはお断りするのが当然のことかと」

 何をたわけたことを言っているのだと顔をしかめる角右衛門に、秋弦のほうが驚いた。

「角右衛門……私と楓はいつ夫婦になったのだ?」
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