54 / 159
真神さまの使い 2
しおりを挟む
今は亡き秋弦の母お光は、銀嶺の国の出身だ。
見分を広める目的で近隣諸国を外遊していた秋弦の父が、銀嶺の国に立ち寄った際、歓迎の宴で舞を披露した巫女のひとりであったお光にひと目ぼれし、半ば攫うようにして国へ連れ帰ったのだ。
代々国主を務める柊家の血筋に、よそ者の血が混じることに反対する声もなくはなかったが、よほどのことがなければ国主になることのない三男の嫁ということで黙認された。
ところが、お光が嫁いだ翌年、流行り病が猛威を振るい、国主である長兄と次兄が子を設けぬままに相次いで亡くなったことで、思いがけず国主の座が秋弦の父の下へ転がり込んで来た。
よそ者であるお光に対しての風当たりは強かったが、お光は照葉の国に溶け込もうと努力していたし、何事もなければいずれ国母として受け入れられただろう。
だが、夫が側室を迎えたことで、お光の心はひどく傷つき、綻び始めた。
照葉の国では、正室に男子ができなかった場合などに側室を持つといった慣習があるだけで、基本的には一夫一妻である。
本来であれば既に嫡男が生まれている国主が側室を持つ必要はなかった。
一部の家臣の間で、お光の産んだ秋弦の容姿があまりにも照葉の人間とはかけ離れているため、民たちが秋弦を受け入れないかもしれない。照葉の人間を側室として迎えるべきだという声が以前からありはしたが、秋弦の父は馬鹿げていると一蹴していた。
しかし、秋弦の父が国主となって二年目の春、大雨による川の氾濫が起き、多くの村が被害を受けた。いくつもの田畑が駄目になって税収が激減した上、橋の修繕や村の再建にかかる多額の費用を賄うのが難しくなった。
流行り病の痛手も引きずっており、ひっ迫する国庫を潤すために、どこからか金をねん出しなくてはどうしようもなくなった。
家臣一同膝を詰め、額を寄せて話し合った結果、商家をまとめる立場にあった豪商の娘であるお遊の方を側室に迎え、その持参金を受け取るのが手っ取り早く、民の負担にもならない方法だということで意見がまとまった。
ただ金を巻き上げるのでは商家からの反発は必至。借金の形を取っても返せる見込みがない。もっともらしい理由の裏には、お光の産んだ秋弦を跡継ぎの座から引きずり下ろそうという魂胆が透けて見えたが、他に打てる手はなく、国主としては頷くほかなかった。
見分を広める目的で近隣諸国を外遊していた秋弦の父が、銀嶺の国に立ち寄った際、歓迎の宴で舞を披露した巫女のひとりであったお光にひと目ぼれし、半ば攫うようにして国へ連れ帰ったのだ。
代々国主を務める柊家の血筋に、よそ者の血が混じることに反対する声もなくはなかったが、よほどのことがなければ国主になることのない三男の嫁ということで黙認された。
ところが、お光が嫁いだ翌年、流行り病が猛威を振るい、国主である長兄と次兄が子を設けぬままに相次いで亡くなったことで、思いがけず国主の座が秋弦の父の下へ転がり込んで来た。
よそ者であるお光に対しての風当たりは強かったが、お光は照葉の国に溶け込もうと努力していたし、何事もなければいずれ国母として受け入れられただろう。
だが、夫が側室を迎えたことで、お光の心はひどく傷つき、綻び始めた。
照葉の国では、正室に男子ができなかった場合などに側室を持つといった慣習があるだけで、基本的には一夫一妻である。
本来であれば既に嫡男が生まれている国主が側室を持つ必要はなかった。
一部の家臣の間で、お光の産んだ秋弦の容姿があまりにも照葉の人間とはかけ離れているため、民たちが秋弦を受け入れないかもしれない。照葉の人間を側室として迎えるべきだという声が以前からありはしたが、秋弦の父は馬鹿げていると一蹴していた。
しかし、秋弦の父が国主となって二年目の春、大雨による川の氾濫が起き、多くの村が被害を受けた。いくつもの田畑が駄目になって税収が激減した上、橋の修繕や村の再建にかかる多額の費用を賄うのが難しくなった。
流行り病の痛手も引きずっており、ひっ迫する国庫を潤すために、どこからか金をねん出しなくてはどうしようもなくなった。
家臣一同膝を詰め、額を寄せて話し合った結果、商家をまとめる立場にあった豪商の娘であるお遊の方を側室に迎え、その持参金を受け取るのが手っ取り早く、民の負担にもならない方法だということで意見がまとまった。
ただ金を巻き上げるのでは商家からの反発は必至。借金の形を取っても返せる見込みがない。もっともらしい理由の裏には、お光の産んだ秋弦を跡継ぎの座から引きずり下ろそうという魂胆が透けて見えたが、他に打てる手はなく、国主としては頷くほかなかった。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる