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兄と弟 4
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翌朝、夢の続きでいつものように春之助の声で目覚めた秋弦は、腕の中の楓が白狐の姿に戻っていることを少々残念に思った。
春之助や角右衛門の声でなく、楓のはにかんだ笑みと愛らしい声で目覚められたなら、どんなに幸せだろうか……。
「兄上。朝から妄想全開で鼻の下を伸ばすのは、おやめください」
「……」
ぐっすり眠っていてぴくりともしない楓の肩のあたりに、昨夜の傷がないことをそっと確かめてから夜着から出て下段へ下りた。
「昨日、淨春院のもとを不審な者が訪れたようです。捕らえますか?」
洗面の準備を整えながら、春之助が唐突に告げる。
その顔には何の感情も浮かんでいないが、かえって不自然だ。
「まだ、そうと決まったわけではないだろう」
「後手に回るわけにはいきません」
「春之助」
証拠もなく断定するなと秋弦がたしなめると、春之助は冷ややかな眼差しで見つめ返した。
「兄上。次はない。五年前に大殿はそう言ったはずです」
五年前、春之助の生母であるお遊の方は、落飾して淨春院という名になり、城を出て郊外の尼寺へ移った。
以来、秋弦も春之助も、会っていない。
尼寺で祈りの日々を送っていると言えば聞こえはいいが、一生尼寺の敷地より外へ出ることは許されていない。
「首を刎ねられるべき大罪を犯した身。生かしておくべきではなかったのです」
嫌悪と憎悪を隠そうともしない春之助は秀麗な顔を歪め、実の母親の死を望んだ。
お遊の方が秋弦の殺害を企てたと発覚したのは、五年前のことだ。
秋弦は、二の丸御殿で療養していた母のもとを訪れた際、危うく毒殺されかけた。
茶に毒が入れられており、秋弦は一口飲んですぐに気付いて吐き出したため命拾いしたが、先に飲んでしまったお光は助からなかった。
毒を入れた女中は、捕らえられる前に、どこから手に入れたのか短刀で胸を突いて命を絶った。女中は、遺書代わりにお遊の方に唆されたと証言する手紙を部屋に残していたため、お遊の方を問い質したところ、あっさりと秋弦の毒殺を企てたことを認めた。
しかも犯人が不明のままだった十年前の秋弦のかどわかしについても、自分が企てたと白状した。
春之助や角右衛門の声でなく、楓のはにかんだ笑みと愛らしい声で目覚められたなら、どんなに幸せだろうか……。
「兄上。朝から妄想全開で鼻の下を伸ばすのは、おやめください」
「……」
ぐっすり眠っていてぴくりともしない楓の肩のあたりに、昨夜の傷がないことをそっと確かめてから夜着から出て下段へ下りた。
「昨日、淨春院のもとを不審な者が訪れたようです。捕らえますか?」
洗面の準備を整えながら、春之助が唐突に告げる。
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しかも犯人が不明のままだった十年前の秋弦のかどわかしについても、自分が企てたと白状した。
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