41 / 159
さんにんよればXXの知恵 4
しおりを挟む
びくりと肩を揺らし、さっそく墨をはね散らかしそうになる楓の肩を抱いて押さえる。
「急に動くんじゃない。筆を使うときは、心を落ち着けなくてはうまく書けない」
「で、でも……」
何か不都合でもあるのかと楓の顔を覗き込んだ秋弦は、潤んだ黒い瞳と真っ赤に染まった頬を見て、喉の奥で呻いた。
――とても落ち着けそうにない……。
「秋弦さまに教えていただけるのは、嬉しいのですが、こ、こんな風にされるのは、恥ずかしい……」
筆など放り出し、今すぐ襲いかかりたい気持ちでいっぱいになったが、楓の望みを叶えるのが先だ。
秋弦は深呼吸を繰り返し、どうにか震えずに楓の手を操って、声を出しながら紙の上に「かえで」と書いた。
「か……え……で」
楓は、たっぷりとした墨で描かれた自分の名をじっと見て、「うふっ」と笑う。
「秋弦さまのお名前は、どのように書くのですか?」
きらきらと光る瞳で見つめられると、欲望に振り回されるばかりの己が浅ましく思えてくる。
「こうだ」
しづる、とその隣に書き記せば、楓は何度もその字を上からなぞり、「かえで……しづる……」と呟いては笑みをこぼす。
すっかり紙が黒くなってしまったところで、角右衛門への詫び状をしたためたいと言うので、本文は秋弦が書いてやり、最後のところに自分の名前を書くよう用意してやる。
楓は真剣な表情で筆を動かし、少々本文にはみ出しつつも、誰でも読める美しい字で「かえで」と書いた。
「できました!」
筆を持ったまま抱きつかれそうになり、慌てて押し止め、筆を置かせた。
「あとは乾くのを待って、封書に入れて、明日じいに届けに行けばよい」
首にくくりつけてやろうと言えば、今度こそ楓は秋弦に勢よく抱きついた。
「ありがとうございます。秋弦さま」
柔らかな身体を抱きかかえ、そのまま寝床へ運びこもうとした秋弦だったが、「ポンッ」という鼓の音を聞いてがっくりと項垂れた。
「急に動くんじゃない。筆を使うときは、心を落ち着けなくてはうまく書けない」
「で、でも……」
何か不都合でもあるのかと楓の顔を覗き込んだ秋弦は、潤んだ黒い瞳と真っ赤に染まった頬を見て、喉の奥で呻いた。
――とても落ち着けそうにない……。
「秋弦さまに教えていただけるのは、嬉しいのですが、こ、こんな風にされるのは、恥ずかしい……」
筆など放り出し、今すぐ襲いかかりたい気持ちでいっぱいになったが、楓の望みを叶えるのが先だ。
秋弦は深呼吸を繰り返し、どうにか震えずに楓の手を操って、声を出しながら紙の上に「かえで」と書いた。
「か……え……で」
楓は、たっぷりとした墨で描かれた自分の名をじっと見て、「うふっ」と笑う。
「秋弦さまのお名前は、どのように書くのですか?」
きらきらと光る瞳で見つめられると、欲望に振り回されるばかりの己が浅ましく思えてくる。
「こうだ」
しづる、とその隣に書き記せば、楓は何度もその字を上からなぞり、「かえで……しづる……」と呟いては笑みをこぼす。
すっかり紙が黒くなってしまったところで、角右衛門への詫び状をしたためたいと言うので、本文は秋弦が書いてやり、最後のところに自分の名前を書くよう用意してやる。
楓は真剣な表情で筆を動かし、少々本文にはみ出しつつも、誰でも読める美しい字で「かえで」と書いた。
「できました!」
筆を持ったまま抱きつかれそうになり、慌てて押し止め、筆を置かせた。
「あとは乾くのを待って、封書に入れて、明日じいに届けに行けばよい」
首にくくりつけてやろうと言えば、今度こそ楓は秋弦に勢よく抱きついた。
「ありがとうございます。秋弦さま」
柔らかな身体を抱きかかえ、そのまま寝床へ運びこもうとした秋弦だったが、「ポンッ」という鼓の音を聞いてがっくりと項垂れた。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説

【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる