キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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さんにんよればXXの知恵 4

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 びくりと肩を揺らし、さっそく墨をはね散らかしそうになる楓の肩を抱いて押さえる。

「急に動くんじゃない。筆を使うときは、心を落ち着けなくてはうまく書けない」

「で、でも……」

 何か不都合でもあるのかと楓の顔を覗き込んだ秋弦は、潤んだ黒い瞳と真っ赤に染まった頬を見て、喉の奥で呻いた。

――とても落ち着けそうにない……。

「秋弦さまに教えていただけるのは、嬉しいのですが、こ、こんな風にされるのは、恥ずかしい……」

 筆など放り出し、今すぐ襲いかかりたい気持ちでいっぱいになったが、楓の望みを叶えるのが先だ。

 秋弦は深呼吸を繰り返し、どうにか震えずに楓の手を操って、声を出しながら紙の上に「かえで」と書いた。

「か……え……で」

 楓は、たっぷりとした墨で描かれた自分の名をじっと見て、「うふっ」と笑う。

「秋弦さまのお名前は、どのように書くのですか?」

 きらきらと光る瞳で見つめられると、欲望に振り回されるばかりの己が浅ましく思えてくる。

「こうだ」

 しづる、とその隣に書き記せば、楓は何度もその字を上からなぞり、「かえで……しづる……」と呟いては笑みをこぼす。

 すっかり紙が黒くなってしまったところで、角右衛門への詫び状をしたためたいと言うので、本文は秋弦が書いてやり、最後のところに自分の名前を書くよう用意してやる。

 楓は真剣な表情で筆を動かし、少々本文にはみ出しつつも、誰でも読める美しい字で「かえで」と書いた。

「できました!」

 筆を持ったまま抱きつかれそうになり、慌てて押し止め、筆を置かせた。

「あとは乾くのを待って、封書に入れて、明日じいに届けに行けばよい」

 首にくくりつけてやろうと言えば、今度こそ楓は秋弦に勢よく抱きついた。

「ありがとうございます。秋弦さま」

 柔らかな身体を抱きかかえ、そのまま寝床へ運びこもうとした秋弦だったが、「ポンッ」という鼓の音を聞いてがっくりと項垂れた。
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