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さんにんよればXXの知恵 2
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楓は秋弦の背後に隠れるようにして小さくなって伏せているが、しょんぼりした様子がないところを見ると、あまり反省していないようだ。
「角右衛門殿。顔に墨がついていますぞ」
寺社奉行が頬を示して指摘すると、角右衛門は「ふんっ!」と鼻息も荒く懐から取り出した懐紙で頬を拭う。
墨は、取れるどころか広がっただけだが、寺社奉行は指摘しなかった。
秋弦も、狐の楓を「奥方」などと口走っている角右衛門に、正気なのかと逆に問い返したいくらいだが、怒りを煽るのは得策ではない。やんわりと事の成り行きを問い質す。
「一体、何があったのだ?」
角右衛門は、懐紙を握りしめて唾を飛ばしながら訴えた。
「手紙を書いていたところ、いきなり背中に飛び掛かって来たのですっ! おかげで筆が滑って、ほぼ書きあがっていた手紙は台無し。私が驚いて立ち上がった拍子に、机から硯が落ち、汚れた畳の上に白狐が落ちたのですっ!」
まさか、角右衛門を押し倒して何かする気だったのかと、秋弦が驚きに目を見開いて振り返ると、楓はぴたっと畳の上に伏せたまま小声で説明した。
『秋弦さまに文を書いてみたいと思ったのです。それで、どのようにするのかを知りたくて、あちこちのお部屋を覗いたのですが、どこもとても忙しく人の出入りがあって。角右衛門様が、一番お暇のようだったので……』
角右衛門は大老という役職に就いているが、老中の相談役のようなもので、決まった執務があるわけではない。
老中や若い役人たちの相談に乗ったり、手紙や書類を添削したりといったことを請け負っている。
楓の目の付け所は悪くないし、楓からの文をぜひ読んでみたいと思うが、なにせ相手が悪い。
「すまなかったな、角右衛門。どうやら、楓は文に興味があったようだ。あとで、私が教えてやるから、もう邪魔はしない」
「文だけでなく、女子の振舞いについても、よぅく言い聞かせてくだされ」
角右衛門は大真面目で主張するが、そもそも女子の振舞いではなく、狐の振舞いだろう。
寺社奉行が、突然激しく咳き込んでいるのは、笑いを堪えるために違いない。
「よくわかった。楓には、私から話す」
角右衛門は、じろりと楓をひと睨みし、なんとも返答に困る小言を残して退出した。
「殿。嫁の尻に敷かれてよいのは、祝言をあげてからですぞ!」
「角右衛門殿。顔に墨がついていますぞ」
寺社奉行が頬を示して指摘すると、角右衛門は「ふんっ!」と鼻息も荒く懐から取り出した懐紙で頬を拭う。
墨は、取れるどころか広がっただけだが、寺社奉行は指摘しなかった。
秋弦も、狐の楓を「奥方」などと口走っている角右衛門に、正気なのかと逆に問い返したいくらいだが、怒りを煽るのは得策ではない。やんわりと事の成り行きを問い質す。
「一体、何があったのだ?」
角右衛門は、懐紙を握りしめて唾を飛ばしながら訴えた。
「手紙を書いていたところ、いきなり背中に飛び掛かって来たのですっ! おかげで筆が滑って、ほぼ書きあがっていた手紙は台無し。私が驚いて立ち上がった拍子に、机から硯が落ち、汚れた畳の上に白狐が落ちたのですっ!」
まさか、角右衛門を押し倒して何かする気だったのかと、秋弦が驚きに目を見開いて振り返ると、楓はぴたっと畳の上に伏せたまま小声で説明した。
『秋弦さまに文を書いてみたいと思ったのです。それで、どのようにするのかを知りたくて、あちこちのお部屋を覗いたのですが、どこもとても忙しく人の出入りがあって。角右衛門様が、一番お暇のようだったので……』
角右衛門は大老という役職に就いているが、老中の相談役のようなもので、決まった執務があるわけではない。
老中や若い役人たちの相談に乗ったり、手紙や書類を添削したりといったことを請け負っている。
楓の目の付け所は悪くないし、楓からの文をぜひ読んでみたいと思うが、なにせ相手が悪い。
「すまなかったな、角右衛門。どうやら、楓は文に興味があったようだ。あとで、私が教えてやるから、もう邪魔はしない」
「文だけでなく、女子の振舞いについても、よぅく言い聞かせてくだされ」
角右衛門は大真面目で主張するが、そもそも女子の振舞いではなく、狐の振舞いだろう。
寺社奉行が、突然激しく咳き込んでいるのは、笑いを堪えるために違いない。
「よくわかった。楓には、私から話す」
角右衛門は、じろりと楓をひと睨みし、なんとも返答に困る小言を残して退出した。
「殿。嫁の尻に敷かれてよいのは、祝言をあげてからですぞ!」
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