キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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きつねが食べるもの 2

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 まずは……。

 一度夜着から抜け出した楓は、狐から人間へと再び姿を変え、すっかり熟睡している秋弦の足元から潜り込んだ。

 帯を緩めたいところだけれど、秋弦を転がすのは難しそうなので、とりあえず裾を割り開く。

 下帯は……ぐるぐる巻く難しいのではなくてよかったとほっとする。

 ものすごくどきどきする。

 落ち着いて、右近と左近が言っていたことを必死に思い出そうと頭を捻りながら、取り敢えず触ってみることにした。

 人間も狐も、そんなに変わらないはず……。

「ええと……」

 手触りのいい布の上から、ふくらみを撫でてみると、ぴくりと反応が返って来た。

 秋弦が跳ね起き、ガバッと夜着を捲る。

「……なっ……なにを……」

 上体を起こした秋弦は、目元を赤くして息を荒らげているが、すぐに逃げようとはしなかった。

 楓は、じっとその瞳を見つめ、ちょとした妖術をかける。
 ほんの一時、頭がぼうっとして、身体が思うように動かなくなる術だ。

「秋弦さまを気持ちよくしたいんです」

「うっ……だっ……駄目だっ……」

 秋弦は、仰向けに倒れ込んだきり、ぎゅっと眉根を寄せて目をつぶり、微かに開いた唇で荒い呼吸を繰り返している。

「……秋弦さま?」

 しっとりと汗で濡れた額に貼り付いた金の髪を払うと、いきなり手首を掴まれ、転がされた。

 楓に馬乗りになった秋弦の目は、ギラギラと金色に光っていた。

「煽っておいて……いまさら逃げられはしないぞ」

 大きな手が、楓の柔らかな胸をぎゅっと掴んだ。

 あまりの力強さに顔をしかめると、秋弦は力を緩め、柔らかさを堪能するようにゆっくりと揉みはじめる。

「やばい……やわらかい……」

 やばいとやわらかいを交互に繰り返す秋弦の目が、輝いている。

 右近と左近が言うには、人間の雄は雌の胸とかお尻とか、柔らかい場所が好きらしい。
 それなりにちゃんと真似て化けてはいたけれど、秋弦は気に入ってくれたようだ。

 それよりも、背中や腰がぞわぞわしたり、お腹がむずむずしたり、ときどき「あんっ」なんて、鳴き声をあげてしまうのは大丈夫なのかとっても気になる。

 秋弦が無言なので、何だかきいてはいけない気もして、楓はもぞもぞと身動ぎしていたが、ふと胸に顔を埋めかけていた秋弦が顔を上げ、目が合った。

 金茶色の髪と瞳に真っ白な肌。
 照葉の国のものとは違う造りの顔かたちは、異形ではあるのかもしれないけれど、美しい。

「楓……おまえの中に入れてくれるか?」

 何だかとっても辛そうな顔をして、秋弦が尋ねる。

 襲ったのは楓なのに、優しいお殿さまはいつだって相手のことを――照葉の国のことを考えている。
 
 こんなときくらい、自分の欲望に忠実でもいいはずなのに、そうはできない秋弦が楓はやっぱり好きだった。

「はい……秋弦さまのお好きになさってください」

 にっこり笑って頷くと、秋弦は唸り声を上げて楓に襲いかかった。
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