キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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きつねの夜這い 7

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 人間は、やましいことがあるときや、嘘を吐いているときは目を合わせないと仲間から聞いていた。

 秋弦にこの姿を気に入ってもらえなかったら、つがいにはなれない。
 秋弦は人間だから、白狐の楓をつがいにはしてくれないだろう。

「しづるさまの、嘘つき……」

 ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ち、鮮やかな青色の夜着に大きな染みができる。

「嘘ではない」

 秋弦の手が楓の肩に回り、ぐいっと引き寄せられる。
 滑らかな羽二重の襦袢越しに、その熱が伝わって来る。

「楓……楓は、なぜこんな格好をしているんだ?」

 楓は、秋弦と同じ白い襦袢という床に入る格好をしている。

 目的は、もちろんただ一つだが、正直に言っていいものか。
 すっかり忘れてしまったが、右近左近は何度も『それとなく』という言葉を使っていた気がする。

 しかし、耳元で囁く声は穏やかでも甘くはない。
 きっと、嘘をついてもすぐにバレてしまう。

 楓は、ぎゅっと秋弦の衿を掴み、震えながら正直に訴えた。

「秋弦さまと……つがいになりたくて」

 秋弦が、はっと息を呑んだ様子が伝わって来た。

 頬を寄せた胸の鼓動が落ち着きなく速くなり、触れ合ったところから生まれる熱が全身を巡る。

 秋弦の大きな手が背中を滑り降り、帯で戒められている腰のあたりをさまよい始めるのに勇気づけられて、楓はずっと温めていた想いを告げた。

「ずっと、お慕いしておりました」

「……ずっと?」

 戸惑う秋弦の様子に、やはり自分のことを思い出してくれていないのだと知って幾分傷ついたが、ならばこれから知ってもらえばいいだけだと思い直す。

「おまえは、私を知っているんだな?」

「はい。でも、ずっと昔のことです。昔は昔。今は今」

 楓は、もっと秋弦の傍にいきたくて、その膝の上に乗るようにして身を寄せる。
 秋弦は、一瞬身体を強張らせたものの、楓を押しやったりはしなかった。

「私は、十年前にかどわかしに遭って、ひと月後に伊奈利山で見つかったんだが、その時のことを何一つ覚えていない。……楓とは、そこで遭ったのだろう?」
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