26 / 159
きつねの夜這い 4
しおりを挟む
静まり返った照葉城の奥の奥。
草木も眠る、お殿さまの秋弦も眠る丑三つ時。
どんな男もイチコロだという技を楓に教え込んだ後、豊受姫の力を借りた右近と左近は準備万端整った楓を直接お殿さまの寝所へ送り込んだ。
『いってらっしゃい、楓』『がんばってね、楓』と小声で言い残し、右近と左近が消えてしまうと、楓はつい四つん這いの姿勢ですやすやと眠る秋弦に近寄りかけ、慌てて立ち上がった。
ついさっきまで教わっていた、四つん這いの姿勢が最適だという技のことで頭がいっぱいだ。
――ふにゃふにゃを、こちこちにする。それから、でろでろにして、びちょびちょにする? ええと、びちょびちょにするんじゃなくて、なるんだったっけ……?
あれこれと詰め込まれた手順がうっかり頭の中からこぼれ落ちないように、草餅の入った重箱を抱え、できるだけそうっと歩く。
慎重に歩いていた楓だったが、重箱のせいで足元が見えず、秋弦が眠ってる場所が一段高い作りになっていることに気付けなかった。
「あっ!」
けつまずいてつんのめり、しまった! と思ったときにはすでに遅かった。
重箱から飛び出した草餅が、穏やかな寝息を立てて熟睡していた秋弦の上にバラバラと降り注いだ。
「――何奴っ!?」
ガバッと布団をはねのけて、枕元に置かれていた脇差を引き抜いた秋弦に詰め寄られ、楓は「ひっ」と乾いた悲鳴を上げて固まった。
「……かえで?」
秋弦は夜目が効くらしく、ほのかな行灯の青白い光でも這いつくばっている楓を見分けると、ぽかんとした表情になる。
刀を収め、楓の目の前に膝を突こうとした秋弦は、手をついた途端に悲鳴を上げかけた。
「――っ!」
思い切り押し潰された草餅からはみ出た餡子が、秋弦の手のひらにべったりとくっついている。
秋弦はきょろきょろと辺りを見回し、畳の上に散らばる物を見事に言い当てた。
「……草餅?」
草木も眠る、お殿さまの秋弦も眠る丑三つ時。
どんな男もイチコロだという技を楓に教え込んだ後、豊受姫の力を借りた右近と左近は準備万端整った楓を直接お殿さまの寝所へ送り込んだ。
『いってらっしゃい、楓』『がんばってね、楓』と小声で言い残し、右近と左近が消えてしまうと、楓はつい四つん這いの姿勢ですやすやと眠る秋弦に近寄りかけ、慌てて立ち上がった。
ついさっきまで教わっていた、四つん這いの姿勢が最適だという技のことで頭がいっぱいだ。
――ふにゃふにゃを、こちこちにする。それから、でろでろにして、びちょびちょにする? ええと、びちょびちょにするんじゃなくて、なるんだったっけ……?
あれこれと詰め込まれた手順がうっかり頭の中からこぼれ落ちないように、草餅の入った重箱を抱え、できるだけそうっと歩く。
慎重に歩いていた楓だったが、重箱のせいで足元が見えず、秋弦が眠ってる場所が一段高い作りになっていることに気付けなかった。
「あっ!」
けつまずいてつんのめり、しまった! と思ったときにはすでに遅かった。
重箱から飛び出した草餅が、穏やかな寝息を立てて熟睡していた秋弦の上にバラバラと降り注いだ。
「――何奴っ!?」
ガバッと布団をはねのけて、枕元に置かれていた脇差を引き抜いた秋弦に詰め寄られ、楓は「ひっ」と乾いた悲鳴を上げて固まった。
「……かえで?」
秋弦は夜目が効くらしく、ほのかな行灯の青白い光でも這いつくばっている楓を見分けると、ぽかんとした表情になる。
刀を収め、楓の目の前に膝を突こうとした秋弦は、手をついた途端に悲鳴を上げかけた。
「――っ!」
思い切り押し潰された草餅からはみ出た餡子が、秋弦の手のひらにべったりとくっついている。
秋弦はきょろきょろと辺りを見回し、畳の上に散らばる物を見事に言い当てた。
「……草餅?」
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました~
美保馨
恋愛
ある日突然、澪は金持ちの美男子・藤堂千鶴に見染められる。しかしこの男は変態で異常なストーカーであった。澪はド変態イケメン金持ち千鶴に翻弄される日々を送る。『誰か平凡な日々を私に返して頂戴!』
★変態美男子の『千鶴』と
バイオレンスな『澪』が送る
愛と笑いの物語!
ドタバタラブ?コメディー
ギャグ50%シリアス50%の比率
でお送り致します。
※他社サイトで2007年に執筆開始いたしました。
※感想をくださったら、飛び跳ねて喜び感涙いたします。
※2007年当時に執筆した作品かつ著者が10代の頃に執筆した物のため、黒歴史感満載です。
改行等の修正は施しましたが、内容自体に手を加えていません。
2007年12月16日 執筆開始
2015年12月9日 復活(後にすぐまた休止)
2022年6月28日 アルファポリス様にて転用
※実は別名義で「雪村 里帆」としてドギツイ裏有の小説をアルファポリス様で執筆しております。
現在の私の活動はこちらでご覧ください(閲覧注意ですw)。
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している
miniko
恋愛
「君を愛する事は無い」
女嫌いの公爵様は、お見合いの席で、私にそう言った。
普通ならばドン引きする場面だが、絶対に叶う事の無い初恋に囚われたままの私にとって、それは逆に好都合だったのだ。
・・・・・・その時点では。
だけど、彼は何故か意外なほどに優しくて・・・・・・。
好きだからこそ、すれ違ってしまう。
恋愛偏差値低めな二人のじれじれラブコメディ。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる