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きつねの夜這い 2
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店は、お殿さま以外の人間には見えないようにもしてくれていて、楓はじっくりたっぷり色んな人間を観察することができた。
色とりどりの着物を着たつがいや親子が、楽しそうな顔をして行き来する様を見ているだけで楽しかった。
「それで、草餅を届けた後はどうするの?」
「どうするって……」
それはもちろん……。
楓は、「きゃーっ!」と叫んで再びごろんごろんと横に三回ほど転がった。
右近と左近はそんな楓を憐れむような眼差しで見下ろし、溜息を吐く。
「楓は知らないのかもしれないけれど、人間は狐と違って求愛したその日につがいになったりはしないよ」
「とくに、お殿さまみたいな偉い人たちは、祝言をあげるまで何年もかかることもあるんだ。キツネのお殿さまは例外だけど、普通は子供のころから許嫁がいるよ」
「まぁ、人間のお姫さまだったら、お殿さまがひと目惚れしたとか言えば、そのままお嫁さんになれるかもしれないれど」
「でも、楓は人間でも、お姫さまでもないでしょう?」
「……でも……でも、母さまだって……」
母の葛葉だって、人間とつがいになったのだから、自分と秋弦だってなれる。
長い間離れていたから、秋弦は思い出すのに時間が掛かっているだけだ。
きっとすぐに、楓のことを思い出してくれるはずだ。
楓がそう言い募れば、右近と左近はもう一度溜息を吐く。
「葛葉さまの旦那さまは、お殿さまじゃなかったからね」
「それに、ちゃんと相思相愛だったしね」
「楓とお殿さまは、違うでしょう」
「友だちですらないよね」
グサグサと痛いところを突かれ、楓は「ううっ」と丸くなった。
お城へ行って、秋弦に会えばそれだけで全部うまくいくと思っていたのに、人間の習わしは狐ほど簡単ではないらしい。
しかも……もしも秋弦が楓のことをまったく思い出さなかったら、諦めなくてはならない。
そう、葛葉に言われていた。
「いやっ! そんなのいやっ!」
すっくと立ち上がった楓は、「とん」と前方へ一回転すると娘姿になり、重箱に詰めた草餅をひっつかんで飛び出そうとした。
色とりどりの着物を着たつがいや親子が、楽しそうな顔をして行き来する様を見ているだけで楽しかった。
「それで、草餅を届けた後はどうするの?」
「どうするって……」
それはもちろん……。
楓は、「きゃーっ!」と叫んで再びごろんごろんと横に三回ほど転がった。
右近と左近はそんな楓を憐れむような眼差しで見下ろし、溜息を吐く。
「楓は知らないのかもしれないけれど、人間は狐と違って求愛したその日につがいになったりはしないよ」
「とくに、お殿さまみたいな偉い人たちは、祝言をあげるまで何年もかかることもあるんだ。キツネのお殿さまは例外だけど、普通は子供のころから許嫁がいるよ」
「まぁ、人間のお姫さまだったら、お殿さまがひと目惚れしたとか言えば、そのままお嫁さんになれるかもしれないれど」
「でも、楓は人間でも、お姫さまでもないでしょう?」
「……でも……でも、母さまだって……」
母の葛葉だって、人間とつがいになったのだから、自分と秋弦だってなれる。
長い間離れていたから、秋弦は思い出すのに時間が掛かっているだけだ。
きっとすぐに、楓のことを思い出してくれるはずだ。
楓がそう言い募れば、右近と左近はもう一度溜息を吐く。
「葛葉さまの旦那さまは、お殿さまじゃなかったからね」
「それに、ちゃんと相思相愛だったしね」
「楓とお殿さまは、違うでしょう」
「友だちですらないよね」
グサグサと痛いところを突かれ、楓は「ううっ」と丸くなった。
お城へ行って、秋弦に会えばそれだけで全部うまくいくと思っていたのに、人間の習わしは狐ほど簡単ではないらしい。
しかも……もしも秋弦が楓のことをまったく思い出さなかったら、諦めなくてはならない。
そう、葛葉に言われていた。
「いやっ! そんなのいやっ!」
すっくと立ち上がった楓は、「とん」と前方へ一回転すると娘姿になり、重箱に詰めた草餅をひっつかんで飛び出そうとした。
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