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お殿さまのおしのび 2
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秋弦は、昨日積み残した手紙を読み、必要な返事をしたためてから城を出た。
いつものように大店の立ち並ぶ通りの賑わいを眺め、細々したものを売る表店に並べられた見事な職人技の作品の数々を眺めた。
子供を通わせる親が増えてきたという寺子屋で、顔に墨をつけ合う子供の様子に笑いを堪え、城下の活気あふれる様子と人々が平和に暮らしている様子を確かめて、ほっとした。
お忍び散歩の締めくくりとして、いつものように小伊奈利神社にお参りし、参道に立ち並ぶ屋台を制覇すべく、最後のだんごを買い求めようとしていた秋弦は「お殿さま」と呼ばれた気がした。
ギクリ、としながら恐る恐る振り返り、泣きべそをかいている子供を発見した。
「おやおや。兄上のせいですねぇ……いい加減、潔く被衣など脱いでしまったらどうですか? どうせ、ほとんど身バレしてるんですから」
秋弦は、黒の紗綾形模様の小袖と白鼠の半袴を身に纏い、お小姓よろしく刀を抱えている弟の春之助をじとっと睨んだ。
「ほとんどであって、完全にではないだろう」
「往生際が悪いですね。お忍び中だから、きっと正体を知られたくないのだろうと、みな気を遣ってくれているだけですよ。そんな怪しい格好で、屋台を端から端まで食べつくすなんてことをすれば、噂になるに決まっているでしょう? 髪は隠せても瞳の色は隠せませんし、兄上の場合、黙っていてもいかにもお殿さまという雰囲気が漂っています」
「……」
春之助は、秋弦の五つ下だが可愛らしい顔をしてズバズバと物を言う。
近頃では、口うるさいことにかけては、角右衛門を抜いて頂点に君臨する勢いだ。憎たらしいことこの上ないが、その口から吐き出されるのは正論で、反論するのは難しい。
「そろそろ店じまいの時間だろう? 残りのだんごをすべて貰う」
秋弦は、だんご屋の主人に小粒銀を手渡した。
すでに夕七ツだから、客足も引き始める。残り三十本ほどあるが、売り切れるとは思えなかった。
「ひえっ! お、お殿さま、ぎ、銀はいけませんぜ、銀は! 大金すぎます!」
春之助の言う通り、思い切り身分がバレていたことを知っていささか傷ついたが、突っ返そうとする主人に首を振って「残りは次の分の勘定に回してくれ」と言い置き、まずはだんごを二本取り上げた。
いつものように大店の立ち並ぶ通りの賑わいを眺め、細々したものを売る表店に並べられた見事な職人技の作品の数々を眺めた。
子供を通わせる親が増えてきたという寺子屋で、顔に墨をつけ合う子供の様子に笑いを堪え、城下の活気あふれる様子と人々が平和に暮らしている様子を確かめて、ほっとした。
お忍び散歩の締めくくりとして、いつものように小伊奈利神社にお参りし、参道に立ち並ぶ屋台を制覇すべく、最後のだんごを買い求めようとしていた秋弦は「お殿さま」と呼ばれた気がした。
ギクリ、としながら恐る恐る振り返り、泣きべそをかいている子供を発見した。
「おやおや。兄上のせいですねぇ……いい加減、潔く被衣など脱いでしまったらどうですか? どうせ、ほとんど身バレしてるんですから」
秋弦は、黒の紗綾形模様の小袖と白鼠の半袴を身に纏い、お小姓よろしく刀を抱えている弟の春之助をじとっと睨んだ。
「ほとんどであって、完全にではないだろう」
「往生際が悪いですね。お忍び中だから、きっと正体を知られたくないのだろうと、みな気を遣ってくれているだけですよ。そんな怪しい格好で、屋台を端から端まで食べつくすなんてことをすれば、噂になるに決まっているでしょう? 髪は隠せても瞳の色は隠せませんし、兄上の場合、黙っていてもいかにもお殿さまという雰囲気が漂っています」
「……」
春之助は、秋弦の五つ下だが可愛らしい顔をしてズバズバと物を言う。
近頃では、口うるさいことにかけては、角右衛門を抜いて頂点に君臨する勢いだ。憎たらしいことこの上ないが、その口から吐き出されるのは正論で、反論するのは難しい。
「そろそろ店じまいの時間だろう? 残りのだんごをすべて貰う」
秋弦は、だんご屋の主人に小粒銀を手渡した。
すでに夕七ツだから、客足も引き始める。残り三十本ほどあるが、売り切れるとは思えなかった。
「ひえっ! お、お殿さま、ぎ、銀はいけませんぜ、銀は! 大金すぎます!」
春之助の言う通り、思い切り身分がバレていたことを知っていささか傷ついたが、突っ返そうとする主人に首を振って「残りは次の分の勘定に回してくれ」と言い置き、まずはだんごを二本取り上げた。
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