キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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きつねの草餅 3

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「でも、城下町に入りたいってことは……まさか人間なのかい?」

 あずき婆の声は大きすぎると思いながら、楓はもう一度頷く。

「こりゃたまげた。ほんとうのお狐さまなんだねぇ」 

 あずき婆が言いたいのは、母の葛葉が昔人間の男と夫婦になった話のことだろう。
 金狐の如月よりも、人間の方がいいと思う自分は、確かに母の血を引いていると楓も思う。

「好いた男に会いたくて山を下りて来たとは、一途ではないか。あずき婆、白狐の想いが成就するよう協力してやらねばなるまい」

 臼の力強い言葉に、あずき婆も「うんうん」と頷く。

「名前はなんて言うんだい?」

「楓……」

「よし、楓。任せておけ。しかし、まずは餅をつかなくては」

 瓶長が、それならばと答える。

しずかを呼べばよい」

「あのう……ヨモギはある?」

 餅はなんとかなるとしても、ただの白い餅では駄目だ。
 楓が草餅にしたいのだと言うと「うーん、ヨモギか……」とあずき婆は唸ったが、「一晩くらいは我慢できるだろう」と頷いた。

「家の裏手の藪にあるから、取っておいで。でも、その手じゃねぇ……人間になれるのかい?」

 楓はくるんと前に一回転して、黒い瞳に黒い髪を垂髪すいはつにした人間の娘に姿を変えた。
 赤紅あかべに色の子持格子柄こもちこうしがらの着物に半襟はんえりと帯は黒、紅葉や松葉の柄が控えめに入っている。

「おやおや、なかなかべっぴんだ」

「うふふ」

 褒められると嬉しくなる。

 人間の美人が描かれたという錦絵にしきえを見て、何度も練習したのだ。

 楓は、あずき婆が貸してくれた、だらんと口の裂けた提灯お化けとザルを持って家の裏手へ回り、匂いを頼りに歩き回った。

 ザルいっぱいにヨモギを摘んで戻ると、いつの間にか臼の中で白い餅が杵もないのにぺったんぺったんとつき回されている。

「うへぇ……ああ、酷い匂いだね。さっさと入れておしまい」

 土間で炊いたあずきをかき回していたあずき婆が、鼻をつまんで顔を背ける。

 柄杓が注いでくれる水でヨモギを洗い、空いていた鍋に入れると竈の火がごうごうと燃え盛り、あっという間に茹で上がった。

 水気を切って、細かく切り刻み、ひとりでにうねる餅に投入すると臼が呻きながらも、宣言する。

「うう……く、苦しいが、耐えてみせよう!」
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