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きつねの婿さがし 3
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◇◆◇
照葉の国の西端に、お椀を逆さにしたような形でちょこんと居座っている伊奈利山にはお狐さまが住むと言われていた。
お狐さまは九本の尾を持った三千年の時を生きている白狐で、人間に化けることも朝飯前。人間との間に子供を設けたこともあるとかないとか。しかも、その子供は今のお殿様の遠いご先祖様にあたるという言い伝えもある。
そんなお狐さまは、照葉の国の人々にとって畏怖と崇拝の対象だ。
お狐さまは、豊作をもたらす豊受姫という女神様の神使で、田畑を荒らす小動物などを狩ってくれる尊い存在として崇められる一方で、恐れられてもいた。
お狐さまの許しなく山に足を踏み入れてさんざん道に迷わされ、延々と歩き続けてようやく山を下りたら、百年が過ぎていた。さまよっているうちに、切り立った崖の下へ落ちて死んでしまった。さらには、伊奈利山の木を勝手に伐ろうとした強欲な商人が、どういうわけか城下町で野狐の大群に襲われてかみ殺された、などなど物騒な言い伝えも残っている。
とは言え、ここ百年ほどは近隣諸国との争いごともなく、太平な世の中であったので、伊奈利山を荒らす不届きものも長らく現れなかったのだが……。
「人間の臭いがする」
朱と金で飾られた拝殿のさらに奥にある本殿で、じっと神鏡を覗き込んでいた母の葛葉がすっと通った鼻筋に皺を寄せ、金の瞳をギラギラ光らせる様を見て、楓は首を竦めた。
「しかも、よそ者じゃ!」
葛葉は、くわっと牙を剥き出しにし、控えていた金・銀・白・黒の色とりどりの毛並みを持つ百匹ほどの狐たちを振り返った。
「一人残らず、追い立てよ!」
狐たちはすぐさま身を翻して拝殿から駆け出していく。
四色の狐たちは、拝殿の外で待っていた仲間たちを引き連れて、倍の数に膨れ上がるとあっという間に下界へと飛び出して行った。
楓も一緒に行きたかったが、尻尾が一本しかなく、毛並みが綺麗に整っていない狐は半人前だから、山を下りてはいけないと言いつけられている。
人間には、いい人間と悪い人間がいて見分けるのが難しいから、尻尾が四本に増えて大人になるまでは近づいてはいけないとも言われていた。
照葉の国の西端に、お椀を逆さにしたような形でちょこんと居座っている伊奈利山にはお狐さまが住むと言われていた。
お狐さまは九本の尾を持った三千年の時を生きている白狐で、人間に化けることも朝飯前。人間との間に子供を設けたこともあるとかないとか。しかも、その子供は今のお殿様の遠いご先祖様にあたるという言い伝えもある。
そんなお狐さまは、照葉の国の人々にとって畏怖と崇拝の対象だ。
お狐さまは、豊作をもたらす豊受姫という女神様の神使で、田畑を荒らす小動物などを狩ってくれる尊い存在として崇められる一方で、恐れられてもいた。
お狐さまの許しなく山に足を踏み入れてさんざん道に迷わされ、延々と歩き続けてようやく山を下りたら、百年が過ぎていた。さまよっているうちに、切り立った崖の下へ落ちて死んでしまった。さらには、伊奈利山の木を勝手に伐ろうとした強欲な商人が、どういうわけか城下町で野狐の大群に襲われてかみ殺された、などなど物騒な言い伝えも残っている。
とは言え、ここ百年ほどは近隣諸国との争いごともなく、太平な世の中であったので、伊奈利山を荒らす不届きものも長らく現れなかったのだが……。
「人間の臭いがする」
朱と金で飾られた拝殿のさらに奥にある本殿で、じっと神鏡を覗き込んでいた母の葛葉がすっと通った鼻筋に皺を寄せ、金の瞳をギラギラ光らせる様を見て、楓は首を竦めた。
「しかも、よそ者じゃ!」
葛葉は、くわっと牙を剥き出しにし、控えていた金・銀・白・黒の色とりどりの毛並みを持つ百匹ほどの狐たちを振り返った。
「一人残らず、追い立てよ!」
狐たちはすぐさま身を翻して拝殿から駆け出していく。
四色の狐たちは、拝殿の外で待っていた仲間たちを引き連れて、倍の数に膨れ上がるとあっという間に下界へと飛び出して行った。
楓も一緒に行きたかったが、尻尾が一本しかなく、毛並みが綺麗に整っていない狐は半人前だから、山を下りてはいけないと言いつけられている。
人間には、いい人間と悪い人間がいて見分けるのが難しいから、尻尾が四本に増えて大人になるまでは近づいてはいけないとも言われていた。
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