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きつねの婿さがし 2
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如月は、楓よりふた回りも大きく、力も強い。
そのまま腰を押し付けられそうになったので、ぺたりと座り込んで抵抗すると、背後から囁かれた。
「楓。ずっとつがいになれるのを待ってたんだ。最初は、知らない奴よりも俺のほうがいいだろう? たくさん子供を産めるぞ」
確かに、見知らぬ狐とつがいになんてなりたくないが、だからと言って如月となりたいわけでもない。
楓は、如月があまり好きではなかった。
正確に言えば、昔は好きだったこともあるけれど、今は好きではない。
金狐である如月は子供の頃からとても強く、楓の母にも気に入られていたが、楓にとっては羨ましい存在であり、苦手な存在でもあった。
生まれたての頃は、如月の後をくっ付いてまわり、一緒に眠ったりもしていたけれど、ひとりで狩りができるようになってからは、意地悪をされた記憶しかない。獲物を横取りされたり、散歩中に突然追いかけ回されたり、なかなか色の揃わない毛並みを貶されたりと、いい思い出がない。
無言のままじっと動かずにいると、如月は痺れを切らして、力任せに楓を押し倒した。
「やっ!」
がぶり、とその鼻先に噛みついて、如月が怯んだ隙にするりと抜け出す。
「このっ……!」
カッと見開かれた金色の瞳とクワッと開かれた口から見えた牙に震え上がりそうになったが、足を踏ん張り、睨み返した。
いつでも自信満々で、放っておいても女狐のほうから寄って来る如月には、自分を嫌う女狐がいるなんて微塵も考えたことがないのだろう。
楓はすっと息を吸い込んで呼吸を整えると、きっぱりはっきり宣言した。
「如月とつがいになるのがいやなの。だって、如月のこと……嫌いだから!」
如月は、呆然とした様子で目を大きく見開いていた。
その様子に、逃げるなら今しかないと思い定め、楓はじりじりと後退りする。
如月の六本の尻尾が地面に向かってしおれるように垂れているのを確かめて、止めを刺した。
「如月とは、絶対につがいにならないっ!」
そのまま身を翻すと、赤い鳥居の隧道へ飛び込んだ。
走りに走り、転がるようにして山を駆け下りて、楓はただひたすらに照葉の国の真ん中にあるお城を目指して駆け続けた。
――十年前の約束を果たすために。
そのまま腰を押し付けられそうになったので、ぺたりと座り込んで抵抗すると、背後から囁かれた。
「楓。ずっとつがいになれるのを待ってたんだ。最初は、知らない奴よりも俺のほうがいいだろう? たくさん子供を産めるぞ」
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無言のままじっと動かずにいると、如月は痺れを切らして、力任せに楓を押し倒した。
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楓はすっと息を吸い込んで呼吸を整えると、きっぱりはっきり宣言した。
「如月とつがいになるのがいやなの。だって、如月のこと……嫌いだから!」
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その様子に、逃げるなら今しかないと思い定め、楓はじりじりと後退りする。
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「如月とは、絶対につがいにならないっ!」
そのまま身を翻すと、赤い鳥居の隧道へ飛び込んだ。
走りに走り、転がるようにして山を駆け下りて、楓はただひたすらに照葉の国の真ん中にあるお城を目指して駆け続けた。
――十年前の約束を果たすために。
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