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偽物ではなく、本物の天使は翼をしまう 4

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 テレンスとマーゴットは、三日間ほど滞在した後、来春の再会を約束して王都へ帰って行った。

 二人を送り出すと、賑やかだった空気はあっという間に消え、屋敷の中はしんと静まり返った。

 寂しいと思ったのはビヴァリーだけではないようで、ハロルドがぽつりと呟く。

黒猫マーゴットがいないだけで、やけに静かに感じるな……」

「でも、春からは凄く賑やかになると思うけど?」

「まぁ、それは間違いない」

 テレンスは、侯爵家の広大な庭を見るなり、猪のごとく突進し、老齢の庭師を質問攻めにした。

 弟子入りしたいと言われた庭師が頷いたのは、そのあまりの熱意と迫力に、命の危機を感じ取ったからだろう。

 ギデオンも、テレンスならば身上調査の必要もないし、マーゴットのこともブレント競馬場で一緒に観戦していたため知っている。

 庭師が弟子にしたいというのならと、あっさり認めてくれた。

 かくして、春からテレンスとその母親メアリ、マーゴットの三人はグラーフ侯爵領の住人となることが決定した。

 ハロルドだけは、陸軍大臣の嫌みに晒されると呻いたが、これまでのテレンスの献身に報いることができるのは嬉しいと思っているようだ。

「ハル。今夜はあっちの……クレイヴン厩舎に泊まってもいい?」

「かまわないが……」

「朝の散歩に行きたいの」

 一緒に厩舎へ向かっていたハロルドが、一瞬足を止める。

「……ドルトンと?」

「ハルと」

 ビヴァリーの答えを聞いた途端、ハロルドは嬉しそうな笑みを浮かべた。

(な、なんで急に笑うの……)

 ハロルドが、通りがかった従僕に今晩と明日の朝の分の食料を適当に用意してくれと満面の笑みで頼むものだから、うろたえた従僕が舶来品の高級そうな壺にぶつかり、危うく割りそうになっていた。

(危ないから、事前にお知らせしてほしいんだけど)

 その後は、幸いなことに誰とも行き合わなかったので、上機嫌のハロルドの攻撃で被害が発生することなく、厩舎へ辿り着いた。

 ビヴァリーは厩舎からドルトンを、ハロルドはギデオンが競売で買った葦毛の牡馬を引き出した。

 どちらも気位が高いため、仲良く顔を突き合わせるなんてことはしない。

 適度な距離を保ち、時々競い合いながら、ちょっとした小川や茂みを越え、あちこち寄り道してクレイヴンまで走った。

 厩舎前で井戸から汲んだ水を飲ませながらブラッシングしたり、蹄の手入れなどをし、厩舎に入れたときには、日暮れ間近だった。

 真新しい厩舎に二頭とも少し落ち着かない様子はあったものの、慣れれば大丈夫だろう。

 ハロルドが出がけに受け取ったバスケットには、パンやローストビーフ、スコーン、パイにプディング、そしてオレンジがぎっしり詰まっていた。

 食堂で、ハロルドが淹れてくれた美味しいお茶を飲み、ちょっとずつ料理をつまむ。

 ものすごい勢いでバスケットに入っていた料理の半分くらいを平らげたハロルドは、皿を洗い、お湯を沸かして入浴の準備をし、と実に甲斐甲斐しく働いてくれた。

 ビヴァリーが入浴を終えて居間に戻ると、ハロルドはいつの間にかここにワインを常備していたらしく、ナイトガウン姿でグラスを傾けながら寛いでいた。

「ビヴァリーも飲むか?」

 いつもならいらないと言うところだが、今日は色々と初めてのことに挑戦しなくてはならない。

 パブでよく聞いた「景気づけ」とか言うのが必要だろうと、頷いた。

「甘くて飲みやすいから、飲み過ぎないよう……ビヴァリーっ!?」

 パブの客がやっていたように、ハロルドがなみなみと注いでくれたワインをごくごくと飲み干す。

「……ハル。今日は、ハルにご褒美があるの」

 ビヴァリーから、空になったグラスを取り戻したハロルドは「信じられない」とでも言うように鳶色の瞳を見開いている。

「……え? ああ、ご褒美? 何のだ?」

「たくさん……我慢してくれたでしょ」

「我慢……?」

「そう……だから、ハルが喜ぶことをしてあげようと思って」

 なんだかくらくらする気がして、取り敢えずハロルドの横に座る。

「ビヴァリー……酔っているんじゃないか?」

「うん」

「果汁でも飲んで、寝たほうが……」

「まだ、眠くない」

「いや、横になれば眠くなるかもしれないから……」

「横になるのは、ハルでしょ」

「は?」

 何となく逃げ腰のハロルドに、にじり寄り、暴れても制御できるようにしっかり跨る。

「び、ビヴァリー……」

 ハロルドがいつもするように、まずはキスをする。

 ちょうど唇が開いていたので、舌も入れてみる。

 なかなか口を大きく開かないので、顎を掴んで無理やり引っ張ろうとすると、ぐっと背中に回した手で抱き寄せられる。

 舌を絡め、歯列をなぞり、口の中の柔らかなところを弄りながら、ハロルドがビヴァリーのナイトガウンを引き下ろして行く。

 固い指先が胸に触れたようとしたところで、がしっと手を掴んだ。

「まだ、ダメ」

「…………」

 あきらかに不服そうな顔をしていたハロルドは、ビヴァリーがガウンの襟を開き、手を差し入れると驚愕の表情になった。

「ハル……まだいっちゃダメ」

「な……まっ……待て、ビヴァリー、それはっ……」

「嫌なの?」

「………っ!」

 ガクガクと何度も頷くので、ビヴァリーは手を引き抜いて、ナイトガウンの帯を外しにかかった。

 こちらにはまだ完全に生活できるほど衣類を置いていないので、ビヴァリーと同じく、ガウンの下には何も着ていないようだし、簡単に脱がせることができるはずだ。

「ビヴァリーっ」

 手を押さえて抵抗しようとするので、仕方なく別の手を使う。

「ハル……ハルもさわりたいでしょ?」

 脱げかかっていたガウンを肩から落としたビヴァリーに、ハロルドの目は釘付けだ。

 ごくりと唾を飲み込むその顔には、警戒と欲望が交互に現れている。

 大混乱の隙をついて、無防備だった手を掴むと自らの胸へと導く。

「ハルのも、さわらせて?」

 後ろ手に、半ば無意識にビヴァリーの胸を揉んでいるハロルドのガウンの裾から、逞しい太股を伝い、その先にある高ぶりに指を這わせるとビクリと震えて身体を硬直させる。

 きゅっと軽く握りしめただけで、ハロルドが息を詰める。

 浅い呼吸で何とか鎮めようとして喘ぐ唇に口づけるとギラギラ光る瞳で睨まれた。

 高ぶりの先から滲むぬめりを広げるように、指で擦り、くびれを抉ると腰を引こうとする。

「逃げちゃダメ」

 お仕置きとしてぐっと強めに握ると目をつぶり、喉の奥で悲鳴を上げている。

「ハル?」

 形のいい耳に囁き、舌でそのくぼみを舐め上げると「うぁっ」と小さく声を上げる。

「これ、好き?」

 尋ねてみると、首を横に振る。

 あまりいじめて拗ねてしまっては困る。

 目的は、言うことを聞かせるというより、ご褒美をあげることだったと思い出し、震えるハロルドの膝の上から下りた。

 ハロルドは、荒い呼吸を繰り返しながら、どっと仰向けに倒れ込み、あきらかにほっとして油断しきっている。

「だから、ゴール前で油断しちゃダメって言ったでしょ」

 ビヴァリーは、ガウンに邪魔されていたものを自由にすると、根元に手を添えて先のほうをぺろりと舐めた。

「なっ!」

 起き上がったハロルドを見上げ、うっかり噛んだりしないように気を付けながら、呑み込んでいく。

「ふっ……だ、ダメだ……ビヴァリー……」

(大きいけど……顎が痛いけど……どこまで入れればいいのかな?)

 とても全部は入らないだろうと思いながら、吐きそうにならない程度で止める。
口ごと動かしたほうがいいのか、舐めたほうがいいのかわからなかったので、ちょっと舌を動かしてみようとすると、ハロルドが身体を強張らせる。

(気持ちいいのかな?)

 そのままでは辛いので口から引き抜きながら、楽になったところでざらりとした部分を舐め上げた。

「くっ……うぁっ……」

 どうしてもハロルドが我慢しようとするので、もうちょっと頑張らなくてはいけないらしいと思い、きちんとくわえられるところまで呑み込むと、じゅっと吸い付いた。

「うっ」

 吸い付いては緩め、少しずつ奥まで呑み込み、ゆっくりと引き抜く。

 もうちょっと強い刺激がいいのかもしれないと、手で握りながら先の方だけ舐めると、ハロルドが焦ったように身を捩る。

「ビヴァリーっ! ダメだっ……!」

 手で握っていたものがドクドクと脈打ち、膨れ上がる気配がする。

 驚いて顔を上げようしたら、ハロルドに頭を押さえられて逃れられなくなる。

 ぐっと奥まで突き入れられて、吐きそうになった喉の奥に何かが注ぎ込まれた。

 決して美味しいとは言えない味と匂いに涙が滲み、ようやくハロルドが引き抜いた途端、咳き込んだ。

「ぐふっ……」

「ビヴァリーっ!」

 我慢できずに吐き出そうとしたが、もう呑み込んでしまった後で、どうにもならない。

「ハルの……美味しくない……」

「俺のじゃなくたって、美味しくないっ! そもそも、注ぐ場所が違うっ! 何でこんな時にやるんだっ! 何か月も挿れてないのに耐えられるかっ!」

 ビヴァリーの口からこぼれた白っぽいものをガウンで拭い、ワインを飲ませながら、ハロルドは悪態を吐いていた。

 その様子に、喜ばれると思っていたご褒美が、実は嫌いなものだったかもしれないと、ビヴァリーは不安になった。

(吐きそうだし、美味しくないし、でも、顎が痛くても頑張ったんだけど……)

 マーゴットから聞いた通りにやったつもりだけれど、下手な騎手が乗れば名馬でも勝てないという言葉を思い出す。

「ハル……気持ちよくなかった?」

 ビヴァリーが恐る恐る確かめると、ハロルドは顔を赤くして唇をへの字にしていたが、ぼそっと呟いた。

「…………気持ちよかった」

「よかった! じゃあ、もう一回……二回目は上手く乗れる……」

 何事も練習が必要だ。

 馬だって、一日では乗れるようにならない。

 ビヴァリーが色々と忘れないうちにもう一度挑戦しようとしたところ、ハロルドが叫んだ。

「もういいっ! 次は、俺の番だっ!」

 いきなり抱え上げたビヴァリーを勢いに任せて膝の上に引き下ろそうとしたハロルドが、ハッとしたように手を止める。

「ハル……挿れたい?」

 わなわなと震える唇を指でなぞり、アルウィンのように大好きなもので釣られないよう目を背けている顔を覗き込む。

「ハル?」

「挿れたい……挿れたいにきまってるっ!」

「いいよ?」

 ビヴァリーが答えると、ハロルドがぽかんとした表情になる。

「挿れていいよ。今年はもう乗らないし、来年も……は、繁殖が先のほうがいいかなと思って……」

「繁殖……?」

「うん。今日だけじゃダメかもしれないけど、ひと月くらい毎日すれば……できるよね?」

「毎日……」

「たくさん我慢してくれたから、たくさんしていいよ。そのう……優秀な種牡馬でも、一回じゃ上手く種付けできないこともあるし……」

「種牡馬……種付け……?」

 ハロルドの目が段々虚ろになっていくのを見て、ビヴァリーはその頬を両手で包んで、お願いした。

「ハル、挿れて……お願い?」

 鳶色の瞳と目が合った瞬間、腰を掴まれ、引き下ろされた。

 ぐぷ、という音がして、いつの間にか濡れていた場所に熱い杭の先が触れたかと思うと、一気に奥まで貫かれる。

「ひっ……あああっ」

 二つに引き裂かれるような衝撃に、ビヴァリーが仰け反ると腰を持ち上げ、再び引き下ろす。

 何度も奥まで貫かれるうちに、より深くなっていく。

「あっ……やっ……ああっ、穴が……開いちゃうっ」

 あまりの衝撃に、このままでは腹部を突き破り、肺や喉まで達するのではないかと怯えるとハロルドが「こっちのほうがいいのか?」と呟く。

 奥まで貫かれたまま、腰を回すようにされると一気に快感が広がる。

「ひ、うっ」

「自分で乗りたいんじゃないのか?」

 つんと立ち上がった蕾を弾かれ、摘ままれると足の先まで痺れてしまう。

 まだ刺激を与えられていなかった芽を抉り出され、軽くこすられただけで達してしまう。

 ビクビクと震えながらくわえたハロルドのものに吸い付く襞の蠢き一つ一つを感じ取り、自然と腰が動いてしまう。

 止めようと思うのに、堪えようと思うのに、抑制すればするほど、繋がった場所から指先まで増幅した欲望がどんどん送り込まれていく。

 早く解放してくれなければ、欲望で窒息してしまいそうだ。

「ハル……」

 淫らな水音を立てて腰を振る。

 小刻みに訪れる絶頂に身体の内側がドロドロに溶けそうだ。

 それでも、待ちわびているものはまだ訪れない。

「ハル……」

 ねだるように唇を重ね、舌を絡めて吸い上げても、応えてくれない。

「ハル……お願い……お願いっ! ハル……」

 もう耐えきれないと泣きながら訴えると、ようやくハロルドはビヴァリーの身体を抱えて押し倒す。

 腰を打ち付けるようにして、突かれると求めていた場所が潤う。

「はっ……あっ……」

 自分では導くことができなかったところを攻められると、あっという間に昇り詰めた。

「あっ……ああっ……ハルぅ……っちゃう……」

 迫りくる嵐に吹き飛ばされないよう手を伸ばすと、しっかりと手を握り合うようにして大きな体に包まれる。

「ビヴァリー」

 目をつぶりかけたとき、名を呼ばれた。

 苦しさと喜びの入り混じった表情で見下ろすハロルドを見つめる自分もまた、同じような顔をしているのだろう。

 全身を痙攣させるような激しい嵐に翻弄されながら、ハロルドの一部が自分の中へと溶け込むのを感じた。

 ふわりと身体が浮き上がり、どこまでも昇っていくような感覚に戸惑っていると、引き止めるようにぎゅっと抱きしめられる。

 汗ばみ、火照った身体を抱きしめ返し、荒い呼吸を繰り返しながらビヴァリーはふと思った。

(これを毎日は……無理。死んじゃう)
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