本当は、二番目に愛してます

唯純 楽

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言うことを聞かない馬は、いりません 2

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「んっ」

 ハロルドは口づけながら、ソファの上へビヴァリーを引き倒すと、ワインの味のする舌を絡ませた。

 驚き、暴れようとしてもハロルドの身体の重みで身動きが取れない。

 歯がぶつかりそうになるほど激しいキスをしながら、ハロルドはシャツを脱ぎ捨て、ビヴァリーの色気も何もない、襟の詰まった紺色のワンピースの前ボタンを器用に外していく。

 レースもリボンもない簡易なコルセットはあっという間に外されて、頼りないシュミーズ姿になってしまう。

 薄い布地越しに、ハロルドの手が乳房を包み込むように触れると、身体の中を炎が通り抜けたように一瞬で熱が上がった。

 ようやく自由を得た唇を開き、必死に空気を求めて喘いでいると緩いシュミーズの襟を引き下げられる。

「ひゃっ」

 むき出しになった乳房を隠そうとした手は、あっさりハロルドの両手に捕らわれて、胸を見せつけるように大きく広げられた。

「こんなに敏感になっているということは……先に、飲んでいたのか?」

 ぴんと尖った頂に、ふっと息を吹きかけられただけで、ビヴァリーは仰け反った。

「やぁっ」

「はっ……相手を堕とすんじゃなく……自分が堕ちてどうする? それとも……これも演技か?」

 舌先で嬲られた瞬間、足の間から痺れるような快感が指先まで満ちる。

「――っ!」

 悲鳴を上げそうになって、ぎゅっと唇を噛み締めながら、身体を強張らせる。

 しばらくして、痺れが消えると、どっと汗が噴き出した。

「はっ……あっ……」

 荒い呼吸を繰り返していると、腰まで落ちたワンピースをだけでなく、ドロワーズまで引き抜かれた。

「……ゃっ!」

 起き上がろうとしても、膝裏を押し上げられては起き上がれない。
 そのまま足を広げられると、微かな水音がした。

「や、やだっ」

 恥ずかしくて必死に足を閉じようとしても、間にハロルドがいるのでどうしようもない。

「物欲しそうにヒクついている……」

 嘲るような笑みを浮かべたハロルドは、ビヴァリーの足元の方へと身体をずらしていく。

「は……ハル……?」

 何をする気なのだと見つめていると、ハロルドは持ち上げたビヴァリーの太股に吸い付いた。

「いっ……」

 微かな痛みに身動ぎするとすぐに離れたが、今度は人に見せたことなどない場所に顔を埋める。

「え、や、ああっ」

 驚く間もなく、ぬるりとしたものがいつの間にか濡れていた場所を舐め上げた。

 今まで感じたことのない感触に戸惑うビヴァリーに、何をされているのか理解する猶予を与えず、ハロルドは襞の間に隠れていた粒を弾き出した。

「ひっ」

 突然与えられた刺激にビクリと腰を浮かせると、熱い唾液を注がれる。

「う、あっ……ああっ」

 与えた唾液とビヴァリーから溢れる蜜をかき混ぜながら、ハロルドの舌は狭い空洞を抉り、長くて硬い指を差し入れて、蜜を塗り込めるように襞の隅々まで探る。

(お、かしくなる……くらい、気持ち、いい……)

 時々、秘密の場所の入り口にある粒を舌先でつつかれると、爪先まで痺れてしまう。

「このままだと、ソファを汚しそうだ……」

 呟いたハロルドが、涸れることなく溢れる蜜を強く吸い上げた瞬間、ビヴァリーは目を見開いて仰け反った。

「ひっ……あああーっ!」

 腰を浮かせ、ハロルドの唇に秘唇を押し当てて達し、痙攣しながらソファに沈みこむ。

 心臓は破裂しそうに鼓動を早め、身体のどこにも力が入らない。

 霞む視界に、ハロルドが残っていたワインを最後の一滴までグラスに注ぎ、一息に飲み干すのが見えた。

「実際に試すのは初めてだが……望み通りにしてやる」

 逞しい腕がビヴァリーを抱え上げ、柔らかなベッドの上に横たえられた。

 冷えたシーツが火照った身体に気持ちよく、このまま眠れそうだと思っていると、ギシリ、とベッドが軋んだ。

 再び重ねられた唇は、より濃厚なワインの味がした。

「ん……」

 触れられるまでは、ただの飾りでしかなかった胸の蕾を指先で嬲られると、一度は引いた快感の波があっという間に寄せ返す。

 ぐちゅり、ぐちゅりと淫らな音を立てて、ハロルドの指を受け入れている場所は硬い指を味わうように吸い付き、蠢いている。

「こんなに淫らな姿を見られるのなら……大金を払って跪く男がいるのもわかる」

 歪んだ視界と霞む思考で、ハロルドの言葉を理解しようとしたけれど、絶え間なく襲って来る快感の波に打ち消されてしまう。

 燃え盛る暖炉に放り込まれたみたいに、身体が熱くなってきて、何も考えられなくなりそうだ。

「ビヴァリー……何が欲しいんだ?」

(欲しいもの……?)

 ビヴァリーは、ぼんやりと覆い被さるハロルドを見上げた。

 手を伸ばし、歪んだ笑みを浮かべる頬に触れると冷ややかな目で見下ろされた。

 金色の髪は暗がりでも美しく輝き、鳶色の瞳は欲望を燻らせている。

 逞しい腕や胸は『ビリー』の知らないものだったけれど、この世で馬と同じくらい綺麗で大好きなものに変わりはない。

 もしも、ハロルドが馬だったなら、自分の厩舎に一番に迎え入れたいと思う。

 いつも馬たちにしているように、広い肩を撫で、美しい曲線を持つ背を辿り、引き締まった腰に触れるとビクリと震えた。

「くっ……」

 悔しそうに唇を噛み締めて睨みつける顔は、負けず嫌いの少年そのものだ。
 
「……ハルが……欲しい」

 血が滲みそうなほどきつく噛み締められた唇に触れながら正直に告白すると、ハロルドもひび割れた声で告白する。

「ああ……俺も、ビリーが欲しい」

 いらないとか、嫌いだとか言われなかったことにほっとして、ぎゅっとその身体を抱きしめようとしたビヴァリーは、ハロルドの大きな手が太股をぐっと押し上げると同時に、硬いものが潤った場所に押し当てられるのを感じた。

 何だろうと思った瞬間、ピリッとした痛みが足の間に走った。

「あっ!」

 本能的な恐怖からハロルドの胸を押し、身体をずり上げる。

 少し離れたビヴァリーは、痛みを感じた場所を見下ろして、そこに凶器のような太くて長いもの見た。
 それは、ハロルドの天使みたいな顔にそぐわないものだけれど、ハロルド自身に繋がっている。

 初めて目にするものに驚いて、ぼんやりしていた頭がはっきりしたビヴァリーは、自分が何をしようとしていたのか、ようやく理解した。

「ま、待って……や、ハル……」

 結婚するまで貞操を守っている女性は、今のビヴァリーの周りにはいなかったし、マーゴットのように、足りない生活費を補うためにこういうことをしている女性も少なくなかった。

 貧しい暮らしをする中で、何度か勧められたり誘われたりしたことはある。

 でも、ビヴァリーにとって、こんな親密な行為はお互いを信頼し、愛し合っている人がするものだった。そうでなかったとしても繁殖のための行為だと思っていた。

 より強い競走馬を作るためには血統を考えて繁殖するように、貴族も血統を考えて子どもを作ったりするはずだ。

 酔ってこんなことをしたと知ったら、ハロルドはきっと後悔すると思った。

(酔っているときに、大事なことを決めたりするのはよくないとパブの店主が言ってたし、父さんも酔っ払って馬に乗るなんて言語道断だって言ってた……)

「ハル、ダメ……」

 伸し掛かるハロルドの胸を押し戻そうとしたビヴァリーの耳に、冷ややかな声が落ちた。

「いくらだ?」

「え……?」

 ビヴァリーを見下ろすハロルドの瞳は、欲望と憎しみに濁り、その声は怒りのあまりか、かすれて苦しげにさえ聞こえた。

「さんざん煽って、最後の最後で交渉する。……上手いやり方だ。こんな淫らな姿を前にして、やめられるわけがない。どんな男でも、懇願するだろう」

 何を言われているのか理解できずに瞬きしていると、両手を掴まれ、磔にされる。

「金貨百枚か? それとも伯爵夫人……未来の侯爵夫人の座が必要か?」

「は、くしゃくふじん?」

 ビヴァリーが目を瞬くと、ハロルドは天使のような顔に、悪魔のような笑みを浮かべた。

「金貨百枚程度では、足りないんだろう? 伯爵夫人になればドレスも宝石も自由に買える。男子を産めば一生安泰だ。いずれは侯爵夫人だ。朝から晩まで、馬に乗っていても誰にも文句は言われない。パンを買うためだけに、男にすり寄ったりしなくてもいい。最高に楽な暮らしを送れるんだ。誰だって、そんな生活を望まないわけがない。それとも……大勢の男を相手にしなくては、満足できないか?」

「……そ、んなこと……」

 大勢どころか、こんなふうになっているのはハロルドが初めてだと言おうとしたが、乱暴に口づけられ、顎が痛くなるほど唇を貪られる。

「う……むぅっ……」

 息が上がるほどビヴァリーを苦しめた後、ハロルドが呟いた。

「どっちでもいい……どうせ、抱くのに変わりはない」

「え、あっ……あ、ぐぅっ」

 太股を掴まれ、力任せに引き寄せられる。

 逃れようと腰を浮かせたせいで、熱い杭は易々とビヴァリーの秘唇を割り、誰にも荒らされたことのない場所を無理やり切り拓く。

「うっ」

「……せま、すぎるだろ……」

 布を引き裂くように、身体を中心から引き裂かれるような痛みに硬直していると、ハロルドは呻きながらビヴァリーの身体を抱きしめ、ぐっと腰を押し込んだ。

「ひっ……」

 下腹部から、頭のてっぺんまで痛みが突き抜けた。

 あまりの痛みに、ぎゅっと閉じた瞼の裏がチカチカと点滅している。

 引き抜けばいいのだとわかっていても、少しでも動いたら、切り裂かれたところがさらにズタズタになりそうで、怖くて身動きできない。

「あっ……うっ……」

 浅く呼吸をするだけでも痛みは増し、頭の中でガンガン鐘を打ち鳴らされているようだ。

「はっ……あっ……」

「……ビヴァリー?」

 脂汗の滲んだ額を撫でるハロルドが訝しげに呼ぶ。
 とりあえず、痛いということは言わなくてはと声を絞り出す。

「ハ、ル……た……い」

「ビヴァリーっ!?」

 驚いたようにハロルドが身を起こした拍子に、埋められていた杭が引き攣れた襞を擦り、ビヴァリーは悲鳴を上げた。

「ひっ、ああっ! い、いった……痛いっ……痛いーっ」

「ビヴァリー! 落ち着けっ」

「痛い、ハルっ! 痛いのっ……」

 大声で叫ぶだけでも痛みが走り、ビヴァリーは震えながらすすり泣くことしかできなかった。

「……大丈夫だ、ビヴァリー……何もしない! ビヴァリー!」

 ボロボロと溢れる涙で視界が歪み、ハロルドの顔はまともに見えなかったが、その声からは焦りと怒りと苦しさが感じられる。

 ハロルドはそれ以上は動かず、じっとしてくれていたが、穿たれた杭は相変わらずビヴァリーの中を隙間なく占領していて、とても容易には引き抜けそうにない。

 ビヴァリーを押し潰さないように自分の腕で身体を支えているハロルドの額から、汗がしたたり落ちて、ビヴァリーの頬を伝った。

 ぎゅっと眉根を寄せて、息を詰めている様子から、ハロルドも辛いのだとわかり、ビヴァリーはすすり上げながらどうすればいいのか尋ねてみた。

「は、ハルの……ど、どうすれば、抜けるの……?」

 目を開けるなり喉の奥で呻いたハロルドは、とても紳士とは思えぬ口調で罵った。
 
「抜くだって……? ああ、そうだ! これは……抜かなきゃ終わらないんだっ! くそっ……」

 このままじっとしていても解決しないと、ハロルドはビヴァリーの額に自分の額を押し当てて、懇願した。

「ビヴァリー。できるだけ、早く終わらせる。だから……力を抜いて、俺がすることを受け入れてくれ。これ以上、痛い思いをさせたくないんだ。頼む……」
 
 鳶色の瞳には、怒りも憎しみもなく、ビヴァリーを気遣うような優しい光が見える。

「う、うん……」

 とりあえず、どうしたらいいのかわからない以上、ハロルドに任せるしかない。
 ビヴァリーが頷くと、ハロルドは啄むようなキスをする。

「痛かったら、痛いと言え」

 キスの合間に、大きな手がビヴァリーの乳房を包み込んだ。

 ゆっくりと尖った先の周りをなぞられると、痛みで忘れていた快感が少しずつ蘇る。

 口の中に入り込んだ舌で丁寧に歯列や上顎を愛撫されると、強張っていた身体から徐々に力が抜けて行く。

 ビヴァリーの唇を離れたハロルドは、耳や首を伝い、取り残されていた蕾に口づけると、優しく食むようにくわえたり、舌で転がすように刺激したりする。

「んっ……あっ」

 腰のあたりがもぞもぞして、引き攣れていた箇所に再び蜜が溢れて潤っていく感じがする。

 胸を離れた手が、軋んで痛みを訴えていた場所へと近づく。

 また痛いことをされるのではないかと、反射的に身体を強張らせると、ハロルドは再びビヴァリーにキスをして、優しく頭を撫でた。

「痛かったら……蹴ってもいいぞ」

 ビヴァリーが繋がっている場所へ目を向けると、ハロルドの表情が凍り付いた。

「いや……できれば……そこは……遠慮してほしい」

「…………」

 ビヴァリーとしては、元凶を取り除いたほうがいいような気がしたが、使えなくなってしまったら種牡馬になれないし、貴族であるハロルドの場合は子孫を残さないわけにはいかないから、去勢はできないだろうと諦めた。

「ビヴァリー……」

 余計なことを考えるなと言うように、キスを再開したハロルドの手が、先ほど信じられないくらいの快感をもたらした小さな粒に触れた。

「んっ」

 腰が揺れ、ビヴァリーの中に蜜がどっと溢れる。

(どうして……気持ちいいんだろう……)

 あんなに痛くて、怖くて仕方がなかったはずなのに、ハロルドに優しくキスをされるだけで身体も恐怖も痛みも溶けていく。

「ん、あっ……あふっ……」

「……ビヴァリー……もう少しだけ……我慢してくれ」

 息をして、キスをして、声を上げることを繰り返しているうちに、しっかりと潤った襞は気絶しそうな痛みをもたらすことはなくなっていた。

 ようやく穿たれたものが引き抜かれていく感覚に胸を撫で下ろしたビヴァリーは、もう少しで完全に離れるはずだったものがなぜか再び押し込まれたことに驚いた。

「うう、んんっ!?」

 痛みはなかったけれど、圧迫感で息が詰まる。

「力を、抜け……」

 ぐりっと、ハロルドの指が敏感な粒を押し潰すと、ぎゅっと身体が強張る。

「ひ、ああっ」

 思わずその腰に足を絡めてしがみつくと、ハロルドは抉るようにビヴァリーの奥まで進み、抉るように突いた。

「あっ……やっ……そ、こ……だ、だめっ……」

 自分の指はもちろん、ハロルドの指でさえも届かないところを執拗に刺激され、同時に繋がった入口の上にある突起を擦られると、ビヴァリーの内側が生き物のように蠢く。

「ハルっ……なんだ、か……おか、しい……」

 痛みをもたらしていた元凶が、一転して快感をもたらすものへと変わった。

「ああ……おかしくなるくらい、気持ちいい……」

 ハロルドが腰を揺らすたびに、呑み込んだものを味わうように絡みつく襞の動きが一段と激しく、大きくなる。
 熟した粒をきゅっとつままれた瞬間、頭の芯が痺れるような快感がビヴァリーを貫いた。

「あっ……ハ、ルっ!」

 強い風に煽られ、高い所へ巻き上げられるような浮遊感に怯え、目の前にあるハロルドの身体にしがみついた。

「はっ……な、せ……ビヴァリーっ」

 悲鳴のようなハロルドの声がして、逞しく引き締まった体が震えると潤った泉に温かなものが注がれた。

 襞が吸い上げるように硬い杭を締め付けると、ハロルドは堪え切れないとばかりにビヴァリーをかき抱いて、それ以上突き進めないところまで、深く穿つ。

 身も心も揉みくちゃにされた嵐のような一時が過ぎ、ようやく互いの痙攣が治まると、ハロルドは大きく息を吐いて、信じられないほどの痛みと快感をもたらしたものをようやく完全に引き抜いた。

 ぐったりとして横たわるビヴァリーは、小さな蜜壺では受け止めきれなかったものが押し止めるものを失い、じわりと溢れてくるのを感じた。

 しばらくは互いの呼吸しか聞き分けられなかった耳に、窓を叩く雨音が聞こえた。

 雷鳴が轟き、何もかもなぎ倒しそうなほど風が恐ろしい唸り声を上げているが、怖くはなかった。

 ブレントリーの春は、どんなに激しい嵐に見舞われても、翌日には晴れることが多い。

(嵐も、朝になれば治まる……ぐっすり眠れば、きっと……疲れも、痛かったことも、ちゃんと治っている……)

 まだ、しなくてはならないことがたくさんあるから眠ってはいけないような気がしたが、今のビヴァリーには考えるだけの気力も体力も残っていなかった。

「……ビヴァリー? ……に……せて……」

 ハロルドが何かを囁いているのも、聞こえない。

 額に張り付いた髪を拭われて、額や鼻にキスをされているようだと感じても、疲れ切ったビヴァリーは瞼を持ち上げることができなかった。
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