「完結」聖女は売られてしまって王子に愛される

川なみな

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( 8 )小さな事だけど大きな意味

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考え過ぎて脳ミソがパンクしそうです。神殿だったら、長年の修行をしてきた神官に聞けば大体の事は解決するのに。


「あら、いけない。お手伝いしなくては!」


また、座り込んでお仕事をしていない。役に立たない奴隷と思われると困ります。ここにしか、居場所が無いのに。

女達が、水瓶(みずがめ)の側で働いている。食事の用意のようだ。ジョセフィン王子と一緒だった男、マッシュも居た。


「全く、困ったもんだ。やっと貯めた金を、聖女に使われてしまったからな。鳥の雛や豚を買うつもりだったのに!」


聞こえてしまった、エルザを買い取ったお金は別の目的だったという話を。エルザは、足を止める。迷惑をかけて入って行けません。



「でも、良かったじゃない。王子様が女を欲しいと思ってくれたんならさあ。」
「そうよ、発情期だから。心配してたんだ、遅いから。」
「私ら一族は、王子様が頼りなんだ。世継ぎを作ってもらわないとね。」



「よつぎ」とは?また、分からない言葉です。それは、「四ツ木」「夜つ木」「寄せ木」でしょうか。勉強不足です。

申し訳ないけど、マッシュが洗っているのは「尺取りモンスター」みたいなので近寄れません。


(そうだわ、作ればいいのよ!)


食材があれば、モンスターには用は無い。今日のお願いをしてみよう。


「お願いします。野菜や鶏肉に豚肉に牛肉を山ほど下さいませ!」


とりあえず、それを頼んでみた。手を握り締めて指輪に念じる。




『願いを叶えましたーー!』




ドサドサドサドサ、ドサッドサッーー!!という音がしたかと思うと、空から野菜や肉が降って来た。あれよという間に、エルザの前に食べ物の山。

マッシュも女達も、ポカーンとして見ていた。食べ物が空から降って来るなんて見た事も有りませんから。








狩りから戻った男達は、旨そうな匂いに鼻をヒクヒクさせた。この村で、こんな匂いがするのは大昔のような気がする。



「ばあさん、何を作ってんだ?」
「いい材料が手に入ってね。」
「いい材料って、何処から。金も無いのに?」
「あの人、偽物聖女じゃなくて本物みたいだよ。食べ物を空から降ろしたんだから!」



目の前で見た神がかりの出来事に、エルザは特別扱いへ昇格されてました。王子の小屋の中で座らされています。

小屋に入って来た王子に、エルザは椅子から立ち上がった。


「お帰りなさい、え?」


ジョセフィン王子は、笑顔を向けて白い歯を見せた。持っていた物をエルザに差し出す。


「エルザさんが寂しくないようにと思って捕まえたんだ。」


蔦(つた)で編んだ篭(かご)の中には、妖精が入っていた。薄い羽根を閉じて仏頂面(ぶっちょうずら)だったが。

戸惑いながらも、エルザは受け取る。



「私に、ですか?」
「うん、1人ぼっちだから。」



そうなんです、1人なんです。幼い頃より育った神殿の生活で、他の場所は知らない。本心は、とっても心細かった。

寂しくて、寂しくてーー。

エルザは、腕を引かれた。されるままに屈む姿勢。温かい手が彼女の涙を拭う。自分が泣いているのに気がついた。


「大丈夫だよ。これからは、僕が守るから。」


王子は顔を寄せて頬に口つける。それは、優しい仕草で。エルザの胸が、震えた。
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