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(23) 贈り物を受けた少女

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町を歩く水売りの少女。背中に乗せた水瓶は重い。肩に食い込む水瓶の紐。疲れた水売りの少女は願った。


(神さま、私をお姫様にして下さい。毎日、働かなくてもいい生活がしたいの!)


ちっとも、水は売れない。売れなければ今日の稼ぎは無い。食べ物を買うお金も。貧しい家に生まれて生活に追われてる。お姫様になってみたい。

大きなお屋敷で繰らして何もしなくていい、仕えている人達がやってくれる。綺麗なドレスも宝石も思いのまま。贅沢な暮らしがしてみたい。その為なら、何だってやるのに。


「その願いを叶えたら、何をお返しするのか聞かせて欲しいですね。」


ハッとして、少女は顔を上げる。いつ、目の前に来たのか分からない。この痩せた外套の背の高いお金持ちそうな男は何?胸の中で呟いたつもりなのに、声に出してたのかしら。慌てて首を横に振った。


「旦那さま、何も言ってないですよ。本当です!」


怯える少女は後退りする。だけど、男の前に戻った。足が勝手に動いて。何なの、魔法でも掛けられた?


(怖い、助けてー!)


悲鳴を上げようにも声が出せない。銀色の長い髪と白い仮面が不気味だ。仮面の穴から冷たい琥珀色の目が見下ろす。青ざめて震える少女を。


「怖がらなくていいんですよ。私は、神さまのお手伝いをする悪魔ですから。あなたを助けに来ました。さあ、行きましょう。その代わり、お仕事を頑張ってもらわないと。」


アグアニエベは、嬉しそうに笑った。アンジェラから相談を受けて来たのだ。さあ、キャストが揃う。存分に働いてもらわなくては、私の小説が面白くありませんからね。

この後、平民の少女であったイレーナ・ロッティ14歳はベルモント子爵の養女となる。願いが叶って貴族の令嬢になったのだ。










婚約披露の日が、来た。

アンジェラは、気が重い。朝からエドウィン公爵家は、支度で大騒ぎ。着付けだけで、2時間。母親の厳しいチェックが出て着ては脱ぎ着ては脱ぎ補修のやり直しがあったからだ。

メークも母親のOKが出るまで、やり直し。塗っては取って肌が痛くなった1時間。ヘアースタイルも同じく造っては壊す1時間。もしかしたら、拷問かと思う嫌な時間。


(パパちゃまが言ってた異世界のファッションショーじゃないのよ。私は、モデルじゃないのに!)


娘の婚約披露なのに、母親の方が気合いが入っている。


「アンジェラ、あなたは王妃になるのですよ。この家の娘として役目を果たすのです。命に変えても!」


怖い怖い、王妃になれなかったら死ねと言ってるよ。この人!








重装備の飾り付けた鎧(ドレス)で参上した王城。馬車から召し使いと侍女に支えられながら降りる令嬢。ウンコラショと地上に立ったら、皆の動きが止まった。時間が止められたように。


「美しいですよ、アンジェラ。婚約披露のお祝いに贈り物を届けに来ました。」


燕尾服の美しい悪魔が(中身はオジサン)が優雅に笑顔で会釈する。


「パパちゃまが、時間を止めたの?凄いー!」

「あー、何て素敵な言葉。別の場所で2人きりの秘密の時間に聞きたいですね、興奮します(大人の会話)」

「贈り物って何ですか。婚約破棄?」

「いえいえ、それは後でしょう。イレーナ令嬢を送り出して来ました。必ず王立学園に入学させますから安心して下さい。」

「入学、そうですか。ありがとうございます。これで、あの王子を誘惑してくれるのね!」

「大丈夫、私が付いていますから。舞踏会を楽しんで下さい。」


アグアニエベの言葉にアンジェラは笑顔になる。そうよ、大丈夫よ。今度は、処刑されたりしない。悪魔が私の保護者だもの。

王城の舞踏会に招待された貴族が馬車でやって来る。皆の関心は王子の婚約披露だった。


「エドウィン家が娘の為に高価な装飾品を注文したそうですのね。」

「それに比べて、ステファン王子が贈った誕生祝いは陳列された品だったとか。安く見られてる証拠だ。」

「だって、ステファン王子の婚約は何人になりまして?また、次もありますもの。」

「結局、結婚するまでは分からないという事ですな。」


彼らにとっては、王子の婚約者が誰になろうと関係ない。直ぐに代役が用意される存在なのだ。

控え室でグッタリしていたアンジェラは、ドアをノックする音にギクリとする。侍女がドアを開けると召し使いが伝えた。


「お時間ですので、ご用意をお願いします。」


王子の婚約者としてのお披露目の時間なのだ。緊張してドキドキとしてくる心臓。モンスターと戦うのは平気なのに。やり直し前の事はトラウマになっているのかもしれない。



『これは、何かあった時のオマジナイです』



アグアニエベが別れ際に渡してくれた物。人には見えないネックレス。指で触れると確かに感触があった。これを使う時が有りませんように。




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