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(62) 黒幕
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その夜、ゴメスは誰かと待ち合わせしていた。ゴメス商会の事務所に移動魔法の簡易ドアが姿を表して由香からユックリと立ち上がった。ドアを開けて出て来たのは。
「よう、待たせたかい?」
芝生っ気たっぷりに身を折り会釈する金髪の男は、エドワードだった。
「また、何処かで遊んで来たな。どこの芸人の真似だ?」
「バデロッサ公爵の店に行ったんだ。マルグリート令嬢と。羨ましいだろう?」
「いいや。ヘルミーナ令嬢が行くつもりだと話してたからな。彼女と一緒だったんだろ。マルグリート令嬢は難攻不落の砦だぞ。」
「分かってるよ。だから、落とすのが楽しいんだ。」
ゴメスは肩をすくめた。女から追い回されている種類の男は、追い回してみたいらしい。それより、仕事だ。立ち上がったゴメスの足下が光り出したのでエドワードは飛び込んだ。ゴメスの移動魔法である。
次には、2人の男は寂しい場所に立っていた。枯れ木の並ぶ林の中にちいさな山小屋。ゴメスが手を向けると山小屋の壁に穴が空く。2人は中へと入った。
「おおー、おおー、わしを始末しに来たか。返り討ちにしてやるぞ!」
山小屋の闇の中から喚く声。ズルズルと何かを引きずる音が近くなる。ゴメスはフッと息を吐いた。たちまち、赤い炎に包まれる山小屋。だが、それは燃える事の無い炎の幻照なのだ。
赤い明かりに浮かび上がったのは、白い魔道具の官を身体にグルグルと巻き付けた老人だった。皮と骨だけのように痩せ細って弱っている。ゴメスは、唇を歪めた。
「私を覚えておいでか、ドモン国の宰相様。強い魔力の持ち主に呪いを掛け力を吸い取るなど、情けない。その様子では、食せずに魔力だけで生きてるな?」
「小賢しいわい。わしが何をしようと勝手だ。わしは、世界を統一して帝王になるんじゃ。あの方が、そう教えて下さった。お前らなど、消してやるわい!」
すでに欲望に蝕まれて残り少ない命でも、自分を不滅だと思い込んでいる。狂っているのだ。ゴメスは、問いかける。
「あの方とは、誰の事だ?」
宰相がドモン国で起こった謀反の首謀者と考えていたが違ったらしい。誰かが背後に居るのだ。だが、宰相は教えはしない。魔力で2人を攻撃してくる。四方八方から管が襲って来た。エドワードは身構える。
「来い、ファントムー!」
呼ばれたエドワードの愛刀が宙を飛ぶ。受けた主の手に握られて、ビーンビーンと振動した。鋭い刀さばきで管は切り捨てられて行く。
ゴメスは、宰相を見据えた。何者も、彼を倒す事は出来ない。無敵の魔法使いだからだ。
「俺の命令だ、こいつを抹消しろー!」
その一言だけで、魔法は実行する。あっという間に、宰相は灰となり果てた。エドワードは、燻る宰相だった躯を眺めて言う。
「なーんか、簡単すぎる。本当に、このオジサンが大将だったのかな。」
そうだ、操り人形だったのかもしれない。そうすると、第二段、第三段の災いが放たれるのだろう。
ゴメスは、面倒な事になりそうだと呟いた。
「よう、待たせたかい?」
芝生っ気たっぷりに身を折り会釈する金髪の男は、エドワードだった。
「また、何処かで遊んで来たな。どこの芸人の真似だ?」
「バデロッサ公爵の店に行ったんだ。マルグリート令嬢と。羨ましいだろう?」
「いいや。ヘルミーナ令嬢が行くつもりだと話してたからな。彼女と一緒だったんだろ。マルグリート令嬢は難攻不落の砦だぞ。」
「分かってるよ。だから、落とすのが楽しいんだ。」
ゴメスは肩をすくめた。女から追い回されている種類の男は、追い回してみたいらしい。それより、仕事だ。立ち上がったゴメスの足下が光り出したのでエドワードは飛び込んだ。ゴメスの移動魔法である。
次には、2人の男は寂しい場所に立っていた。枯れ木の並ぶ林の中にちいさな山小屋。ゴメスが手を向けると山小屋の壁に穴が空く。2人は中へと入った。
「おおー、おおー、わしを始末しに来たか。返り討ちにしてやるぞ!」
山小屋の闇の中から喚く声。ズルズルと何かを引きずる音が近くなる。ゴメスはフッと息を吐いた。たちまち、赤い炎に包まれる山小屋。だが、それは燃える事の無い炎の幻照なのだ。
赤い明かりに浮かび上がったのは、白い魔道具の官を身体にグルグルと巻き付けた老人だった。皮と骨だけのように痩せ細って弱っている。ゴメスは、唇を歪めた。
「私を覚えておいでか、ドモン国の宰相様。強い魔力の持ち主に呪いを掛け力を吸い取るなど、情けない。その様子では、食せずに魔力だけで生きてるな?」
「小賢しいわい。わしが何をしようと勝手だ。わしは、世界を統一して帝王になるんじゃ。あの方が、そう教えて下さった。お前らなど、消してやるわい!」
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「あの方とは、誰の事だ?」
宰相がドモン国で起こった謀反の首謀者と考えていたが違ったらしい。誰かが背後に居るのだ。だが、宰相は教えはしない。魔力で2人を攻撃してくる。四方八方から管が襲って来た。エドワードは身構える。
「来い、ファントムー!」
呼ばれたエドワードの愛刀が宙を飛ぶ。受けた主の手に握られて、ビーンビーンと振動した。鋭い刀さばきで管は切り捨てられて行く。
ゴメスは、宰相を見据えた。何者も、彼を倒す事は出来ない。無敵の魔法使いだからだ。
「俺の命令だ、こいつを抹消しろー!」
その一言だけで、魔法は実行する。あっという間に、宰相は灰となり果てた。エドワードは、燻る宰相だった躯を眺めて言う。
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