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(55) お返ししましょう

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翌日、セプテム国の家で朝食をとっていたヘルミーナは、隣りのライアンの家から聞こえる騒音に苦笑いする。


「また、マイコがライアン様の馬さんと揉めてるんでしょう。性格が合わないのかしら、困ったわねえ。」


出来れば、ライアンとマイコが仲良くなって欲しい。


『ヘルミーナ様が要らないのなら、あたしに下さいっ!!』


そう言いきったマイコの真剣な眼差し。本気なのだ。恋を知らないヘルミーナにも分かる。

だけど、彼の愛馬と上手くいかないのは心配だ。


「ヒヒッーン!(触るな、馴れ馴れしい)」

「いい加減に、マイコを受け入れるのよ。マイコのライアン様への愛を邪魔する気?」

「ヒヒッーン!(旦那様は私の物よ)」

「マイコを怒られせたら怖いわよ!」


そんな2人の横を通りすぎていく男が1名。その気配にマイコは気付いた。


(このオーラは、ゴメス会長だわ。マイコには挨拶なしなの?)


マイコは滑るように歩いて行く後ろ姿を見送った。向かうのは、ヘルミーナの家。男は美女が好きなのね。ちょっぴり、悔しい。

早朝のゴメスの訪問にヘルミーナは驚いた。昨日の今日だからだ。魔道具に閉じ込められていたのを救われて、一件落着のはずなのに。どうしたのだろう。


「お伺いしたのは、ヘルミーナ様の魔力の件です。」

「魔力、ですか?私には、魔力は無いのですけど。(ご存知でしょう)」

「昨日のベアトリーチェ・ドルジュ男爵令嬢が持っていた魔力は、貴女が持っていたスキルでした。」

「えっ、私のですか?」

「貴女が産まれたばかりの時に、魔力を奪い取って令嬢に与えた。してはならない事だ。それを私が取り上げたので、お返ししたい。」

「私に、魔力を?いいえ、受け取れません。」

「要らない、何故?」

「私はアグアニエベさんに鑑定スキルを頂きました。これ以上は、必要ありません!」


ゴメスには、予想外の事であった。普通なら、「はい、喜んで」で終わる話だ。


「これ以上にスキルを増やすという事は、災いを自ら招く事になりますから。私は、これで充分に幸せです。」


なんと、欲の無い王女だろう。人から奪った。スキルを我が子に与えた女とは大違いだ。


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