(完)仕方ないので後は契約結婚する

川なみな

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(54) 盗まれた物

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ニタリと、ほくそ笑む貴族の婦人。手にした小箱を見据える。そして、片手を伸ばすと掌に炎を呼び出した。


「来るのは分かってたのよ。だから、魔道具屋で手に入れておいたわ。あなた方の為に。私の妨害をするのなら、このまま燃やしてやるわ!」


炎を小箱に移そうとした時、腕が強張って動かなくなった。そして、自分と娘以外は居ないはずの部屋の中から男の声が呼び掛ける。


「ドルジュ夫人、やり過ぎると許せなくなる。甘く見ないでくれ。」


夫人は、動く首だけ動かした。ドモン国の宿に訪ねて来た男が腕組みをして見ている。彼女は、今になって男が強い魔法使いだと分かったのだ。


「あ、ああ。お願い、見逃して。お礼は、するわ!」

「諦めの悪い人だ。ドモン国の王女の魔力を盗んだだけでは足りないのか。」

「盗んでないわ、もらったのよ。」

「でも、お金を支払った。買ったも同じだ。」


夫人は蒼白な顔色になり目に見える程ガタガタと震える。勝てない、絶対に。これで、おしまいなのだ。私の夢も。


「止めて、お母様に何もしないで。私が罰を受けます!」


オレンジ色の巻き毛の少女が飛び出て来た。母親を背にして守るように。だけど、力つきて膝をつく。咳き込みながら。


「ゴホッ、ゴホッゴホッー。」

「ベアトリーチェ、許して!」


母親は娘を抱き締めて泣く。母親の投げ出した小箱は、宙を飛んでゴメスの手に。


「俺が命じる、呪文を魔解!」


命令に従って魔道具は掛けられた魔法が削除されて解体した。箱がバラバラになると虜も解放される。現れたのは抱き合った男女の姿。それを見てゴメスは笑うしかない。何やってたんだい、君達は?



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