(完)仕方ないので後は契約結婚する

川なみな

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(6) 変わったお客様①

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トーマは決意して離れへと向かう。困った事になった。


「こんなはずじゃ、無かったんだけど。」


そう、こういう事になるとは予想もしなかった。父親も自分も。突然、降って湧いた結婚話。返済に困っていた借金が返せるのならと受けたのはいいが。どうする?


「お父さんとお母さんが、喜んでるからなあ。」


父親と結婚した時から手を入れてない家。日に日に修理の箇所が増えて使えない部屋も出来ていく。女主人としては哀しい現状。貴族とは思えない生活だった。

口に出さなくても思い描いていたのだろう、綺麗になった家の姿を。今日は、ずっと笑っている。あんな両親の様子は見た事が無かった。本当に嬉しそうだ。


「あれを引き取られると(元に戻されてしまうと)病気になるんじゃないかな。心配だ、交渉しないと!」


自分に贅沢をさせてやる力が無いばかりに苦労をかけている。父親も罪悪感からか家の事に触れようとしない。なら、自分がやるしかないだろう。


「交渉ですか、何を?」


いきなり、側に聞こえた声に飛び上がる。いつの間に来たのだろう、油断大敵のお嬢様の魔法使い。


「あ、こんにちは。アグアニエベさん。」

「はい、こんにちは。悩んでらしたようですが、問題ならご相談に応じますよ。マルグリートお嬢様の旦那様ですから。」


とってもフレンドリーです。でも、こういう人は要注意。腹の中は分かりませんから。


「あの、改装して頂いた家の中の事です。」

「家の中?あー、気に入りませんか。では、修正を。」

「いえ、あのままで!」

「はい、分かりました。ご希望の品でしょうか。でしたら、ご注文は!」


アグアニエベは右腕を差し上げた。本当は必要ないのだが、マジシャンの真似をしたかったのだ。

次の瞬間には、目の前に若い男が立っている。書類を持った背の高い黒髪の美男子は2人を見ると戸惑いを隠して挨拶をしてきた。
こういう状況は慣れている様子だ。


「こんにちは、お邪魔いたします。自己紹介させて下さい。私の名は、エイドリアン・ハーパー。スタンレー国の都のゴメス商会支店で店長をやっています。お見知りおきを。」


整った顔立ちの中で灰色の瞳が銀色にも見える。さぞかし、女性にもてるだろう。我に返ったトーマは慌てて自分も自己紹介をした。向こうが姓名を口にしたのに自分がしないのは礼儀に反する。


「はじめまして、僕はイトウ子爵家のトーマです。」


エイドリアンは仕立ての良いベストの内ポケットから名刺を取り出して手渡してきた。名刺にある「ゴメス商会」の名は聞いた事がある。様々な国と取り引きのある大手の商人であった。


「この場所が何処の国なのかが分かりませんので、私でお役に立てるか。この人が勝手に呼び出すから。」


彼にジロッと睨まれてアグアニエベは笑う。


「あなたに出来ない事は有りませんよ。ハーバー店長。さあ、なんなりとご相談下さい。私が保証します!」


魔法使いの保証付の商会の店長。ここでやる事は無いんですけどと思ったトーマ。取り引きする物が有りませんから。ところが、大間違い。後に大恩人となるのだ。
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