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(2) 結婚式はしません
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腹を立てて罵り続ける令嬢に馬が近づく。乗馬していた者は少し離れた場所に馬を止めると降りて歩み寄って来た。
マルグリートは高ぶった感情のまま一瞥をくれて、バチバチと押されそうな眼差しの強さに相手が怯んだようだ。
甘いマスクとダークブロンドの美青年。貴族であるのは、乗馬服で判断できる。ただ、繕いが必要な程にボロッとしていたが。そこに貧しい暮らしが伺えた。
「失礼ですが、マルグリート・ホスター侯爵令嬢でしょうか。私は、イトウ子爵家のトーマです。お迎えに参りました。」
恐々とした気持ちの見栄隠れする落ち着かない態度。そうだろう、押し付けられた花嫁だから。1週間前に降って湧いた縁談。嫌も応も無い。借金と引き換えの結婚相手。
よりによって、イトウ子爵家。その家門としての歴史は浅い。召喚された勇者が手柄を立てて王様に家臣に召し上げられたのだから。そう、察しの良い貴方。勇者の名前が「伊藤(いとう)」さんだったのです。後ろ立ても無いので、貧乏貴族となりました。戦で手柄を立てた祖先以降は、さしたる名誉も授からず褒美に頂いた小さな領地で細々と生活しているという侯爵令嬢には悪夢としか思えない婚家なのです。
マルグリートは、怒りを飲み込むように大きく息を吸い込んだ。相手が何かを言われるのかと身構えるのを無視する。どちらにしろ、好かれたくない。
「貴方が私の結婚するトーマ・イトウ子爵令息ですね。ふつつかな者でございますが、宜しくお願いいたします(即効で離婚してもいいのよ)」
優雅に膝を折り会釈する宮廷マナー。マルグリートは、わざとやったのだ。田舎に暮らす貧乏子爵に圧力を掛ける為に。
マルグリートの用意した結婚の条件。意が添わなければ双方の同意により離婚する事。その時は、マルグリートは修道院へ入らなければならない。
マルグリートは、即刻で修道院へ入りたいのだ。父親は修道院に入るのを嫌で我慢すると考えたのだろうが。甘いんだよ、手が!
「丁度、良かった。では、結婚契約書にサインをお願いいたします。」
アグアニエベが差し出す契約書に令息は驚く。それを押し戻して言った。
「まだ、結婚式も済んでおりませんので。」
「式は、省略して下さい。契約書を交わせば、貴族会館に提出すれば婚姻と認められますから。」
「式を省略って?いいんですか、本当に?」
「いいんです、お嬢様のご希望です。さ、サインを。証人は、私と侯爵の知人でサイン済みです。」
「侯爵様は、ご了承されてるんですね。なら、サインします。」
こんな田舎の道端で不運で花婿となった令息のサインで、新夫婦の誕生となった。前代未聞の指輪交換。手渡しだ。
「これが、貴方様のエンゲージリングでございます。では、新居へご案内して下さい。私は、それを見届けないと帰れないのですよ。約束を守らなかったので、罰金を払わないと。」
ギョッとして、トーマは令嬢を見る。押し付けてきた花嫁は、婚約破棄されたのか。それで、結婚を急いだのだろう。
「あの、婚約破棄のお相手は大物ですか。もしかして?」
マルグリートは、答えてやった。後から知れるより、先に教えとくべきだと思ったからだ。
「この国の王子よ、次期王様になる人。」
トーマは、驚いて空いた口が塞がらない。次期王妃になるはずだった令嬢が自分の妻になったらしい。
空から運が降ってきたのか、それとも、災難が落ちて来たのか。
マルグリートは高ぶった感情のまま一瞥をくれて、バチバチと押されそうな眼差しの強さに相手が怯んだようだ。
甘いマスクとダークブロンドの美青年。貴族であるのは、乗馬服で判断できる。ただ、繕いが必要な程にボロッとしていたが。そこに貧しい暮らしが伺えた。
「失礼ですが、マルグリート・ホスター侯爵令嬢でしょうか。私は、イトウ子爵家のトーマです。お迎えに参りました。」
恐々とした気持ちの見栄隠れする落ち着かない態度。そうだろう、押し付けられた花嫁だから。1週間前に降って湧いた縁談。嫌も応も無い。借金と引き換えの結婚相手。
よりによって、イトウ子爵家。その家門としての歴史は浅い。召喚された勇者が手柄を立てて王様に家臣に召し上げられたのだから。そう、察しの良い貴方。勇者の名前が「伊藤(いとう)」さんだったのです。後ろ立ても無いので、貧乏貴族となりました。戦で手柄を立てた祖先以降は、さしたる名誉も授からず褒美に頂いた小さな領地で細々と生活しているという侯爵令嬢には悪夢としか思えない婚家なのです。
マルグリートは、怒りを飲み込むように大きく息を吸い込んだ。相手が何かを言われるのかと身構えるのを無視する。どちらにしろ、好かれたくない。
「貴方が私の結婚するトーマ・イトウ子爵令息ですね。ふつつかな者でございますが、宜しくお願いいたします(即効で離婚してもいいのよ)」
優雅に膝を折り会釈する宮廷マナー。マルグリートは、わざとやったのだ。田舎に暮らす貧乏子爵に圧力を掛ける為に。
マルグリートの用意した結婚の条件。意が添わなければ双方の同意により離婚する事。その時は、マルグリートは修道院へ入らなければならない。
マルグリートは、即刻で修道院へ入りたいのだ。父親は修道院に入るのを嫌で我慢すると考えたのだろうが。甘いんだよ、手が!
「丁度、良かった。では、結婚契約書にサインをお願いいたします。」
アグアニエベが差し出す契約書に令息は驚く。それを押し戻して言った。
「まだ、結婚式も済んでおりませんので。」
「式は、省略して下さい。契約書を交わせば、貴族会館に提出すれば婚姻と認められますから。」
「式を省略って?いいんですか、本当に?」
「いいんです、お嬢様のご希望です。さ、サインを。証人は、私と侯爵の知人でサイン済みです。」
「侯爵様は、ご了承されてるんですね。なら、サインします。」
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マルグリートは、答えてやった。後から知れるより、先に教えとくべきだと思ったからだ。
「この国の王子よ、次期王様になる人。」
トーマは、驚いて空いた口が塞がらない。次期王妃になるはずだった令嬢が自分の妻になったらしい。
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