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忍
しおりを挟む「現在織田信勝につこうとする者は予想よりも少なくございます。やはり、尾張の虎殿が残した遺言が大きいようで静観に徹しておりまする。しかし、大和守家や伊勢家をチラつかせると途端に信勝側に寄ろうとするものが増えまする。その者達は別にまとめておりまするので後ほど確認をお願いいたしまする。」
「よくわかった。報酬はいつも通り下人から受け取るが良い。また何かあれば追って指示を出す。今は調略を続けよ。」
「はっ!」
坂井の魔の手は着々と入り込んでいった。特に信勝にベッタリである土田御前にも…。
~~~~
坂井の屋敷を辞した忍びはいつもの帰路を使って里まで歩いていた。夜中ということもあり警戒をしつつも少し気を抜いていた。
「そこのお人、少しお話でも致しませぬか?」
声が聞こえた瞬間臨戦態勢に切り替えて武器を取り出そうと手を懐に向かわせようとした時にはもう遅かった。首筋に小刀のようなそれにしては小さ過ぎる暗器を当てられ動けなくさせられた。
「…話すことなど何もない。」
男としては手練れの同業者相手に生き延びれるとも思わず力を抜きただ死を待っていた。
「まぁ、そういうな。もし、俺との話が決裂してもお前を殺す気はないし、なにか邪魔だてするつもりもない。ただ話をしたいだけなのだ。」
「…」
「私の名は…そうだな、風月とでも呼んでくれ。お主はなんと呼べば良い?名もない案山子でもあるまい。」
「私のことは山犬とでも呼ぶがいい。で、なんのようなのだ?」
風月はやっと話を聞く姿勢になった山犬からクナイを離し対面する。風月は風魔で使われている装備一式に身を包んでおり相手からは目元しか見えないようになっている。
「単刀直入に言おう。山犬よ雇われではなく家臣として働く気はないか?山犬だけではなく里のもの全てを受け入れよう。我々のように働けぬもの達には誰からも誹られる事のない誇れる仕事を与えることができる。全員が毎日たらふくに飯を食えて冬は凍える寒さで誰かが死ぬこともない。働きに見合った加増も行う。どうだ?興味が湧かぬか?」
「なに!?そんな条件信じられる訳がなかろう…!」
山犬の中ではそんな場所があるなら是非とも行きたい!という気持ちとそんな上手い話がある訳がない。もしあったとしたら我々の今までの苦しみはどうなるのだ、認めたくない!という気持ちが両立していた。
「では、これを見るが良い。我々が仕える主人から頂いた感状である。今回はお主らを説得するために用意してもらったものだが筆跡と花押は本物であるぞ。」
山犬は風月達を刺激しないように丁寧に受け取り中身を閲覧する。そこに書いてあったのは確かに感状であり、花押は…北条!例の関八州の主か!
「という事は其方達は名高い風魔…という事か…。」
風月は目元を和らげるだけで言葉にも動作にも表さないがそれだけで伝わった。
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