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その目をしっかりと見つめて氏政は言葉を返す。
「いえ、私が望むのは関東圏の民を救うのが第一にございまする。次に望むのは我々の周りにいる土地の人々でございまする。蝦夷地に手を出したのは関東の民が更なる躍進を望んだからに過ぎませぬ。奥羽は特に鎌倉の武士が多くいまするのでやるならば徹底的にやらねば苦労することとなりましょう。機がきたらあるいは…というところでしょうか。それよりもいち早く畿内までの道を安定させたいと私は考えていまする。」
なんと!と前久は驚く。口元に扇子を持っていき隠すあたりは流石だが目は見開いたままであった。
「私がいうのもおかしな話ですが畿内、西日本を任せられる傑物が今力を貯めております。直ぐに駆けつけることができないのは申し訳ない事ですがそう遠くない未来必ずやその者が私と共に日の本に安寧を齎すことでしょう。」
「はて、そのような人物といえば三好筑前守、関東管領くらいしか思いつかんのう。大内はこの前家臣に謀反を起こされて内部が崩壊しておるし…尼子か?」
氏政は首を横に振りながらそれを否定する。
「今は申すことはできませぬ。私が余計なことをして彼の者の覇道を邪魔だてする訳には行きませぬ。その者が駆けつけるまでは私ができる限り支援いたしますので何卒お待ちくだされ。」
「あい、わかった。お主のお陰で我々の生活も楽になり明日のことを考える事で手一杯の生活を抜け出し、これからどうしていくかという事まで目を向けられるようになった。そのように尽力してくれた伊豆守だからこそ信じようぞ。」
帝が渋る前久を宥めるように言葉を紡ぐ。
「ありがたいお言葉にございまする。」
氏政は深く頭を下げ直した。
「さて、時間も良い頃合いでございまする。この続きは明日以降にでも…」
この前久の言葉で今晩は解散となった。
氏政が帰るのを見送りに前久が出口まで付き添う。まだまだ肌寒い内裏だが緊張して体温が上がっていた身体にはちょうど心地いいと氏政は思いながら進む。
「どうじゃった。帝への拝謁は。」
前久が唐突に声をかけてくる。
「なんといいますか、やりきった感じがします。色々と。」
前久がほっほっほっと笑う。
「確かにのぅ。お主の本音を曝け出したのは良いことじゃが明日は気をつけるでおじゃるよ。其方の失言一つが後々まで尾を引くような場所でおじゃる。我らもできる限りの手助けをするが限度があるでおじゃる。」
「はい、承知しておりまする。本日はありがとうございました。私はこのまま京都に用意した屋敷に帰ろうと思いまする。また明日伺わせて頂きまする。では。」
氏政は頭を深く下げ、牛車に乗って風魔の活動拠点の一つである宿屋へと向かっていった。
前久はそれを見送ると先ほどの部屋まで戻り帝と再度対面した。
「あれは本当に人の子か?余りにも若く、老練過ぎる。八幡の使いと断言された方がまだ信じられる気がするぞ。」
帝は前久しかいないのを確認した上で少し言葉を崩す。
「人ではあらぬとしても尊王の心は真でありましょう。だいぶ朝廷、というか帝に対して一歩も二歩も引いている様子でした。」
「確かにそうであるな。我々を脅かす存在となるかどうか。今はまだその様な芽は無いが…」
帝や公家など朝廷は最近まで武家によって権力に食い込まれ衰退させられてきた。そのことが過度な警戒を招いていたのだ。
「いえ、私が望むのは関東圏の民を救うのが第一にございまする。次に望むのは我々の周りにいる土地の人々でございまする。蝦夷地に手を出したのは関東の民が更なる躍進を望んだからに過ぎませぬ。奥羽は特に鎌倉の武士が多くいまするのでやるならば徹底的にやらねば苦労することとなりましょう。機がきたらあるいは…というところでしょうか。それよりもいち早く畿内までの道を安定させたいと私は考えていまする。」
なんと!と前久は驚く。口元に扇子を持っていき隠すあたりは流石だが目は見開いたままであった。
「私がいうのもおかしな話ですが畿内、西日本を任せられる傑物が今力を貯めております。直ぐに駆けつけることができないのは申し訳ない事ですがそう遠くない未来必ずやその者が私と共に日の本に安寧を齎すことでしょう。」
「はて、そのような人物といえば三好筑前守、関東管領くらいしか思いつかんのう。大内はこの前家臣に謀反を起こされて内部が崩壊しておるし…尼子か?」
氏政は首を横に振りながらそれを否定する。
「今は申すことはできませぬ。私が余計なことをして彼の者の覇道を邪魔だてする訳には行きませぬ。その者が駆けつけるまでは私ができる限り支援いたしますので何卒お待ちくだされ。」
「あい、わかった。お主のお陰で我々の生活も楽になり明日のことを考える事で手一杯の生活を抜け出し、これからどうしていくかという事まで目を向けられるようになった。そのように尽力してくれた伊豆守だからこそ信じようぞ。」
帝が渋る前久を宥めるように言葉を紡ぐ。
「ありがたいお言葉にございまする。」
氏政は深く頭を下げ直した。
「さて、時間も良い頃合いでございまする。この続きは明日以降にでも…」
この前久の言葉で今晩は解散となった。
氏政が帰るのを見送りに前久が出口まで付き添う。まだまだ肌寒い内裏だが緊張して体温が上がっていた身体にはちょうど心地いいと氏政は思いながら進む。
「どうじゃった。帝への拝謁は。」
前久が唐突に声をかけてくる。
「なんといいますか、やりきった感じがします。色々と。」
前久がほっほっほっと笑う。
「確かにのぅ。お主の本音を曝け出したのは良いことじゃが明日は気をつけるでおじゃるよ。其方の失言一つが後々まで尾を引くような場所でおじゃる。我らもできる限りの手助けをするが限度があるでおじゃる。」
「はい、承知しておりまする。本日はありがとうございました。私はこのまま京都に用意した屋敷に帰ろうと思いまする。また明日伺わせて頂きまする。では。」
氏政は頭を深く下げ、牛車に乗って風魔の活動拠点の一つである宿屋へと向かっていった。
前久はそれを見送ると先ほどの部屋まで戻り帝と再度対面した。
「あれは本当に人の子か?余りにも若く、老練過ぎる。八幡の使いと断言された方がまだ信じられる気がするぞ。」
帝は前久しかいないのを確認した上で少し言葉を崩す。
「人ではあらぬとしても尊王の心は真でありましょう。だいぶ朝廷、というか帝に対して一歩も二歩も引いている様子でした。」
「確かにそうであるな。我々を脅かす存在となるかどうか。今はまだその様な芽は無いが…」
帝や公家など朝廷は最近まで武家によって権力に食い込まれ衰退させられてきた。そのことが過度な警戒を招いていたのだ。
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