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しおりを挟む「そこまでご信任頂けているとは光栄の極みにございまする。しかし、なぜそこまで…」
正直帝との接点は少ない。まだまだ中央に進出できているとは言いづらいし影響力も大きくはないと思っていた。前久は疑問に思っている氏政を見て笑いながら話を続ける。
「ほっほっほっ。そちは面白いことを言うのう。昔から朝廷のことを考え銭や特産品など毎年朝廷に貢物を送ってくれているでおじゃる。それがどれだけ嬉しく心温まったことか。今の戦乱の世では官位目当てで献金されるか交渉の材料に使われるために渡されるか位だ。朝廷はひもじい。主上も手を動かさねばならないのが現実だ。そのようなところに何の見返りも求めないそちからの贈り物はより一層我らの心に響いたのじゃよ。」
話している最中に前久の氏政を見る目は柔らかくなっていった。この時代の公家や朝廷は貧しかった。というのも、武士達が力を持ち荘園の横領などが蔓延っていたためだ。詳しいことは日本史の国司と守護の違い、守護大名の台頭あたりを調べたら分かることだ。
ざっくり説明すると支配体系が武士に実効支配されそれを取りまとめる足利の力が減衰したため、朝廷へ流れる金や物資も減衰したと言うことだ。
「武士は本来公家や朝廷を守護する存在だったのが今では己が為にだけ力を振るう。戦国乱世の為仕方がないこととは言えますが悲しいことです。」
「そうじゃのう。」
前久との会話も時間が経つにつれて長くやっていられないため、そのまま屋敷の中に案内され身支度を整えた。
「では、参りましょうか。」
前久と氏政は御輿にのり周りを氏政の配下達に守られながら移動する。内裏へ入る時まで問題は起きることなく上首尾に事が進んだ。そこからは一人で前久の先導について行き帝との対面をする場所の前まで来た。ここまでくる途中建物や風景を見ていたが所々傷んでおり、修繕が必要なところが散見された。
「では、入るぞ。私に続いて入った後頭を下げて声をかけられるまで頭を上げるでないでおじゃる。」
前久の言葉に首肯で返し、少しの緊張感を保ったままにする。前久は氏政の準備が整ったのを見て襖を開ける。
「失礼致しまする。近衛前久、帝の命により北条伊豆守を連れ参上致しました。」
前久が部屋の半ばまで進むと頭を下げたのでその二つ分後ろほどで同じように頭を下げ待機する。
「うむ。その後ろにいるのが伊豆守か。直答を許す。前久と共にもう少し前によるがいい。」
前久がはっと答え前ににじり寄る。それはわかっているのだが身体が動かなかった。
「どうしたのだ伊豆守?何かあるのか?」
「い、いえ、失礼致しまする。帝に拝謁できる事に感動し震えて動けずにおりました…。」
なんとか身体を動かして先程前久がいた位置までにじりよった。しかし、いまだに目線を合わせるなどはできずに下を向いていた。
「帝、伊豆守は尊王の心が厚い男にございますればこのように固まってしまうのも致し方ない事でございましょう。許してあげてもらいたいでおじゃりまする。」
「ははは。なるほどのう。そのようになる必要はないのだが、嬉しいことよ。会話からできるのであろう?本題に入る前に少し問答を楽しむとしようか。」
氏政は、はっ、と答えるしかなかった。
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