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しおりを挟む冬の寒さが痛いように頬に突き刺さる中、馬をかけさせ京へと向かう集団の半ばで一人小柄な人物がいた。周りから守られながらも真っ直ぐに前を見て進む姿は一目でこの集団の主人だとわかる雰囲気を醸し出していた。
畿内と言っても都や栄えている場所以外はどこも同じようで原野や山林が続いておりたまに田畑と農村が広がっていた。関東と比べると貧しく質素に見えるがこれでも他の地方と比べていると段違いに栄えている事を考えるとマシなのかもしれない。
氏政の頭の中を駆け回っていたのは帝に拝謁する緊張とこれから主体的に日の本を動かしていくという覚悟だった。その為だったら…。
こんな事を考えてもしょうがないというかのように頭を左右に振るとこれからのことを考え始めた。
朝廷との交渉は悪い結果にはならないと読んではいる。前久殿が言うには帝は親北条派らしいからな。問題は公方様だ。俺は史実を知っている、将軍などと言うものに微塵も価値を感じないし寧ろ邪魔だとすら考えている。現体制を壊すために必要ならばお隠れになって頂くことさえ厭わない。生き残らせるとしても完璧な屈服がわかるように示されなければやつに生きる道はない。
史実の信長もどこかでこのような覚悟を決めたのだろうか。そんな他愛もない事を考えながらも目の前に見えてきた都、京へと氏政たちは到着した。風魔たちの先導に従って迷う事なく近衛邸へと向かった。近衛邸の門には華美な服装をしながらも着慣れている雰囲気を出す青年が立っていた。あれこそが近衛当主近衛前久だろうとアタリをつけると失礼にならないようにある程度の距離で馬を降り、側近たちと共に歩いて向かう。
「お初にお目にかかります。北条伊豆守氏政にございまする。このような姿で失礼いたします。」
前久は人の良い笑みを浮かべている。
「なんのなんの気にしないでおじゃる。其方らのことは首を長くして待っていたでおじゃるよ。勿論、私だけでなくな。ほっほっほっ。」
無言で頭を下げる。前久はよいよいと頭を上げさせ、当主自らが案内人としてそのまま中に入るのではなく、庭先へと通された。その間に周りの黒鍬集達は建築家のスペシャリストである事を説明し敷地内で外壁の補修や屋敷の立て直し、修繕をさせて頂くことを提案して許可を貰う。近衛邸は他の公家よりマシといえどまだまだ補修する箇所は多いのだ。
「さて、何から話そうかの。まずは主上との拝謁だが先触れも出されたことにより明日の正午ということになったでおじゃる。しかし、その前に意見を擦り合わせたいとの事で秘密裏に今日の夜に我と共に伺う事になるでおじゃ。其方の着るものや身支度は我が家の一室を使うと良いでおじゃる。」
「有難いことです。是非ともご好意に甘えさせて頂きます。」
「さて、他に何か聞きたいこととかはあるかのう?」
「では、失礼して。主上が見据えている落としどころと言うか望むところはいかに。また、それとは別に実際の所通りそうな要望はどのあたりになるでしょうか。」
ふむ、と少し考えるそぶりをして庭を歩く。
「主上は最低でも其方に関東のことを任せようと考えていらっしゃるでおじゃる。その他のことはお主から話を聞いてから決めるおつもりであろうな。」
前久が話し切った後に少しの沈黙がその場を支配した。氏政達はこちらの要望が思った通りになりそうなことに安堵して、前久は氏政達が関東という遠い地にいる事を歯痒く思い。
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