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氏政が草案書に独自の提案や推論を添付した資料は風魔の手によって各地の担当者に確実に運ばれた。氏政達はそのまま蝦夷地への航路探索を始め、水軍を回し始めていた。その関係で直勝と話し合うために久々に伊豆へと戻ってきていた。

 「殿!殿はすごいのですね!」

 そのようにウキウキ気分で話していたのは秀吉であった。

 「伊豆民達は氏政様が来られたと思いきや皆で歓声をあげ温かく迎え入れてくれている。これこそ人徳、今までの善政を表すものですね…。ここの皆なら現状に不満を持ち反乱を起こそうなどとは微塵も思い付かないでしょう。これが殿が目指す世界…!」

 そう言って拳を握りしめるのは正信だった。ここに来るのははじめてのメンツもいるため伊豆の現状を見て俺が作りたい世界の一端に触れているようだ。

 「ここは結構特殊だが、はじめて俺が手をかけた領地だ、その分皆とも顔を合わせる機会が多かったから覚えてくれているのだろう。」

 実際のところ、領民達にとって最初は北条の倅を鍛えるために練習として赴任してきたのだろうと考えていた。しかし、生活がだんだんと豊かに変わっていき、八幡の使いと呼ばれるようになってから評価が一変してある種の崇拝のようなものになっていた。

 「さて、ついたようだぞ、ここが土肥城だ。」

 現在海軍の総本山となっている土肥城は北条にとっての伊豆を表している。他の港ではただの生産場でしかない造船所だが、土肥では新たな技術を試したり試作船を作ったりする海版韮山城下のようになっていた。

 「すごい活気ですね、職人やそれを相手にする商人など溢れんばかりの人だかりだ。」

 土肥城は小高い場所にあり、城下の様子がよく見えていた。源太郎はおお…といいながら覗き込むように見ていた。

 「ああ、しかし、商人達は基本的に全て風魔や我々の審査を通過した商人など防諜対策はしっかりとしている。それにここら辺は風魔達の里が点在しているからな、下手に入り込もうとすれば一網打尽になるのだ。」

 幸隆は義堯に思い出話や説明などをして二人で盛り上がっているようだった。そうこうしている内に縄文まで辿り着き中へと通される。

 「殿、お待ちしておりました、長旅お疲れ様です。皆様もお変わりなく元気そうで。」

 直勝が日に焼けながらも正装で待っていた。まだまだ寒い時期だが直勝には関係なさそうに思えるのは鍛え上げられたからだと日焼けによるものだろう。

 彼の先導についていきながら評定を行う広間まで向かう。皆が席に着いたところで使用人達がお茶を差し出し話し合いの体制が整った。

 「源太郎、いつも通り書記を頼む。ではまずは、蝦夷地に関する知識の共有を行う、次郎法師。」

 今回は明確に仕事を与えていなかった次郎法師に役目を振っていた。彼女も他の二人に比べ仕事がないことに不安や焦燥を感じていたようで喜んで引き受けてくれた。

 「はっ、現地入りして調べる手段がなかったので風魔殿の伝を使い東北半ばまで商人として潜り込んでもらいました。その結果、ある程度の概要はわかりましたので説明させていただきます。蝦夷地の入り口となっている場を領地としているのは蠣崎氏です。そこでは米が育ち辛く特産品や現地住民との交流品などを反対側の日ノ下の支配先である安東氏と取引を行ってなんとかしているようです。」

 安東と蠣崎、安東を支配下に置けばそのままついてくるかな?それだと時間がかかるし、何より貿易する内に実質的にこちら側に取り込める可能性もある。

 「安東氏は蠣崎に度々出兵を要請しており、蠣崎としては負担が大きく不満も募っているようです。蠣崎としては現地住民との戦いを続けるのも辛く、和睦を締結し軍役の負担を減らしているようです。」
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