161 / 258
163
しおりを挟む長野業正が義堯と朗らかに会話している中俺は空気のように扱われている。義堯も俺も気にはしていないが光秀には我慢ならないのだろう、般若のような顔で睨みつけている。今更煽ってくるやつを気にしてもしょうがない気もするが話を進めなければならないのも事実、こちらから声をかけるとしよう。
「久しぶりの対面に喜ばれるのも分かりますが、そろそろ本題に入りませぬか?」
長野業正はこちらをチラリとみる
「これは失礼。我々としては最後まで抵抗するのみにございまする。これでお話しは終わりですな。」
「さてはて、その義理立てには天晴にございますが現実的には降伏なされたほうがよろしいのではございませぬか?我々もあなた方とは争いあいたくないのです。降伏していただけるならば上野国(の軍)を任せてもいいと思っています。長野業正殿は上野守護代としてこの地の信頼を集めています。そのような方であれば安心して任せられるというもの、なんとかなりませぬか?」
相手の自尊心をくすぐる様な言葉と実利で交渉する。
「ですが、あなた方は我が主君上杉憲政様と敵対しました。我々は道理に則ってあなた方の配下になる事はできませぬ。主君が不利になったからと裏切り相手に付くものには誰にも信用されないでしょう。」
「そもそも、我々が敵対したのは山内上杉が関東諸連合を纏め我々の国民を攻めようとしたからです。卑しくも我々が豊かにした土地を羨み横から奪おうとしたから我々は守ったに過ぎませぬ。道理の話をするのであればそこからではないでしょうか?」
長野業正が黙り込む。実際戦を仕掛けたのは山内上杉からであった。その理由は関東管領を詐称し勢力を拡大する北条を抑えると言っていたが、本音は氏政の言った通り豊かな土地や銭が欲しいがために攻めたのであった。
「我々は関東の民を慈しみ愛しております。彼らが飢えず凍えず安らかに生活を楽しみ平和に暮らせる様に尽力するのが北条の使命だと考えております。実際私たちが統治している土地は野盗も現れず、生活にゆとりができて人生を楽しんでおります。どちらに正義があるか、よく考えてください。それと言い忘れましたがこちらは上杉憲政を引っ捕えております。それに、古河公方家を継ぐ足利左馬頭は我々を支持しております。これがなにを意味するか、理解されると思いますが?」
我々の血縁ではあるが足利政晴が左馬頭になったと言うことは関東公方は北条側に着いたという風に取れる、実はこちらにあるのだ。実際に関東公方にする気はサラサラないが他の物がどう受け取ろうと自由だ。そう思わせる事がそもそも大事なのだ。
「実も義もこちらにあります。ご決断を。ここで降ったとしても誰も貴方を責めませぬ。長野家も最後まで忠誠を貫いた家として遇される事でしょう。それに我が息子も養父殿に会うのを楽しみにしております。」
義堯が最後の一押しをする。
「…ふぅ。わかった。長野家は北条氏政殿に降ろうではないか、北条家ではなく、貴方に降るのです努努そのお気持ちを裏切らないでいただきたい。私は貴方の考えに降るのです。それと、主君の憲政様の助命をお願いしたい。」
助命か、長野を立てるためにも受け入れよう。どこかで隠居させておいて1年後くらいに心労からくる病死になったとしても不思議ではないしな。
「分かり申した。業正の気持ちを汲んで上杉憲政は助命するとしよう。その代わり隠居所の指定と監視は付けさせてもらうがよろしいな?」
「はっ!ありがたい事です。では、我々は城を分け渡す準備をします。兵達は解散させればよろしいでしょうか?」
「いや、兵士として働きたいものと農民として生きていきたいものを分ける必要があるから一箇所に集めておいてくれ。光秀、いつも通りに処理を頼む。」
「ははっ!」
10
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
夕映え~武田勝頼の妻~
橘 ゆず
歴史・時代
天正十年(1582年)。
甲斐の国、天目山。
織田・徳川連合軍による甲州征伐によって新府を追われた武田勝頼は、起死回生をはかってわずかな家臣とともに岩殿城を目指していた。
そのかたわらには、五年前に相模の北条家から嫁いできた継室、十九歳の佐奈姫の姿があった。
武田勝頼公と、18歳年下の正室、北条夫人の最期の数日を描いたお話です。
コバルトの短編小説大賞「もう一歩」の作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になっていた私。どうやら自分が当主らしい。そこまでわかって不安に覚える事が1つ。それは今私が居るのは天正何年?
俣彦
ファンタジー
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になった私。
武田家の当主として歴史を覆すべく、父信玄時代の同僚と共に生き残りを図る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる