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しおりを挟む「それは、彼らには敗走してもらうのです。まず、戦える兵士たちを使って使えぬ兵を督戦しながら抵抗します。その間に十人ほどの塊をいくつかできるだけ作り四方八方に逃げ出させます。その際には出来るだけ下野の方に豪華な武具を着せたもの達を走らせます。
実際には武士達にはその場に残ってもらいなんとか耐えていただき、我々が到着するまで時間をかけて敵軍を引きつけてもらいます。その後に気を見て降伏、もしくは再度敗走して頂ければと。2回目の敗走となれば敵の追っても兵が足りずに逃げ切れる可能性も高まります。
我々はその間に河越城に向けて進軍…これを落とします。そうすることで奴らの退路を断ち、逆に奴らを追い詰めるのです。上野側は幸い上杉殿が陥落させておいたお陰で北条方の城はありませぬ。それを考えれば勝ったも同然でしょう。」
「ふむ…あい、わかった。憲政にはそう伝えるとしよう。もし言う通りにならなければどうする?」
「大丈夫でしょう。そこに5万の兵で向かっている。うまくいけば相模まで思いのままとでも伝えてやればどうにでもなるかと。
まあ、ここまで負けて我々に助けられた状態でどれほど要求が通るのかは知りませぬが。」
「くっくっくっ、なるほどな。では、その策で行こう。伝令を出させよ。我々はこのまま河越城に向かい北条を打ち破る。」
~~~
北条氏政
「我が軍が押しているようだな。」
「はっ!農民の輸送も着々と進んでおります。その中で敵の間者が紛れ込まないように選別もさせています。しかし、そのせいで今こちら側から攻められた場合不利となってしまいます。」
「それでも止めるわけにはいかぬだろう。護衛は後方支援している江戸城からの兵に任せよ。我らの軍と叔父上の軍は体を休めることに専念するのだ。何か嫌な予感がする。必ず、足利晴氏は動くはずだ。ここで動かなければやつに次の機会はないのだからな。」
現代では戦国時代の戦は領土を取るためや、家督を相続するため、上洛するための戦のイメージが強いだろうがそれは京に近い畿内だけの話に限ったものである。特殊な例を出すと大友のような宗教のためや、毛利や北条のような民のために地方を治めるため。上杉のような正義のため。最後に信長や信玄、尼子や三好などの天下を目指すことだろう。
しかし、実際はほとんど食料と利権の奪い合いのために行われるのが普通なのだ。そして、関東は大平野が広がる場所。ここは食料が豊富なのだ。だからこぞってこの土地では奪い合いが発生する。勿論武勇を見せるためや先祖の恨みなど積み重なったものもあるが…。
このままでは、関東の殆どが北条の支配下に置かれ、彼らは風下で生きていくことになる。それは到底許せるものではないし、関東の豊かさを知っていれば他の土地で我慢などはできない。なればこそ、このタイミングでことを起こすしか無いはずなのだ。だから、必ず奴は来るはずだ。
「氏康様が地均しの陣を敷き、相手の軍を圧殺しております。順調に事が進んでいるようですが、敵は囮をいくつも放ち逃げようとしています。そこに氏康様は下野に狙いを定めてほぼ全ての追撃隊を出しました!」
「なに?どういう事だ?」
囮を放っただと?そんな頭の切れるやつが向こうにいるのか?この砲撃にさらされ負けている状況でこのような手を打てるやつはいた記憶がない。
「おそらく、本命である下野の各当主と上杉憲政を逃すためでしょう。そして彼らが逃げるとすれば下野の方ですし、他の方向は考えづらい。なので下野に狙いを定めたのでは?」
それは分かっているのだが…。何かがおかしい、だがその違和感の原因がわからない。なんなのだ…!
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