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 氏政達は敵に見つからないようにコソコソ移動するのではなく全速力で氏康軍に向けて馬を走らせていた。勿論100人規模とは言え突撃するような勢いで軍に向かえば迎撃されても文句は言えないので、先触れを出して旗持ちも何人か用意させている。

 「光秀!父上の戦況をどう読む?」

 「基本的に優位でございまするな。先ほどまでは川の向こう側を警戒して速戦を挑むか耐え忍ぶかの判断に迷っていたように見えましたが、我々の軍が上杉軍を襲ってから迷いなく圧殺する方向に切り替えたようです。

 こうなれば後は時間の問題かと、ですが、挟撃の形に持ち込む為にも川の方向に追い詰めるように進言すべきかと思いまする。流石に多目殿もおられますし分かりきっているだろうとは思いまするが。」

 丁度氏政軍が敵に突撃し始めた頃、氏政本人は氏康軍の本陣前まで辿り着いていた。

 「お久しぶりにございまする父上、受け入れていただき感謝いたします。」

 馬上にいる父に向かって光秀が馬を横並びにさせながら氏政が話しかける。

 「ああ、久しぶりだな。お前がここに来たということは東側の軍は気にしなくても良いということだな。多目!敵にゆっくりと圧力をかけながら追い詰めていけ!敵の援軍を気にする必要はない!遠距離攻撃隊を利用してこちらに被害が出ぬように詰めていくのだ!」

 「その事で一つお願いしたいことがございまする。」

 「ほう、何だ言ってみよ。」

 「わが配下たちが東側の川に向かって敵を分断包囲する予定にございまする。ですので、援軍阻止のための部隊を引き、むしろ河越城側ではなく川の方向に追い詰めて投降を促すのです。敵の将は殺さなければなりませぬが、兵は農民たちです。彼らを利用することができれば労働力になりまする。

 また基本的に上杉軍は上野 武蔵の農民ですので、彼らをそのまま帰すのではなく相模や伊豆 房総半島などに分散して配置する事で上野 武蔵にその分こちら側に従っている農民と文官を派遣いたしましょう。そうする事でより早い統治が可能になるかと思いまする。」

 父はほう、と言った後に手を顎に当てて考え込む。

 「作物や武器などの道具はすぐに用意できまするが人は10数年立たねば使えませぬ。ここは腹たちを収めて頂き労働力と将来の人口増加をお考えくださいませ。」

 「ふむ、つまりお前は農民という道具はすぐに用意できないから再利用しろ、そう言っているのだな?」

 北条は農民、つまり民を重視している。その民を道具、つまり人的資源と言い切るのだな?と圧力をかけながら聞いてくる。

 「はっ!彼らは我々が守るべき民であり国であります。しかし、同時に国を支える柱でもございまする。客観的に物事を見れなければ為政者としては不適格かと私は伊豆で学んだつもりでございまする。」

 「よういうた!よし、多目!今の話を聞いとおったな!川にいる鉄砲隊を下げつつ河越城側に向かわせぬように半包囲を組み追い詰めよ!

 確かに民を思いやることは大事だが、思いやることだけが民を慈しむ事ではない。それに気付いたのならば次の手を打てるの。」

 次の手とは何のことだろうかと思い聞こうとすると

 「伝令!綱成殿が西側の上杉軍を撃退!抑えに2000の兵を置き、本人は北側と東側に備える為に3000の兵で城内に戻り休息をとっておりまする!指示があれば連絡が欲しいとのことにございまする!」

 「よし!良くやった!こちら側は今から東と南の兵をどうにかするので北側の兵を睨みこちら側にやってこないように牽制しておくように伝えよ!奴らは所詮烏合の衆、こちらから何もせねばあちら側も損害を恐れて何もしてこぬよ!それに、体調不良のものも多く軍の士気も低い!」

 「ははっ!」

 そう、氏康達がばら撒いた毒の兵糧は下野連合に回されていたのだ。上杉軍は万が一があるといけないからということで彼らに兵糧を提供し、自分たちは元から用意してた兵糧を使用していた為、連合の動きが悪かったのである。
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