上 下
54 / 258

56

しおりを挟む
三井虎高

 「敵陣!渡河を開始いたしました!」

 「うむ、ご苦労!」

一応こちらからも見えてはいるが報告を聞いておく。今川の軍勢は兵達に必要最低限の武具のみを着させてなるべく早く川を渡れるように工夫しているようだ。

こちらとしては遅くても早くてもどちらでも良いがな。

「敵の中陣が半分ほど渡った所で砲撃を開始せよ!」

相手の中陣が渡河を開始したのを見て配下達に命令を出しておく、後は現場の土岐と原が機を見て撃ちかけるだろう。我々もそろそろ準備しておくか。

「擬似竜騎兵達の用意をせよ!我も砲撃が始まれば前に出る!」

「「ははっ!」」

三の丸の裏手から準備させておいた騎馬隊に合流し出陣の準備をする。総勢500の騎馬隊に射手が同数だ。機動力では劣るがその分射程と連射力で制圧力を上げている。

馬に乗ると丁度砲撃が始まったようだ。

「者ども!聞けい!我らが慈しみ皆で作ってきたこの農民の楽園が今、今川によって侵されようとしている!我らが死ぬような訓練をし、鍛錬を積んできたのは今この時のためである!遺憾なくその力を発揮せよ!我らに必要なのは華々しく散る蛮勇ではない!石に齧りついても生き恥を晒しても生き残って我らが国を守ることである!いざ!出陣!」

我らは門を出て若宮神社の隣にある川の隣から平野帯に出て行く。そのまま川の方へと馬を走らせていく、その間、間髪入れずに砲撃が続いている。砲兵にいる観測班がこちらを見ているであろう。彼らが我らの出る姿を見て砲撃を止める。

「虎高殿、相手の先陣は岡部元信と朝比奈泰朝だそうです。中陣では太原雪斎が布陣しており砲撃に晒されながらもこちらを目指して方々に散りながら向かっております。」

風魔が林の中から出てきて敵の状態について説明してくれる。

「そうか、陣容はどうなっている?」

「現在こちらには騎馬隊で蒲原城に突貫している部隊があります。岡部元信が率いる騎馬隊です。とりあえず城に取りつけばどうにかなると思われているのでしょう。」

「まあ、あながち間違ってもないがな。来たとしても他の守る手段があるだけだ。なら、我らはこちらに向かってくる騎馬隊に対して遅滞戦術を行おうと思う。酒井敏房殿に対しては後方に残っているであろう本体に対して突撃をお願いしておいてくれ、そのあとは無理せずに裏手に戻ってこいと。」

「はっ!」

風魔のものが居なくなるのを気配で察知してからもう一度周りを見渡す。皆の士気は上々だ。

「大将殿、我はどうすればよろしいでしょうか?」

「ん?時茂殿か。我らの役目は敵を引きつけながら弓矢で敵を削ることだ。なので突撃したりはしないので時茂殿の武勇をみせるわけにはいかないのだ。申し訳ない。だが、部隊の指揮を任せたい。我も指示を出すが敵が二手に分かれた場合などは反対側を任せる。」

「はっ!お任せくだされ!」

時茂殿は不満そうな顔など一切見せずにいる。それはそうだろうが軍学校に行ったのであろうものは基本的に北条が行う軍略について基礎知識をもっている。そのため、その作戦の意義を理解できるのであまり不満は出ないのだ。
それに我が殿ならばしっかりと評価してくれるのもあるだろうがな。

「時茂殿、ここだけの話だが相手を撤退に追い込んだ際の追撃戦は乱戦になるだろう。その時に我と一緒に突っ込もうぞ。」

ニヤリと笑いかけると時茂殿は一瞬ポカンとした表情を浮かべた後獰猛な笑みを浮かべうなずいて下がっていった。
あの、正木兄弟の兄だぞ。勇猛でないはずがない。楽しくなりそうだと思っていると敵の姿が見えてきた。砲撃から逃れる為に必死になってこちらに向かってきているな。

「よし!敵の姿を確認したぞ!射撃体制用意!順次敵に向かって狙撃を開始しろ!一当てしたのち下がりながら連射だ!」

パシュンッ

特徴的な弓の音をさせながら真っ直ぐに力強く敵を貫こうと矢が飛んでいく。相手は最初の一撃で50人ほどが戦線を離脱した。敵の指揮官であろう男が周りに指示を出し二手に分かれた。彼らは矢を避ける為に出来るだけ体をかがめ馬の背に顔を隠す。

「時茂殿反対側は任せますぞ!」

「はっ!」

「退けい!退けい!」

我らは馬を走らせて敵から距離を取りながら後ろの射手に攻撃を任せる。

「あてさえすればいい!連射しろ!」

敵は連射出来ることを知らない為発射間隔の短さに驚き戸惑っている。このまま減らせるところまで減らすかと考えていると肉薄しようと損害覚悟で突っ込んでくるかと思った敵は追撃をやめ射程外へと逃れる。しかし、離脱するわけでもなくこちらを睨みながら距離を保っている。

流石にやるな。こちらが砲撃を精密に行えないことを理解しているのか?だがお前達をここまで引きつけたこと自体が作戦が成功しているんだよ。

後ろから歩兵隊がやってくる。あれが雪斎が率いる中陣か。相手が右手左手、奥に一隊ずつの我らから見ると四角の頂点となるように分かれている。狙えるものに対しては狙撃を行わせているがあまり効果はないかもしれんな。

ジリジリと蒲原城の方へと押しやられている。だがこれでいい、あとは酒井殿に託すだけだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき
ファンタジー
あらすじ 狐の神族にはどんな過去があって人に封印されたのか? もはや世界の誰からも忘れられた男となった狐神はどうにかして人の体から出ようとするが、思いもよらぬ展開へと発展していく… 消えている過去の記憶を追い求めながら彼が感じた事は戦争のない世界を作りたい。 シーズンを重ねるごとに解き明かされていく狐の神族の謎は衝撃の連発! 書籍化、アニメ化したいと大絶賛の物語をお見逃しなく

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

安政ノ音 ANSEI NOTE

夢酔藤山
歴史・時代
温故知新。 安政の世を知り令和の現世をさとる物差しとして、一筆啓上。 令和とよく似た時代、幕末、安政。 疫病に不景気に世情不穏に政治のトップが暗殺。 そして震災の陰におびえる人々。 この時代から何を学べるか。狂乱する群衆の一人になって、楽しんで欲しい……! オムニバスで描く安政年間の狂喜乱舞な人間模様は、いまの、明日の令和の姿かもしれない。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

処理中です...