上 下
52 / 258

53

しおりを挟む
 雪斎が蒲原城へと向けて進軍し出した頃、先陣では新たな問題が起こっていた。

「進め!進めぇ!蒲原城に近づけばあの攻撃は来ないぞ!」

 と言っても、それが本当かは確かめられないが、雪斎殿がそう言っているのだ。信じるしかない!俺は俺の出来る事をするまでだ!

「岡部元信!推して参る!我に続けい!」

愛用の槍を掲げ全速で進もうと命令を出すと、前から敵の騎馬隊が留まりこちらに横腹を向けている。なんだ?あの騎馬隊は?後ろに兵を乗せて二人乗りをしているのか?あれでは騎馬隊の十全な機動力が使えぬぞ?

 うわぁーー!

そう思っていたら前方から鋭い矢が何本も何度もやってくる。そうか!あの後ろの奴らは弓持ちなのか!

「相手は弓持ちを後ろに乗せている!弓ならばすぐに動けない!しかも2人乗りだ!動け動け!当たらねばこちらの勝ちだ!突っ込め!」

副官の久野に半分を任せて左右から挟み撃ちにしようとする。相手もそれに合わせて我らから離れようとくるが、やはり速度は普通の騎馬隊よりも遅い。

「このままいけば追いつけるぞ!進めい!」

相手は背を見せこちらから逃げるが、何かがおかしい。なんだ?何故あいつらはこちらを向いて奇妙な弓のような物をこちらに向けている?おかしいだろう。

「気をつけろ!散開だ!何かがおかしい!仕掛けてくるぞ!」

少し馬同士の距離を離し突っ込もうとすると相手の方が早かった。弓がこちらに飛んできたのだ。全速で追っている為急に止まったり射線を外したりは出来ずに相手の思うように討ち取られていく。

「馬の首に顔を近づけろ!狙い撃ちにされるぞ!」

馬の顔を盾にするように相手からの射線を外しながら近づこうとする。

「よし!これで相手は弓矢の補充に時間が掛かるはずだ!今だ!食い込めぇ!!!!」

うぉおおおおおお

雄叫びを上げながら左右から突っ込もうと意気込む。しかし、それはすぐに悲鳴に変わった。相手は弓矢の補充をせずにそのままこちらにもう一度弓を撃ってきたのだ。

 おかしいだろう!弓矢の連射だと!?相手のおかしな兵器は確かに貫通力と音に優れていると聞いたことはあるが、連射できるとは聞いておらぬぞ!?

ヒヒーン

馬が悲鳴を上げて体が地面に放り出される。相手の矢が俺の馬に当たったのだ。苦しい。背中から落ちた為致命傷はないが、息がし辛い。このままでは拙いぞ!すぐに立ち直って周りを見ると。

半数の兵が死に絶えていた。馬に放り出された者もいれば、頭を射抜かれ馬がその場に置き去りになっているのもある。俺はすぐに馬に跨ると撤退の判断をする。

「退けい退けい!一旦相手の射程外に出るぞ!左右に進路をばらけさせながら一度退けい!」

折角詰めようとしたが、このままでは碌に成果も上げられずにやられるだけだ。ここは恥を掻いてでも一度撤退を!

相手の大将であろう偉丈夫の男をチラリと一睨してから、弓の射程外であろう場所まで下がる、しかし付かず離れずを維持する。下手に離れすぎるとあの天雷の武器でこちらがやられてしまう。

雪斎殿が用意したという秘密兵器が使える距離に近づくまでは、何としてでも引く訳には行かない。

「よし!体勢を立て直し次第、雪斎殿と合流して蒲原城を目指すぞ!付かず離れずを維持しろ!」

~太原雪斎~

 中陣が先陣に追いつく頃、半数の500ほど数を減らした岡部元信から連絡が来た。相手は未知の弓を使い、今まででは考えられないような速度で矢を打ち出してくる為、相手に近寄ろうとするとこちらが一方的にやられてしまうので付かず離れずを維持しているそうだ。

 その判断は流石と言わざるを得ない。ワシでも同じ反応をするじゃろう。このまま四角の形になるように左右に先陣を分け、ワシ達中陣が後ろになる擬似鶴翼の陣で相手の騎馬隊を先頭にジリジリと蒲原城に近づく。

 相手は散発的に矢を射掛けてきているが、ほぼ掠り傷で済んでいる。しかし、毒矢に切り替えたのだろうか、何人かは痺れて動きが雑になったりしている。厭らしい戦い方だが効果的だ。

 ついに辿り着いた!蒲原城は山城であり攻略には手間が掛かりそうではあるが、今回持ってきたこの兵器で甚大な被害を与えやすくして侵攻だ。そう思った矢先後ろから伝令がやって来る。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき
ファンタジー
あらすじ 狐の神族にはどんな過去があって人に封印されたのか? もはや世界の誰からも忘れられた男となった狐神はどうにかして人の体から出ようとするが、思いもよらぬ展開へと発展していく… 消えている過去の記憶を追い求めながら彼が感じた事は戦争のない世界を作りたい。 シーズンを重ねるごとに解き明かされていく狐の神族の謎は衝撃の連発! 書籍化、アニメ化したいと大絶賛の物語をお見逃しなく

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

石田三成だけど現代社会ふざけんな

実は犬です。
ファンタジー
 関ヶ原の戦いで徳川家康に敗れた石田三成。  京都六条河原にて処刑された次の瞬間、彼は21世紀の日本に住む若い夫婦の子供になっていた。  しかし、三成の第二の人生は波乱の幕開けである。 「是非に及ばず」  転生して現代に生まれ出でた瞬間に、混乱極まって信長公の決め台詞をついつい口走ってしまった三成。  結果、母親や助産師など分娩室にいた全員が悲鳴を上げ、挙句は世間すらも騒がせることとなった。  そして、そんな事件から早5年――  石田三成こと『石家光成』も無事に幼稚園児となっていた。  右を見ても左を見ても、摩訶不思議なからくり道具がひしめく現代。  それらに心ときめかせながら、また、現世における新しい家族や幼稚園で知り合った幼い友人らと親交を深めながら、光成は現代社会を必死に生きる。  しかし、戦国の世とは違う現代の風習や人間関係の軋轢も甘くはない。  現代社会における光成の平和な生活は次第に脅かされ、幼稚園の仲間も苦しい状況へと追い込まれる。  大切な仲間を助けるため、そして大切な仲間との平和な生活を守るため。  光成は戦国の世の忌むべき力と共に、闘うことを決意した。 歴史に詳しくない方も是非!(作者もあまり詳しくありません(笑))

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。 第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

処理中です...