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氏政の万喜城攻略が始まった頃と同時刻。場所は変わって椎津城。里見勢の猛攻を受けながらも、なんとか城を落とされないように泥臭く戦っている中、原親子がひと時の休息を得て評定の時間を待っていると、北条からやってきた知らせが二人の元に届いていた。
「なになに、稲村城を攻め落とし、今は万喜城へと攻めかかっているため、千葉と真里谷には里見を引きつけてこちらの援軍へ来られないようにしていただきたく候。時をかければかけるほどこちらに有利になるで候。もし血気盛んな諸将がいたとしても原勢には耐えていただきたく候。里見水軍は北条水軍で叩き潰すので安心されたき候。」
「なるほど。万喜城を落とせばあとは久留里城だけとなる。そうなれば後は圧殺するか降伏させるか、好きなようにですね、父上。」
父親である原胤清は悪どい笑みを浮かべながら、息子に策を伝える。
「伊豆守様はそのような事を我らだけに伝えている。胤貞、これがどういう意味か分かるか?」
息子である原胤貞を鍛えるためにも考えさせる。息子はまだまだ考えが浅いところがある。原氏の家格を上げ、北条家中で栄達するには武略よりも知略が必要だと胤清は考えていた。
というのも、最近では地黄八幡と呼ばれ始めた猛将の北条綱成や、荒くれ者の水軍をまとめ伊豆周辺の海を支配する富永直勝など、武闘派の者たちがどんどん名を挙げている。
その一方で謀略や内政などはまだまだであると推測している。北条軍略を担う多目や外交官かつ内政官である北条幻庵殿は別として、中堅層がスカスカである筈だ。
というのも、伊豆守様が伊豆衆を文官として実地で育てたり、学校という学び舎で育てているのも見ても明らかだろう。
何人か伊豆守様の元に新たな武将が集められていると聞く。だが結果を出すのはこれからだ。まだまだ我らの割り込む余地もある。
「我らを信用して任せている。飛び出そうとする者を引き止めて欲しいという事でしょうか?」
「ふむ、無難だな。だが違う。伊豆守様は前々から我らに接触をしてきており、我ら原一派を千葉から離して北条内に取り込もうとしておられる。多分だが上総、下総どちらも北条の領地として統治したいのだろう。
そして、無理矢理にでも土地を北条の直轄にして武官、文官の俸禄制にするつもりであろう。その上で我らが他よりも富んでおり、民達の満足度が高ければ周りはどう思う?」
「…。羨ましいでござりましょうな。」
「そうだ、そして民は北条の豊かな方に逃げようとするだろう。さすれば千葉は兵として働ける民も少なくなり、結局は北条に降ることになる。
それをお考えになった上で我らを試しておられるのだ。多分だが、千葉、真里谷両者への負担を増やし、北条の庇護なしでは立ち行かなくさせ、その上で我らと共に北条の傘下に降る、という決断をさせられるかどうかを。」
「それは…難しゅうございましょうな。我らが高みの見物を決めれば非難されまするし、逆に出張っていけば数の多い我らの被害が増え、両者の被害が少なくなってしまう。」
「そうだ。ここが我らの分水嶺というやつじゃの。腕の見せ所じゃな。よく見て学ぶのだぞ。我らが栄達できるかはお主とワシにかかっておる。」
原親子はその後すぐに呼びにきた小姓に返事をし、評定へと向かう。この場では真里谷氏の城ではあるが、兵の規模でも家格でも上の千葉昌胤が上座に座り、話を進める。
「では、これからどうするかの話をしよう。北条の援軍はどうなっている?」
原胤清へと目を向けて問いかける。
「はっ!北条は稲村城を制圧し、万喜城を抑えているとの事です。」
ひとつめの情報操作、どうして欲しいかを伝えない。こうして話を持って行きやすいようにする。
「なぜ攻められておるこちらに来てくれぬのだ!」
真里谷の諸将が騒ぐ。それを横目に胤清は話を続ける。
「万喜城を抑えれば我ら千葉もここに集中できるというもの。伊豆守様が万喜城に圧をかけている今が好機であるとも言えるかも知れませぬ。」
わざわざ自分から攻めようなどとは言わない。そんな事をすれば被害が出た時に我らの責任となってしまう。ワシは状況を説明しただけにすぎぬ。
「では!我らも城から打って出て、里見を追いかえしましょうぞ!今ならば里見も慌てて兵を引きまするぞ!」
先程の血気盛んな将が周りの将を巻き込みながら、攻めるという論調を作り上げる。千葉、真里谷両当主は嫌そうにしているが、ここで勢いを止める方が士気に関わると見たのだろう。結局は攻めることに同意した。
「では、陣をどう配置する?何かいい案がある者はいるか?」
諸将は一気呵成に攻めかかれば里見なぞ追い返せる!と啖呵を切ってはいるが、実際今の今まで追い詰められていたのはこちらだ。それを忘れているのか?と内心バカにしながら陣立を組み上げる。
「ならば、彼らを別働隊として突撃させましょうぞ。我らは彼らが抜ける右翼を担当しまする。ですので殿と真里谷殿には左翼と右翼を担っていただきたく存じます。」
「ふむ、それでよかろう。では別働隊の動きはどうする?」
「で、あれば我が倅に指揮をさせましょう。右翼の後ろ側から回り込むように突撃させまする。」
「よし!では皆のもの出陣の準備だ!」
「「「「はっ!」」」」
「なになに、稲村城を攻め落とし、今は万喜城へと攻めかかっているため、千葉と真里谷には里見を引きつけてこちらの援軍へ来られないようにしていただきたく候。時をかければかけるほどこちらに有利になるで候。もし血気盛んな諸将がいたとしても原勢には耐えていただきたく候。里見水軍は北条水軍で叩き潰すので安心されたき候。」
「なるほど。万喜城を落とせばあとは久留里城だけとなる。そうなれば後は圧殺するか降伏させるか、好きなようにですね、父上。」
父親である原胤清は悪どい笑みを浮かべながら、息子に策を伝える。
「伊豆守様はそのような事を我らだけに伝えている。胤貞、これがどういう意味か分かるか?」
息子である原胤貞を鍛えるためにも考えさせる。息子はまだまだ考えが浅いところがある。原氏の家格を上げ、北条家中で栄達するには武略よりも知略が必要だと胤清は考えていた。
というのも、最近では地黄八幡と呼ばれ始めた猛将の北条綱成や、荒くれ者の水軍をまとめ伊豆周辺の海を支配する富永直勝など、武闘派の者たちがどんどん名を挙げている。
その一方で謀略や内政などはまだまだであると推測している。北条軍略を担う多目や外交官かつ内政官である北条幻庵殿は別として、中堅層がスカスカである筈だ。
というのも、伊豆守様が伊豆衆を文官として実地で育てたり、学校という学び舎で育てているのも見ても明らかだろう。
何人か伊豆守様の元に新たな武将が集められていると聞く。だが結果を出すのはこれからだ。まだまだ我らの割り込む余地もある。
「我らを信用して任せている。飛び出そうとする者を引き止めて欲しいという事でしょうか?」
「ふむ、無難だな。だが違う。伊豆守様は前々から我らに接触をしてきており、我ら原一派を千葉から離して北条内に取り込もうとしておられる。多分だが上総、下総どちらも北条の領地として統治したいのだろう。
そして、無理矢理にでも土地を北条の直轄にして武官、文官の俸禄制にするつもりであろう。その上で我らが他よりも富んでおり、民達の満足度が高ければ周りはどう思う?」
「…。羨ましいでござりましょうな。」
「そうだ、そして民は北条の豊かな方に逃げようとするだろう。さすれば千葉は兵として働ける民も少なくなり、結局は北条に降ることになる。
それをお考えになった上で我らを試しておられるのだ。多分だが、千葉、真里谷両者への負担を増やし、北条の庇護なしでは立ち行かなくさせ、その上で我らと共に北条の傘下に降る、という決断をさせられるかどうかを。」
「それは…難しゅうございましょうな。我らが高みの見物を決めれば非難されまするし、逆に出張っていけば数の多い我らの被害が増え、両者の被害が少なくなってしまう。」
「そうだ。ここが我らの分水嶺というやつじゃの。腕の見せ所じゃな。よく見て学ぶのだぞ。我らが栄達できるかはお主とワシにかかっておる。」
原親子はその後すぐに呼びにきた小姓に返事をし、評定へと向かう。この場では真里谷氏の城ではあるが、兵の規模でも家格でも上の千葉昌胤が上座に座り、話を進める。
「では、これからどうするかの話をしよう。北条の援軍はどうなっている?」
原胤清へと目を向けて問いかける。
「はっ!北条は稲村城を制圧し、万喜城を抑えているとの事です。」
ひとつめの情報操作、どうして欲しいかを伝えない。こうして話を持って行きやすいようにする。
「なぜ攻められておるこちらに来てくれぬのだ!」
真里谷の諸将が騒ぐ。それを横目に胤清は話を続ける。
「万喜城を抑えれば我ら千葉もここに集中できるというもの。伊豆守様が万喜城に圧をかけている今が好機であるとも言えるかも知れませぬ。」
わざわざ自分から攻めようなどとは言わない。そんな事をすれば被害が出た時に我らの責任となってしまう。ワシは状況を説明しただけにすぎぬ。
「では!我らも城から打って出て、里見を追いかえしましょうぞ!今ならば里見も慌てて兵を引きまするぞ!」
先程の血気盛んな将が周りの将を巻き込みながら、攻めるという論調を作り上げる。千葉、真里谷両当主は嫌そうにしているが、ここで勢いを止める方が士気に関わると見たのだろう。結局は攻めることに同意した。
「では、陣をどう配置する?何かいい案がある者はいるか?」
諸将は一気呵成に攻めかかれば里見なぞ追い返せる!と啖呵を切ってはいるが、実際今の今まで追い詰められていたのはこちらだ。それを忘れているのか?と内心バカにしながら陣立を組み上げる。
「ならば、彼らを別働隊として突撃させましょうぞ。我らは彼らが抜ける右翼を担当しまする。ですので殿と真里谷殿には左翼と右翼を担っていただきたく存じます。」
「ふむ、それでよかろう。では別働隊の動きはどうする?」
「で、あれば我が倅に指揮をさせましょう。右翼の後ろ側から回り込むように突撃させまする。」
「よし!では皆のもの出陣の準備だ!」
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