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再会への道
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夜が更け、街道を通る者がなくなったのをイーラの配下が確認し、
予め通れるように切り拓いていた王都への抜け道を四人で進む。
鬱蒼とした森を抜け、人気のない空き家の裏庭に出ると、
イーラの手下と思われる男女二人が音もなく出てきた。
身なりや容貌はヴォルデの国民と違和感なく、大分以前からこの辺りに潜入していたのだろう事が窺えた。
「イーラ様、アムリ様、仰せつかっておりました通路を確保しております」
「ご苦労。引き続き哨戒するように」
「はっ」
珍しく鋭く威厳のある声でアムリがそう言うと、男女は散開していき、
アムリの案内で家と接した倉庫に行くと、地下へと続く通路が開いていた。
どうやら、そこが先程話に出てきた通路らしい。
「私が先に進みますので、イーラ様、ランシェット様と続き、
グリゴール様は後方をお願いいたします」
「わかった」
何度かアムリは通ったことがあるようで、灯りも無いのに前方に何があるか大体把握しているらしく、壁に左手を付けつつも迷いなく進んでいく。
途中で何度か分岐があったが、進む速度は落ちることも無く、かなりの時間土の道を進む足音と、息切れを起こしたランシェットの吐息がはあはあと続いていた。
「ランシェット様、休憩されますか?」
「…いえ、進んでください。早く行かなければ」
気づけば、自然と口からそう言葉が零れていた。
誰に急かされている訳でもないのに、あの燃えるような夜空を見て無意識に焦燥感に駆られているのだろうか。
ランシェットは自分の気持ちが分からないまま、震える足と心を奮い立たせ、歩を進めた。
それからしばらくして、やっとアムリの歩みが止まった。
見上げると、暗さに長年慣れているランシェットにははっきりと土でできた通路を塞いでいる金属質の板が確認できた。
「ここは常に配下の者に守らせてはいますが、万一のことに備えておいてくださいね」
「ああ」
アムリがコンコン、ココンと少し変わったリズムでノックをすると、それまで動く気配のなかった板がズズ、とゆっくり動いた。
「お待ちしておりました」
「……これは、少々予想外のお出迎えですね」
そこにいたのは、イーラやアムリ側の人間ではなく、どうやら王の配下の者らしかった。
ランプを手に持ち、腰には剣を佩いている。
通路が繋がっていたのは王妃に与えられた宮の庭の端にある、こんもりとした茂みだった。
普段人があまり立ち入らないが、こんな通路が王宮に出来ていたというのは国として危機的な状況なのではないか。
「王はイーラ様の動きは以前よりご存じで、悪影響がない限り泳がしておけとのご命令でしたので」
思っていることを言い当てるように柔和な笑みでそう告げた金髪の若い男には、どこか見覚えがある。
ランシェットが思い出すより早く、男が声を掛けてくる。
「お久しぶりです、ランシェット様。身の回りのお世話をしておりましたレイズです。
覚えておられますでしょうか?」
脳裏に、いつもはにかむようにして身の回りの世話をしてくれていた
線の細い背の低い金髪の少年が瞬時に思い出された。
「レイズ…!?本当に…レイズなのか?」
あまりにも記憶の中の彼と違い体格の良い立派な青年になった彼を見て、十年という年月が経ってしまったということの重大さに改めて愕然とする。
記憶の中の彼は十五歳程でランシェットよりかなり背も低く、確か子爵家の四男坊だかで伝手を頼り、行儀見習いを兼ねて王宮勤めとなりランシェットの世話係に配属されたと言っていた。
「ええ…ランシェット様、レイズです。
おやつれになって…大変ご苦労されたことでしょう…
王がお待ちです、お仕度などは良いとのことですのでお早く」
涙ぐみそうになっている人の好い顔立ちを見て、当時のレイズと結びつく。
裏表のないその人柄は、ランシェットが去った後、王の元でも重宝されているのだろう。
本来ここで落ち合うはずであっただろう、イーラたちの配下は、王の傍を守る近衛兵の横で大人しく待機しこちらに視線を遣っていた。
「行くぞ、ランシェット」
「ああ。…イーラ殿下、アムリ殿、ここまでありがとうございました」
短く二人に挨拶をし、ランシェットはグリゴールとともにレイズの案内で王の元へと向かった。
予め通れるように切り拓いていた王都への抜け道を四人で進む。
鬱蒼とした森を抜け、人気のない空き家の裏庭に出ると、
イーラの手下と思われる男女二人が音もなく出てきた。
身なりや容貌はヴォルデの国民と違和感なく、大分以前からこの辺りに潜入していたのだろう事が窺えた。
「イーラ様、アムリ様、仰せつかっておりました通路を確保しております」
「ご苦労。引き続き哨戒するように」
「はっ」
珍しく鋭く威厳のある声でアムリがそう言うと、男女は散開していき、
アムリの案内で家と接した倉庫に行くと、地下へと続く通路が開いていた。
どうやら、そこが先程話に出てきた通路らしい。
「私が先に進みますので、イーラ様、ランシェット様と続き、
グリゴール様は後方をお願いいたします」
「わかった」
何度かアムリは通ったことがあるようで、灯りも無いのに前方に何があるか大体把握しているらしく、壁に左手を付けつつも迷いなく進んでいく。
途中で何度か分岐があったが、進む速度は落ちることも無く、かなりの時間土の道を進む足音と、息切れを起こしたランシェットの吐息がはあはあと続いていた。
「ランシェット様、休憩されますか?」
「…いえ、進んでください。早く行かなければ」
気づけば、自然と口からそう言葉が零れていた。
誰に急かされている訳でもないのに、あの燃えるような夜空を見て無意識に焦燥感に駆られているのだろうか。
ランシェットは自分の気持ちが分からないまま、震える足と心を奮い立たせ、歩を進めた。
それからしばらくして、やっとアムリの歩みが止まった。
見上げると、暗さに長年慣れているランシェットにははっきりと土でできた通路を塞いでいる金属質の板が確認できた。
「ここは常に配下の者に守らせてはいますが、万一のことに備えておいてくださいね」
「ああ」
アムリがコンコン、ココンと少し変わったリズムでノックをすると、それまで動く気配のなかった板がズズ、とゆっくり動いた。
「お待ちしておりました」
「……これは、少々予想外のお出迎えですね」
そこにいたのは、イーラやアムリ側の人間ではなく、どうやら王の配下の者らしかった。
ランプを手に持ち、腰には剣を佩いている。
通路が繋がっていたのは王妃に与えられた宮の庭の端にある、こんもりとした茂みだった。
普段人があまり立ち入らないが、こんな通路が王宮に出来ていたというのは国として危機的な状況なのではないか。
「王はイーラ様の動きは以前よりご存じで、悪影響がない限り泳がしておけとのご命令でしたので」
思っていることを言い当てるように柔和な笑みでそう告げた金髪の若い男には、どこか見覚えがある。
ランシェットが思い出すより早く、男が声を掛けてくる。
「お久しぶりです、ランシェット様。身の回りのお世話をしておりましたレイズです。
覚えておられますでしょうか?」
脳裏に、いつもはにかむようにして身の回りの世話をしてくれていた
線の細い背の低い金髪の少年が瞬時に思い出された。
「レイズ…!?本当に…レイズなのか?」
あまりにも記憶の中の彼と違い体格の良い立派な青年になった彼を見て、十年という年月が経ってしまったということの重大さに改めて愕然とする。
記憶の中の彼は十五歳程でランシェットよりかなり背も低く、確か子爵家の四男坊だかで伝手を頼り、行儀見習いを兼ねて王宮勤めとなりランシェットの世話係に配属されたと言っていた。
「ええ…ランシェット様、レイズです。
おやつれになって…大変ご苦労されたことでしょう…
王がお待ちです、お仕度などは良いとのことですのでお早く」
涙ぐみそうになっている人の好い顔立ちを見て、当時のレイズと結びつく。
裏表のないその人柄は、ランシェットが去った後、王の元でも重宝されているのだろう。
本来ここで落ち合うはずであっただろう、イーラたちの配下は、王の傍を守る近衛兵の横で大人しく待機しこちらに視線を遣っていた。
「行くぞ、ランシェット」
「ああ。…イーラ殿下、アムリ殿、ここまでありがとうございました」
短く二人に挨拶をし、ランシェットはグリゴールとともにレイズの案内で王の元へと向かった。
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