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太陽にとっての
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食事を終えた頃、世話焼きの良い婦人がたがランシェットにはスカートやら日除けの帽子やらを、グリゴールには少し型は古いが充分着替えになる服をかき集めて食堂に持ってきてくれた。
まだ日が高いうちに出発し、王都を目指すのが良いだろうとのことで、グリゴールの愛馬は塔を出発した時より大荷物を背負わされ村を発つこととなった。
見送りには入口まで村中の人々が出てきてくれた。
どこからどう見ても、さながらこれから王都に新婚旅行に向かいますと言わんばかりの様相だ。
「本当に何から何までありがとうございました」
「いいっていいって!また今度は子供と一緒に村に遊びに来てくれ」
花のこぼれるような笑顔で言われて、食堂の主人も心底嬉しそうだ。
王宮でやっていくにはこれくらいの面の皮の厚さが必要だったのかもしれない。
そう思いながらもグリゴールは化粧まで施されますます美しさに磨きがかかったランシェットの愛嬌の振りまき具合に、その美しさで王だけでなく家臣の気持ちも掻き乱していたという噂だけは本当だろうと思った。
村から出てしばらく経ち、人影が完全に無くなったのを確認し、二人はやっと普段の口調に戻った。
「ったく…王の【花】はとんだ珍種だな」
「人のことを言える騎士様か?
…狙われてるとわかった以上派手に痕跡を残した方がいい場合もあるだろう?逃げてばかりじゃ食事もとれやしない」
せっかく外に出れたのだから、とランシェットはウエストに巻いていたスカーフを解いた。
ふう、と大きく息をして満足気にしている表情は先程のいかにもな澄ました笑顔ではなく、柔和で自然なものだった。
思わずグリゴールはその表情に見入ってしまった。
「どうした?何かついてるか?」
「!…いや、何でもない。
その、妹君はお前さんに似ているのか?」
久しぶりに出た妹の話に、ランシェットの表情が少し暗くなる。
しまったと思ったグリゴールだったが、ランシェットはぽつりと話し始める。
「私よりもっと朗らかで太陽みたいな子だよ。
髪ももっと陽射しのように金色に輝いていて、私みたいに翳りなど持っていなかった。
…この姿は母上の方が似ているな」
苦笑してそう話すランシェットは、遠い昔を思い出すように視線をぼんやりとさせ、馬上から見える景色では無いものを見ているようだった。
「…お前さんもさっきみたいにしてると充分太陽みたいに見えるがな」
「え?」
「なんで王はお前さんを一目見て花になれと言ったのか、何となくだが分かる気がするよ。
あいつは言葉少なだから言わないだろうが、昔どんな子が好みかって話になった時があってな」
幼少期の王の話は聞いたことがなく、ランシェットは思わずグリゴールを弾かれたように見つめた。
「まあまあ慌てんな。
あれは十二歳頃の事だったな…その頃にはもう即位したての頃のあの少し人を食ったような性格の王子様でな。
俺含めた騎士候補の同年代の奴らと剣の練習後に、舞踏会の話題が出たんだ」
ヴォルデでは一般的に王侯貴族の社交界デビューは十二歳から十代の半ばである。
王子や王都に住んでいる貴族たちの子息令嬢たちは十二になる年の建国記念日に王宮で開かれる舞踏会に出て顔見世するのが恒例となっていた。
因みにランシェットが十五まで王都に行かなかったのは、本来人の多い所が好きでないのもあったが、父の体調が優れないことが多く王都や領地にて静養することが多く、望んで父の補佐として領地に残っていた為である。
そのお陰で庭園で偶然とはいえ王に出会うことになったのだ。
これはランシェットにとって幸か不幸かは今となっては分からないが。
まだ日が高いうちに出発し、王都を目指すのが良いだろうとのことで、グリゴールの愛馬は塔を出発した時より大荷物を背負わされ村を発つこととなった。
見送りには入口まで村中の人々が出てきてくれた。
どこからどう見ても、さながらこれから王都に新婚旅行に向かいますと言わんばかりの様相だ。
「本当に何から何までありがとうございました」
「いいっていいって!また今度は子供と一緒に村に遊びに来てくれ」
花のこぼれるような笑顔で言われて、食堂の主人も心底嬉しそうだ。
王宮でやっていくにはこれくらいの面の皮の厚さが必要だったのかもしれない。
そう思いながらもグリゴールは化粧まで施されますます美しさに磨きがかかったランシェットの愛嬌の振りまき具合に、その美しさで王だけでなく家臣の気持ちも掻き乱していたという噂だけは本当だろうと思った。
村から出てしばらく経ち、人影が完全に無くなったのを確認し、二人はやっと普段の口調に戻った。
「ったく…王の【花】はとんだ珍種だな」
「人のことを言える騎士様か?
…狙われてるとわかった以上派手に痕跡を残した方がいい場合もあるだろう?逃げてばかりじゃ食事もとれやしない」
せっかく外に出れたのだから、とランシェットはウエストに巻いていたスカーフを解いた。
ふう、と大きく息をして満足気にしている表情は先程のいかにもな澄ました笑顔ではなく、柔和で自然なものだった。
思わずグリゴールはその表情に見入ってしまった。
「どうした?何かついてるか?」
「!…いや、何でもない。
その、妹君はお前さんに似ているのか?」
久しぶりに出た妹の話に、ランシェットの表情が少し暗くなる。
しまったと思ったグリゴールだったが、ランシェットはぽつりと話し始める。
「私よりもっと朗らかで太陽みたいな子だよ。
髪ももっと陽射しのように金色に輝いていて、私みたいに翳りなど持っていなかった。
…この姿は母上の方が似ているな」
苦笑してそう話すランシェットは、遠い昔を思い出すように視線をぼんやりとさせ、馬上から見える景色では無いものを見ているようだった。
「…お前さんもさっきみたいにしてると充分太陽みたいに見えるがな」
「え?」
「なんで王はお前さんを一目見て花になれと言ったのか、何となくだが分かる気がするよ。
あいつは言葉少なだから言わないだろうが、昔どんな子が好みかって話になった時があってな」
幼少期の王の話は聞いたことがなく、ランシェットは思わずグリゴールを弾かれたように見つめた。
「まあまあ慌てんな。
あれは十二歳頃の事だったな…その頃にはもう即位したての頃のあの少し人を食ったような性格の王子様でな。
俺含めた騎士候補の同年代の奴らと剣の練習後に、舞踏会の話題が出たんだ」
ヴォルデでは一般的に王侯貴族の社交界デビューは十二歳から十代の半ばである。
王子や王都に住んでいる貴族たちの子息令嬢たちは十二になる年の建国記念日に王宮で開かれる舞踏会に出て顔見世するのが恒例となっていた。
因みにランシェットが十五まで王都に行かなかったのは、本来人の多い所が好きでないのもあったが、父の体調が優れないことが多く王都や領地にて静養することが多く、望んで父の補佐として領地に残っていた為である。
そのお陰で庭園で偶然とはいえ王に出会うことになったのだ。
これはランシェットにとって幸か不幸かは今となっては分からないが。
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