【BL】王の花

春月 黒猫

文字の大きさ
上 下
9 / 29

グリゴール

しおりを挟む
グリゴールが左遷されここへ来た原因は、ガズールとの共同貿易船の護衛任務を失敗しその任を解かれたことにあった。

ランシェットと王が出会う少し前、代替わりした王に騎士の称号を貰ったばかりだと言うのに、グリゴールはもっと広い世界が見てみたいと王に無理を言い周辺諸国を遊歴した。

その経験から数年前貿易船の護衛を買って出たものの、今回の航海で貿易船は海賊に襲われ、ガズールの兵士により助けられ、命からがら生き延びた。
その事で若い頃から王の乳兄弟だからと好き勝手をして驕り、王や国の面目を潰したと重臣から非難を受けた。

王は先代の王から仕えている重臣には強く出れないことも多い。

今でこそ思うことだが、そのような事を重臣達に言わせない為にも、王の傍に居た以上は自分の意思を飲み込むことも時に必要だった。


ランシェットもグリゴールも王も、隙を与えないように振る舞い、周りを信頼できる者でもっとよく固めておく必要があったのだ。




過去の感傷と後悔を振り切るように、伝令の男に声をかける。

「…お前さんが来てくれてよかった。
    王は元気にされてるのか?」

「…表向きは変わりませんが最近は少しお疲れのようです。
    私の兄が王宮の書庫に仕えていて、ここだけの話以前より物思いに耽られることが多いと申しております」


早く王に会い、きちんと話がしたい。

そう思った瞬間、浴室から続く入口に人影が見えた。
その人物をきちんと視界に捉えた瞬間、二人は息を飲んだ。


伸び放題だった髪の毛は香油で艶やかに纏まり毛先は梳られ、緩く右側に結われている。
薄汚れ乾燥していた肌は白く輝き、上気したような頬、熟れた果実のような唇と称された容貌は少年のそれから青年へと変わっていたが噂に違わず殆ど衰えていなかった。

王の用意した衣装は寸法も良く合っていて、痩せたランシェットの体を見劣りさせない。

ヴォルデの王侯貴族はローブをよく着る。
王や王妃は床を擦るほど長いゆったりとしたものを着用するが、大臣になるとくるぶしほどの丈になり、若年になるほどすっきりとしたシルエットのものになる。

騎士になると機能性が問われるためもっと体に沿った前身の短いコートを着用するが、これはどちらとも違っていた。

まだ罪人という立場を解かれた訳ではないが、王の【花】である事を忘れさせない為の品位を保つかのように、ローブほど長くはないゆったりとしたシルエットの落ち着いた赤いケープコートに、中のドレスシャツの襟元からたっぷりと白いフリルが覗き、ロングブーツを合わせたパンツもゆったりとし凛とした雰囲気を醸し出していた。
とても少し前まで囚人服を着ていたとは思えない。

絶句している二人を見て、ランシェットは不安になったらしい。


「…変だろうか?」

「いや、全く…さすが【花】だな」

「ええ、全くです。
    それでは私はこれで王都に戻らせて頂きます。
    …お気を付けて」


ようやく開放された伝令の男は来た時と同じように慌ただしく早馬を駆けて戻って行った。


「さて、俺達も行くとするか」

「ああ」


ランシェットが湯浴みをしている間に、グリゴールは手早く身支度を整え、塔守に着任する前に着ていた騎士服に着替えていた。

村の酒場にいても違和感のない塔守の緩い普段着より、随分と身が引き締まる思いがした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

浮気性のクズ【完結】

REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。 暁斗(アキト/攻め) 大学2年 御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。 律樹(リツキ/受け) 大学1年 一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。 綾斗(アヤト) 大学2年 暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。 3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。 綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。 執筆済み、全7話、予約投稿済み

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

溺愛

papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。 ※やってないです。 ※オメガバースではないです。 【リクエストがあれば執筆します。】

【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない

りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...