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冬から春へ
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王がランシェットを王宮に呼び戻すことを認めた。
その一言が、石の床越しに聞いていたランシェットの頭の中に鮮明に響き渡った。
これは夢ではないのか。
この十年、ランシェットにとっては世界はこの塔の部屋の中だけが手の届く世界で、すぐ外の草も花も触れることはできず、話し相手もいなかった。
それが、ここ一ヶ月程の間に、話し相手が出来、王から見放されていなかったという事が分かった。
それだけで、どれだけ救いになったか。
「…それは本当なのか?」
「ひっ!?」
突然会話にランシェットが入ってくると思わなかったらしく、伝令の男はまるで幽霊でも見たかのように怯えた声を上げた。
「ほ…本当です!リュスト王子は今回の事を受け、謀反の事実はないことを主張しており、
フラム・ランシェットが幽閉されることになった際の経緯についても疑念がある為、改めて調べ直したいとの事です。
王もそれを強く望まれております」
それを聞き、ランシェットは今まで何度も自暴自棄になりかけたが思い留まって本当に良かったと思った。
腐るのは一瞬だが、再び立ち直るのは容易ではない。
本能的にそれを感じていたのか、心を凍りつかせるようにしてこの年月を堪えてきた。
長い冬を経た草木が再び春を迎えるように、ランシェットの生命力が再び湧き上がってきた。
幽閉されたばかりの時のように冤罪だと喚き散らしたりするほどもう若くはないが、ずっと幽閉されていたお陰で考えることしかする事がなかった為、思い出したくもないがあの日のことはありありと思い出せる。
「支度をさせてくれないか。
これでは王に会うことは出来ない」
「フォルスト王から、お召し物を賜っております」
そう言うと伝令の男は馬に取り付けていた小さな荷箱いっぱいの箱をグリゴールに渡した。
そして、この塔の開放に使う為の道具も。
「では私はこれで」
「ちょっと待て、ここを開けるのを手伝って行けよ。
塔守に勝手な事が出来ないようにこの石壁が頑丈な造りになってる事は知ってるだろ?」
グリゴールはこれは王命を迅速に行う為だとか言いつつそそくさと立ち去ろうとしていた男を捕まえた。
塔の解放は無骨な金属のヘラのようなこの道具を使い、通常数人で行うが、今回は内密であるためグリゴールと男を入れても二人でしか作業ができない。
「ランシェット、お前さんももうちょっとしたら手伝ってくれ」
「分かった」
何とも滑稽な話だが、囚人と塔守が共同で幽閉されていた場所をこじ開けることになってしまった。
「ゼペト公、私は目処がついたら先に帰城しますので…」
「まだお前ランシェットが誰彼構わず誘惑したとか信じてるのか?」
「……申し訳ありませんでした」
しばらくの間ガキンガキンと足元から耳障りな音が響き、やがて何かが崩れるような音が聞こえ始めた。
石と石を接着していた部分が十年の時を経て剥がされていく。
十年前は、あらかた塞がれていた床の隙間からねじ込まれるように塔のこの部屋に入れられ、すぐに食事を入れる穴を残し石と粘土質な土で幾重にも塞がれ絶望したものだった。
「ランシェット、そろそろ蹴ってみてくれ」
「ああ」
グリゴールが塔守になってから本来王が送ってくれていた食事も摂る事ができ、体力も少しは回復しているとはいえ通常の成人のそれとは程遠い。
ランシェットは怪我をしないように音のしていた所を気をつけて蹴ってみたが、最後の一層ほどの石はびくともしなかった。
「…すまない、私では役に立てないようだ」
ランシェットはその後数分、グリゴールと伝令の男が最初の一枚を剥がし終わるまでぐるぐると床を歩き回っていた。
その一言が、石の床越しに聞いていたランシェットの頭の中に鮮明に響き渡った。
これは夢ではないのか。
この十年、ランシェットにとっては世界はこの塔の部屋の中だけが手の届く世界で、すぐ外の草も花も触れることはできず、話し相手もいなかった。
それが、ここ一ヶ月程の間に、話し相手が出来、王から見放されていなかったという事が分かった。
それだけで、どれだけ救いになったか。
「…それは本当なのか?」
「ひっ!?」
突然会話にランシェットが入ってくると思わなかったらしく、伝令の男はまるで幽霊でも見たかのように怯えた声を上げた。
「ほ…本当です!リュスト王子は今回の事を受け、謀反の事実はないことを主張しており、
フラム・ランシェットが幽閉されることになった際の経緯についても疑念がある為、改めて調べ直したいとの事です。
王もそれを強く望まれております」
それを聞き、ランシェットは今まで何度も自暴自棄になりかけたが思い留まって本当に良かったと思った。
腐るのは一瞬だが、再び立ち直るのは容易ではない。
本能的にそれを感じていたのか、心を凍りつかせるようにしてこの年月を堪えてきた。
長い冬を経た草木が再び春を迎えるように、ランシェットの生命力が再び湧き上がってきた。
幽閉されたばかりの時のように冤罪だと喚き散らしたりするほどもう若くはないが、ずっと幽閉されていたお陰で考えることしかする事がなかった為、思い出したくもないがあの日のことはありありと思い出せる。
「支度をさせてくれないか。
これでは王に会うことは出来ない」
「フォルスト王から、お召し物を賜っております」
そう言うと伝令の男は馬に取り付けていた小さな荷箱いっぱいの箱をグリゴールに渡した。
そして、この塔の開放に使う為の道具も。
「では私はこれで」
「ちょっと待て、ここを開けるのを手伝って行けよ。
塔守に勝手な事が出来ないようにこの石壁が頑丈な造りになってる事は知ってるだろ?」
グリゴールはこれは王命を迅速に行う為だとか言いつつそそくさと立ち去ろうとしていた男を捕まえた。
塔の解放は無骨な金属のヘラのようなこの道具を使い、通常数人で行うが、今回は内密であるためグリゴールと男を入れても二人でしか作業ができない。
「ランシェット、お前さんももうちょっとしたら手伝ってくれ」
「分かった」
何とも滑稽な話だが、囚人と塔守が共同で幽閉されていた場所をこじ開けることになってしまった。
「ゼペト公、私は目処がついたら先に帰城しますので…」
「まだお前ランシェットが誰彼構わず誘惑したとか信じてるのか?」
「……申し訳ありませんでした」
しばらくの間ガキンガキンと足元から耳障りな音が響き、やがて何かが崩れるような音が聞こえ始めた。
石と石を接着していた部分が十年の時を経て剥がされていく。
十年前は、あらかた塞がれていた床の隙間からねじ込まれるように塔のこの部屋に入れられ、すぐに食事を入れる穴を残し石と粘土質な土で幾重にも塞がれ絶望したものだった。
「ランシェット、そろそろ蹴ってみてくれ」
「ああ」
グリゴールが塔守になってから本来王が送ってくれていた食事も摂る事ができ、体力も少しは回復しているとはいえ通常の成人のそれとは程遠い。
ランシェットは怪我をしないように音のしていた所を気をつけて蹴ってみたが、最後の一層ほどの石はびくともしなかった。
「…すまない、私では役に立てないようだ」
ランシェットはその後数分、グリゴールと伝令の男が最初の一枚を剥がし終わるまでぐるぐると床を歩き回っていた。
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