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綻び
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「なんだ、騒がしいな」
明らかに迷惑そうな口振りで答えるグリゴールに、早馬で駆けてきた兵士は舌打ちを堪えつつ報告をする。
「塔守のゼペト公であるか!?
王都で…っ暴動が起きた!」
「何だと?!」
昼の穏やかな光を窓から受けて、うとうととしていたランシェットも漏れ聞こえてきた尋常ならざる声に引き起こされる。
暴動の原因の発端はアリオラ王妃の産んだ息子、フィナン王子を皇太子につけると王妃が言い出したいうことだった。
フィナン王子はまだ九歳だが粗暴で、臣下からも覚えが良くなかった。
その為、これまではフォルスト王の同母弟であり人格にも定評のある十六歳のリュスト王子が皇太子となっていた。
噂というものはいくら止めようとしても漏れてしまうもので、フィナン王子の悪評は民にも伝わっており、アリオラ王妃が産んだ第一王子であろうが認めるものかというリュスト王子派の貴族に同調した民がフォルスト王やアリオラ王妃、フィナン王子に対して反乱を起こしたというのだ。
このままでは王妃の母国であるガズールからも軍が送られ、二国間に争いが起きてしまうかもしれない。
「何だって急に王妃はそんな事を言い出したんだ…!」
「…王妃はリュスト王子がフィナン王子の暗殺を企てていると仰っています」
「何だって?!あんな悪ガ…失礼、あんな年端のいかない王子をどうして優秀なリュスト王子が暗殺する必要が?」
あまりの荒唐無稽さに呆れてつい不敬な言葉を吐きそうになったグリゴールに、兵士も少し溜飲が下がったのか、先程より少し落ち着いた様子で喋り出す。
「ごもっともです。
ただ、リュスト王子はあまりにも優秀な為、目障りと感じている者にはそれだけ脅威だったのでしょう。
…ソルド男爵がどうもこの頃王妃に取り入っているようです」
フォルスト王には、同母弟であるリュスト王子の他に、先王が王宮のメイドに産ませた庶子のソルド男爵という兄がいる。
母親の身分が低かった為王子としては認められなかったが、男爵の位を与えられ割と自由を謳歌していると聞いていた。
「今更なんだってソルド男爵が出てくる?
王位は望めないんだし…ガズールの王族にコネでも作って貿易でもする気か?」
「いえ、どちらかと言うと王位争いの為でしょう。
ゼペト公はしばらく国外におられた為ご存じではないかもしれませんが、フィナン王子と年の近いお嬢様がおられるのです。
昨年王宮にご挨拶に来られた際、どうも気に入られたようでソルド男爵も欲目が出たのかと」
話をまとめると、フィナン王子は去年王宮でソルド男爵の娘であるリアを見初め、リアを婚約者にと望んでいる。
しかし、リアはしっかりした子のようで
『今の王子とは(精神的に幼いので)まだ婚約は早いと思います』
と答えたらしい。
それを聞いたフィナン王子は、王位継承権を得ればリアは振り向いてくれるはずだ!と間違った方向にやる気を出したようで、前にも増してリアにご執心の様子だそうだ。
ここから先は憶測だが、王位継承権が欲しいと王妃にせがみ、王妃とソルド男爵が結託してリュスト王子の王位継承権を奪う方法を練ったのではないか、というのがリュスト王子派の貴族の見方であった。
それが民衆にも広がり、ソルド男爵の屋敷から来た召使いに商品を売らないという店が相次ぎ、それを聞きつけたソルド男爵がアリオラ王妃に陳情に行ったものの、今ではソルド男爵の屋敷を大勢の民が取り囲んでおり、男爵の私兵と一触即発だということだった。
「…話は分かったが、なぜ俺に早馬が来る?
俺は今はしがない塔守だし、騎士職も解かれたようなもんだろう」
グリゴールはガシガシと頭を掻きながら、不貞腐れたように言う。
「リュスト王子が…そちらの…フラム・ランシェットを王宮に呼び戻し、当時の事件の詳細を聞きたいと。
フォルスト王も承認しております。
…ゼペト公には、内密である故、フラム・ランシェットの護衛をと仰せつかりました」
明らかに迷惑そうな口振りで答えるグリゴールに、早馬で駆けてきた兵士は舌打ちを堪えつつ報告をする。
「塔守のゼペト公であるか!?
王都で…っ暴動が起きた!」
「何だと?!」
昼の穏やかな光を窓から受けて、うとうととしていたランシェットも漏れ聞こえてきた尋常ならざる声に引き起こされる。
暴動の原因の発端はアリオラ王妃の産んだ息子、フィナン王子を皇太子につけると王妃が言い出したいうことだった。
フィナン王子はまだ九歳だが粗暴で、臣下からも覚えが良くなかった。
その為、これまではフォルスト王の同母弟であり人格にも定評のある十六歳のリュスト王子が皇太子となっていた。
噂というものはいくら止めようとしても漏れてしまうもので、フィナン王子の悪評は民にも伝わっており、アリオラ王妃が産んだ第一王子であろうが認めるものかというリュスト王子派の貴族に同調した民がフォルスト王やアリオラ王妃、フィナン王子に対して反乱を起こしたというのだ。
このままでは王妃の母国であるガズールからも軍が送られ、二国間に争いが起きてしまうかもしれない。
「何だって急に王妃はそんな事を言い出したんだ…!」
「…王妃はリュスト王子がフィナン王子の暗殺を企てていると仰っています」
「何だって?!あんな悪ガ…失礼、あんな年端のいかない王子をどうして優秀なリュスト王子が暗殺する必要が?」
あまりの荒唐無稽さに呆れてつい不敬な言葉を吐きそうになったグリゴールに、兵士も少し溜飲が下がったのか、先程より少し落ち着いた様子で喋り出す。
「ごもっともです。
ただ、リュスト王子はあまりにも優秀な為、目障りと感じている者にはそれだけ脅威だったのでしょう。
…ソルド男爵がどうもこの頃王妃に取り入っているようです」
フォルスト王には、同母弟であるリュスト王子の他に、先王が王宮のメイドに産ませた庶子のソルド男爵という兄がいる。
母親の身分が低かった為王子としては認められなかったが、男爵の位を与えられ割と自由を謳歌していると聞いていた。
「今更なんだってソルド男爵が出てくる?
王位は望めないんだし…ガズールの王族にコネでも作って貿易でもする気か?」
「いえ、どちらかと言うと王位争いの為でしょう。
ゼペト公はしばらく国外におられた為ご存じではないかもしれませんが、フィナン王子と年の近いお嬢様がおられるのです。
昨年王宮にご挨拶に来られた際、どうも気に入られたようでソルド男爵も欲目が出たのかと」
話をまとめると、フィナン王子は去年王宮でソルド男爵の娘であるリアを見初め、リアを婚約者にと望んでいる。
しかし、リアはしっかりした子のようで
『今の王子とは(精神的に幼いので)まだ婚約は早いと思います』
と答えたらしい。
それを聞いたフィナン王子は、王位継承権を得ればリアは振り向いてくれるはずだ!と間違った方向にやる気を出したようで、前にも増してリアにご執心の様子だそうだ。
ここから先は憶測だが、王位継承権が欲しいと王妃にせがみ、王妃とソルド男爵が結託してリュスト王子の王位継承権を奪う方法を練ったのではないか、というのがリュスト王子派の貴族の見方であった。
それが民衆にも広がり、ソルド男爵の屋敷から来た召使いに商品を売らないという店が相次ぎ、それを聞きつけたソルド男爵がアリオラ王妃に陳情に行ったものの、今ではソルド男爵の屋敷を大勢の民が取り囲んでおり、男爵の私兵と一触即発だということだった。
「…話は分かったが、なぜ俺に早馬が来る?
俺は今はしがない塔守だし、騎士職も解かれたようなもんだろう」
グリゴールはガシガシと頭を掻きながら、不貞腐れたように言う。
「リュスト王子が…そちらの…フラム・ランシェットを王宮に呼び戻し、当時の事件の詳細を聞きたいと。
フォルスト王も承認しております。
…ゼペト公には、内密である故、フラム・ランシェットの護衛をと仰せつかりました」
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