3 / 30
太陽と月
しおりを挟む
まだ少し肌寒かったランシェットの誕生日から少し時は流れ、暖かな日差しがきらきらと新緑に輝く季節になっていた。
王は二十五歳になっており、王女は二十二歳。
国を上げて輿入れのパレードが催され、隣国の国境から王宮まで国民が列を成して歓迎した。
その様子を王宮の自室からそっと眺めたが、豊かな黒髪の美しい、意志の強い瞳をした女性だと感じた。
噂に伝え聞くガズールの砂漠を思わせるような、褐色の肌が贅を尽くした白い婚礼衣装から覗いていた。
ガズールは広い領土を持ち海にも接しているが、国土の大半が砂漠であり、ヴォルデのように農業が上手く根付く土地ではない為ヴォルデとの結びつきを強く求めていた。
ヴォルデはフォルスト王の母でもある先代の正妃を、ガズールとも国境を接しているフィリル王国から迎えていたが、フィリル王国は雪深い峡谷が故に資源が限られており今のガズールと対抗する程の国力はなく、後ろ盾の欲しいヴォルデの重臣の殆どとガズールの思惑が一致し婚礼の運びとなったらしい。
王のあの夜の言葉を思い返す。
熱くランシェットを見つめていた瞳が、王女に優しく微笑みかけている。
きつく絡め合った指も、今は王女のしなやかなそれを優しく支えている。
――胸の奥がきしむように痛い。
太陽の光に照らされ、民からも祝福を受け歩みを進める二人が妬ましい。
堪えられなくなり窓から離れようとした時、王女と視線が合った気がした。
王は子孫を残し、国を繁栄させていかねばならない。
その障害になってはいけないと解っていた為、婚儀から少ししてランシェットは称号の返上と領地へ戻ることを申し出たが、王は聞き入れることは無かった。
そればかりか、それ以後まだ婚儀から日もさほどたっておらず王女の元へ通うべきであろうところを、ランシェットの寝室に通う日が週に一日、二日と増えてしまっていた。
これが仇となってしまう。
アリオラ王妃が身篭ったという報せが国に知れ渡った後のことだった。
何者かの差し向けた屈強な男達がある夜ランシェットの寝室に押し入り、暴力的に辱められた挙句、王がありながらランシェットから望んで以前より何度もその男たちと姦通していたという汚名を着せられることになってしまう。
ランシェットの存在が疎ましいのは誰か。
一番疑わしいのは王妃だが、証拠は何も無かった。
隣国から嫁ぎ身篭ったばかりで王やその淫らな愛人にとんでもない仕打ちを受け、心労で塞ぎがちになったとして、アリオラはランシェットの幽閉を王に求めた。
王は仕方なく、王都から離れた塔にランシェットを幽閉することを決めた。
噂というものは恐ろしいもので、さらに根も葉もない話が追加され、ヴォルデ始め周辺各国内ではランシェットが稀代の好き者であり、男と見るや誘惑してくる魔性の男だ、まだ若かった王を手玉に取り堕落させた淫らな男だなどということになっていた。
その為、先代の塔守は退役間近の老いた男だったのだろうし、十年経った今でも出会って僅かの新塔守が名を聞いて息を飲むほど固く信じられていたのだった。
王は二十五歳になっており、王女は二十二歳。
国を上げて輿入れのパレードが催され、隣国の国境から王宮まで国民が列を成して歓迎した。
その様子を王宮の自室からそっと眺めたが、豊かな黒髪の美しい、意志の強い瞳をした女性だと感じた。
噂に伝え聞くガズールの砂漠を思わせるような、褐色の肌が贅を尽くした白い婚礼衣装から覗いていた。
ガズールは広い領土を持ち海にも接しているが、国土の大半が砂漠であり、ヴォルデのように農業が上手く根付く土地ではない為ヴォルデとの結びつきを強く求めていた。
ヴォルデはフォルスト王の母でもある先代の正妃を、ガズールとも国境を接しているフィリル王国から迎えていたが、フィリル王国は雪深い峡谷が故に資源が限られており今のガズールと対抗する程の国力はなく、後ろ盾の欲しいヴォルデの重臣の殆どとガズールの思惑が一致し婚礼の運びとなったらしい。
王のあの夜の言葉を思い返す。
熱くランシェットを見つめていた瞳が、王女に優しく微笑みかけている。
きつく絡め合った指も、今は王女のしなやかなそれを優しく支えている。
――胸の奥がきしむように痛い。
太陽の光に照らされ、民からも祝福を受け歩みを進める二人が妬ましい。
堪えられなくなり窓から離れようとした時、王女と視線が合った気がした。
王は子孫を残し、国を繁栄させていかねばならない。
その障害になってはいけないと解っていた為、婚儀から少ししてランシェットは称号の返上と領地へ戻ることを申し出たが、王は聞き入れることは無かった。
そればかりか、それ以後まだ婚儀から日もさほどたっておらず王女の元へ通うべきであろうところを、ランシェットの寝室に通う日が週に一日、二日と増えてしまっていた。
これが仇となってしまう。
アリオラ王妃が身篭ったという報せが国に知れ渡った後のことだった。
何者かの差し向けた屈強な男達がある夜ランシェットの寝室に押し入り、暴力的に辱められた挙句、王がありながらランシェットから望んで以前より何度もその男たちと姦通していたという汚名を着せられることになってしまう。
ランシェットの存在が疎ましいのは誰か。
一番疑わしいのは王妃だが、証拠は何も無かった。
隣国から嫁ぎ身篭ったばかりで王やその淫らな愛人にとんでもない仕打ちを受け、心労で塞ぎがちになったとして、アリオラはランシェットの幽閉を王に求めた。
王は仕方なく、王都から離れた塔にランシェットを幽閉することを決めた。
噂というものは恐ろしいもので、さらに根も葉もない話が追加され、ヴォルデ始め周辺各国内ではランシェットが稀代の好き者であり、男と見るや誘惑してくる魔性の男だ、まだ若かった王を手玉に取り堕落させた淫らな男だなどということになっていた。
その為、先代の塔守は退役間近の老いた男だったのだろうし、十年経った今でも出会って僅かの新塔守が名を聞いて息を飲むほど固く信じられていたのだった。
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
溺愛
papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。
※やってないです。
※オメガバースではないです。
【リクエストがあれば執筆します。】
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
回顧
papiko
BL
若き天才∶宰相閣下 (第一王子の親友)
×
監禁されていた第一王子 (自己犠牲という名のスキル持ち)
その日は、唐突に訪れた。王国ルーチェントローズの王子三人が実の父親である国王に対して謀反を起こしたのだ。
国王を探して、開かずの間の北の最奥の部屋にいたのは――――――――
そこから思い出される記憶たち。
※完結済み
※番外編でR18予定
【登場人物】
宰相 ∶ハルトノエル
元第一王子∶イノフィエミス
第一王子 ∶リノスフェル
第二王子 ∶アリスロメオ
第三王子 ∶ロルフヘイズ
気の遣い方が斜め上
りこ
BL
俺には同棲している彼氏がいる。だけど、彼氏には俺以外に体の関係をもっている相手がいる。
あいつは優しいから俺に別れるとは言えない。……いや、優しさの使い方間違ってねえ?
気の遣い方が斜め上すぎんだよ!って思っている受けの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる