異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第5章 黒い目玉

04 名誉隊長

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・・・60日目・・・

 そして翌日の午前。
「へえ、フログス様が子爵に降格かぁ」「なんであんな人が極刑にならないのよ!」「ほんっと、私の従姉妹はあいつに殺されたのに!」「でも魔族に操られてたって書いてあるぞ」
 城下の中央広場に御触れの掲示板が立てられ行き交う人たちが立ち止まりそれを読んでいる。中にはフログスの所業を許せず涙を流す者もいたが魔族に操られてたことを知ると複雑な顔をしてその場を離れていった。
 そのお触れの掲示板の真ん前で子供を連れた女性が内容を読み涙ぐんでいる。
「コースケ様のおっしゃったとおりね。魔族に操られていた時のことを思うとお労しいわ。でも、刑が開けたらフログス領にお戻りになれるのね。よかった。村の人たちもさぞ喜ぶでしょう」
「母さん、フログス様村に帰ってくるの?」
 手を繋いでいた少年が涙ぐんでいる母を見上げる。
「そうよテト。フログス様、九ヶ月後には村にお戻りになるのよ」
「ふーん。それじゃ村もここみたいににぎやかになる?」
「そうね。フログス様がここに負けないくらいの村にしてくださるわ」
「ほんと!」
 テトはここ白竜城城下のように繁栄する故郷を想い笑顔となる。それを見て母トリシアも涙を拭き笑顔で我が子の頭を撫でた。
「トリシアさん」
「はいっ?」
 後ろから急に声をかけられたトリシアは少し声がひっくり返ったが冷静を装い後ろを振り向いた。
「あっ、コースケ様」
 そこには白竜城の英雄、コースケが侍女ミュゼリアを伴い立っていた。
「コースケ様。ありがとうございました。フログス様が極刑にならずほんとよかったと思っております」
 トリシアは功助に深々と頭を下げる。テトも母に習いペコリとお辞儀をした。
「いやいや俺は何もしてませんよトリシアさん。だからそんなに頭を下げないでください。さあ、頭を上げて上げて。テトも頭下げなくていいから」
 苦笑する功助。
「はい。ありがとうございます」
 トリシアはホッとした笑顔になるともう一度軽い会釈をした。
「フログス伯爵…じゃなかったフログス子爵の刑は決まりましたが、これからトリシアさんたちはどうされます?」
 功助はチラッとお触れの掲示板を見るとトリシアに視線を戻す。
「はい。一週間ほどしたら村に帰ろうと思っています。お世話になったマギーさんとお別れするのは辛いですが、村に帰りフログス様がご帰還されるまでみんなと一緒に村を守りたいと思っております」
「そうですか」
 と微笑む功助。
「テトくん。村に替えるまでに私の魔法をもう一度ちゃんと見せてあげますからね」
 ミュゼリアはテトと同じ視線になるようにしゃがむとその頭を撫でながら微笑む。
「えっ、ほんと!お姉ちゃんの魔法が見られるの!やった!」
 テトはピョンピョンと跳びはねて喜んでいる。それを見てトリシアも笑顔になった。
「ああ!コースケ様じゃないですかぁ!」
「うぎゃっ!」
 間延びした声が聞こえたかと思ったら功助の背中にピンク娘のリンリンが飛びついてきた。
「会いたかったですぅ!」
 リンリンは功助の背中にしがみつき功助の頭にグリグリと自分の頬を擦りつけている。
「や、やめてくださいリンリン!コースケ様がお困りです!早く離れてください!リンリン!」
 ミュゼリアがリンリンを剥がそうとしているがリンリンは負けじと功助の首に巻き付けた腕に力を込めた。
「う、ううっ。く、苦しいよ…リンリン」
「きゃぁ!コースケ様ぁ!こらリンリン!離れなさい!」
 ミュゼリアがリンリンの身体を持って剥がそうとするが手ごわいリンリン。
「こうなったら最後の手段!覚悟してくださいリンリン!」
 ミュゼリアは掌の上に小さな炎の塊を作り出した。
「リンリン覚悟!火炎球ファイヤーボール!」
ミュゼリアは腕を振り上げるとその炎の塊をリンリンの背中にぶつけた。
  ドシュッ!
「うわっ!熱っ熱っ熱っ!」
 リンリンは功助から離れるとピョンピョン跳びはねた。
「どうですか!思い知りなさい!」
「ひ、酷いですぅミュゼェェ!」
 涙目のリンリン。
「ふふふ。安心しなさい。温度は下げてあります。リンリンのそのピンクのスケイルアーマーでも防げるほどの炎球なので火傷の心配もありませんよ」
「あ、ほんと。よかったぁ…。じゃなくて!」
「そもそもリンリンがコースケ様に無礼を働くのが悪いのです。…あっ!コースケ様、大丈夫ですか!」
 リンリンの魔の手から解放された功助はケホケホ言いながらしゃがんでいた。その背中をトリシアとテトがゴシゴシ摩っていたのだった。
「大丈夫ですかコースケ様」
「あ、ああ。大丈夫。ふう、苦しかったぁ」
「もう安心です、リンリンには鉄槌を下しておきましたので。それとトリシアさん、テトくん、ありがとうございます」
 ミュゼリアは二人にペコリと頭を下げた。

「そうか…。寂しぃなるなあ。ほんま。でも、よかったなぁトリシアさん。村の人たちの想いが通じて」
 トリシアたちと功助は’岬のカモメ亭’に訪れこれから先のことを話しした。
「ありがとうございますマギーさん。短い間でしたがお世話になりました」
 と頭を下げるトリシア。
「ちょっと待ってぇやトリシアさん。礼を言いたいのは私の方やで。食堂を手伝うてもろて、ほんま感謝してんねんで」
 と苦笑するマギー。
「いえ、私なんか…。きちんとお手伝いできたかどうか」
「できてはったって。ほんまどっかのピンク娘より何倍も助かったんやからな、ほんま」
「ちょっとマギーさん、あたしもぉ手伝ったじゃないですかぁ」
 とピンク娘ことリンリンが口を尖らす。
「どこがやねんな。茶碗洗たら割るし、食事運んだら注文してへん人んとこに持ってくし、掃除してもろたら置物壊すし。ほんま役に立たへんかったわ」
 ため息交じりにしかめっ面になるマギー。
「あはっ、あはははは。いやあ…、そんなこともあったかなぁ。なんて、あはっ」
 米噛みに流れる汗をゴシゴシと拭くリンリン。
「ふう。まあ、それもこれもええ想い出になったわ。おおきにな」
 マギーはトリシアたちに頭を下げた。
「そ、そんな、頭なんか下げないでください。お世話になったのは私たちの方なんですから」
「そうだよマギーおばあちゃん。僕、とーっても楽しかった。いつも面白い話してくれたし、マギーおばあちゃんのご飯、とーってもおいしかったし。ありがとうマギーおばあちゃん」
「テト…。あんた…、ええこと言うてくれるやないの。うれしいわほんま」
 マギーの目に薄っすらと涙が溜まった。が、それを見られまいと手をパンパン叩いて大きな声を出した。
「さあ、あと一週間やな。わかったわ!ええ想い出作るでぇ!」
「オー!」
 マギーの声にテトが満面の笑顔で拳を天高く突き上げた。
「よし、俺たちも!いくぞミュゼ!」
「はい!」
「せぇの!」
 功助とミュゼが声を合わせて叫んだ。
「「オーーーー!!」」
「も一回!リンリン、それにトリシアさん!」
「」はいぃ!」
「はい!」「せぇの!」
  オーーーー!!
岬のカモメ亭の中、威勢よく拳を上げる六人。みんな笑顔だ。

 岬のカモメ亭で昼食を採り白竜城に帰城した功助とミュゼリア。
 功助はそのまま魔法師隊の訓練に入った。当然ミュゼリアは功助に付き従う。
 そして訓練を終え控室での話。
「ねえダーリン。ダーリンに行っておかないといけないことがあるの」
 シャリーナがミュゼリアの起こす涼風でホッとしている功助を見る。
「はい?」
「あのね、
臨時隊長の件なんだけど」
「はい。そうですよね。俺もそろそろかなと思ってます」
 と真剣にシャリーナを見る功助。
「うふふ。たぶんダーリンの思ってることと違うと思うけどね」
「はい?」
 首を捻る功助。
「臨時隊長の任を解くけど、引き続き名誉隊長として残って欲しいの。どう?」
「名誉隊長…ですか?」
「うん。ダーリンの依頼でセントラル・マギシティーの図書島に行った時からもう47日も過ぎたのよ。そして図書島から帰ってからも明日で二週間。そろそろ臨時の任を解かないとね。でも、魔法師隊にはいてて欲しいのよ。隊員たちもすっかりダーリンを慕ってるしさ。まあ本音を言うならあたしがダーリンと離れたくないってのもあるけど…」
 シャリーナの頬は少し紅くなっていた。いろいろ積極的なシャリーナだが本来は恥かしがり屋のようだ。
「えっ…。う、うーん…」
 と考える功助。それを見て少し不安そうなシャリーナとシャリーナの横に座っているラナーシア副隊長。
「ま、まあ、それでいいです。俺も訓練楽しいし。名誉隊長の任を頂戴します。よろしくお願いしますシャリーナ隊長」
 功助はその場で立つとシャリーナに深々と頭を下げた。
「う、ま、まあ、そういうことでこれからもよろしくお願いするわねダーリン」
 冷静にしているつもりのシャリーナだがニヤけた口元や無意識に小さくガッツポーズを取っていたりと喜びが身体から染み出ていた。
「それではコースケ隊長…、ん?シャリーナ隊長、これから私たちはコースケ隊長のことはなんと呼べばよいのでしょう?」
 とラナーシア副隊長が首を傾げる。
「そうねえ、一緒でいいんじゃない。公的な場所では’コースケ名誉隊長’って呼べば問題ないでしょ」
「そうですね。では改めて、コースケ名誉隊長、よろしくお願いいたします」
 ラナーシアもその場で規律すると功助に頭を下げる。
「はい。これからもよろしくお願いしますラナーシア副隊長」
 微笑む功助。
「さあ、これで今日の訓練とミーティングは終わりね。んじゃ、部屋を出ましょう」
 ミュゼリアがドアを開けシャリーナ、功助、ラナーシアの順に部屋を出て最後にミュゼリアがドアを閉めた。

 シャワーを浴び会食の準備をする功助。
「ミュゼ、今日の会食のゲストは誰か知ってる?」
「申し訳ありません。知らされてないんですよ。王妃様がその日の気分でお決めになりますので」
「あっ、そうだった。王妃様が決めるんだったな。忘れてたよ、ごめんミュゼ」
「いえ。でもコースケ様。私にそんなにすぐに謝罪されなくてもいいんですよ」
 と苦笑する。
「あ、あはははは。悪い悪い。…ってまた謝罪してしまった。でも、仕方ないよ」
 と苦笑する功助。
「俺のいた世界、特に俺のいた国じゃ侍女なんて雇ってる人はほんのちょっとだけだからさ。俺の家も侍女どころかお手伝いさんもいないし、侍女や侍従なんて外国の、それも王室とかの制度がある国ぐらいしかいないんじゃないかな」
「へえ、そうなんですか。それなら若い女性は何をしているのですか?」
「うーん、そうだな。ミュゼは今何歳だった?」
「私ですか?私は今17歳です」
 と胸を張るミュゼリア。
「17歳か。元の世界じゃその歳ならほとんどが高校生っていう学生だよ」
「学生ですか?へえ。こちらの世界じゃ15歳くらいまでですよ学問を学ぶ者は」
「みたいだな。15歳で成人だったよな。元の世界じゃ20歳だよ成人は」
「へえ、そうなんですか」
 雑談をしながら用意をする功助。それを手伝うミュゼリア。そして時間となり部屋を出た。

 本日の会食のゲストは見たことのある獣人だった。思い出そうとしても思い出せないが見たことのある男女だった。
「失礼いたします」
功助のすぐ横に座ったのは女性で頭の上に長い耳のある兎の獣人だ。
 肩くらいまでの茶色い髪で薄いブルーのショートドレスを見事に着こなしている。
「失礼します」
 そしてその向こう側に座ったのは狼の獣人だった。黒いスーツを着たその獣人は姿勢よく背筋を伸ばしとても礼儀正しいようだ。
 ウサギの獣人の女性が功助に話しかける。
「ご挨拶が遅れ申し訳ございません。わたくし第一食堂でウェイトレスをしておりますバニットと申します。よろしくお願いいたします」
 ペコリとお辞儀をするウサギ獣人の女性。見た目は二十代後半ほどに見える。
「俺、いえ、私は第二食堂でウェイターをしておりますローイと申します。コースケ様には幾度かご利用いただきありがとうございます」
 こちら狼の獣人は三十代半ばに見えるとても落ち着いた男のようだ。
「ああ、そうでしたか。見たことある方たちだと思ってたんですが、食堂のウェイトレスさんとウェイターさんでしたか。いつもお世話になってます。今日はよろしくです」
 功助もペコリと頭を下げる。それに動揺する二人。するとその時功助がブルッと身震いした。辺りをキョロキョロするとミュゼリアの視線が後頭部に突き刺さったのだと気づいた。功助は少しムスッとしているミュゼリアにあははと苦笑したのだった。
 そうこうしているうちにシオンベールとルルサ王妃が入室してきた。ゲストの二人は起立すると深々と叩頭した。それをまあまあと微笑みながら王妃が座るようにと言うと二人は恐縮しながらも着席した。
「えーと、あなたが一食のバニットさんでそちらが二食のローイさんね。今日は来てくれてありがとう。へえ~、うふふふふ」
 なぜか含み笑いの王妃。
「あのコースケ様」
 とシオンベール。
「なんだシオン」
「さっき耳にしたのですが、コースケ様が魔法師隊の臨時隊長の任を解かれて名誉隊長になられたと」
「ああ。うん、そうなんだよ。シャリーナさんが帰ってきた時にすぐに任を解かれるだろうなと思ってたんだけど、なんかそれからもずるずると臨時隊長でさ。今日はっきりと臨時隊長の任を解くっていわれたんだ。で、引き続き名誉隊長として残って欲しいっていわれてさ。俺も訓練とか楽しくなってたから辞めずにすんでよかったとおもったよ」
 功助は楽しそうにシオンベールに話をする。それをうれしそうに聞くシオンベール。
「そうだったのコーちゃん。よかったわね。ねえシオン。コーちゃんが楽しくしてるとあなたもとてもうれしそうで私もうれしいわ」
 と横で聞いていた王妃もシオンベールの肩を叩いてうれしそうだ。
「待たせたな」
 国王トパークスが片手を上げて食堂に入ってきた。
 二人のゲストは再び起立すると国王に叩頭する。
「「本日はお招き真にありがとうございます」」
 バニットとローイは所作も言葉も完璧にリンクさせた。
「あ、ああ。今日は楽しんでいってくれ。ポーラ、始めてくれ」
「はい。承知いたしました」
 ノーザン班侍女班超ポーラがうやうやしく一礼しその指示のもと料理の皿がテーブルに並べられていった。
 食事はなごやかに始まりサラダ、スープ、そして魚料理と続きそしてステーキが各自の前に置かれた。
「ところでお二人さん」
 そこで王妃が唐突にバニットとローイの方を向く。急に声をかけられビクッとなる二人。
「ふぁ、ふぁい!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
 ちょっと間抜けな返事をする二人。二人ともフォークを刺して肉にナイフを入れようとしたところでピタッと止まった。
「ねえねえ、あなたたちはどこまで進んでるの?」
「「へ?」」
 再び間抜けな声を出してしまう二人。
「ふふふ。いやだわぁ。そんなに驚かなくてもいいのよ」
 と口に手を添えて苦笑する王妃。そして話を続ける。
「だからさあ、お二人さんのお付き合いはどこまでいってるのって聞いてるのよ~。うふ」
 まるでワイドショーの芸能人のスキャンダルを診てニヤニヤしている奥様のような視線をバニットとローイに向ける王妃。
「あ、い、いえ、あの…」
「そ、それは…。その…」
 とたじろぐバニットとローイ。それもそうだ、一国の王妃が自分たちのことを聞いてきたのだ。それも食堂のただの従業員に。
「ねえねえ。どこで知り合ったの?お付き合いするきっかけは?初めてのデートはどこなの?んで、初めてのチューは?ねえねえ、ねえねえ」
 と矢継ぎ早に質問する王妃。もう近所の噂好きのおばちゃんである。
「あ、あの、その…」
「なななな、何を……」
 二人の顔はもう真っ赤を通り越している。
「お、お母様。そんなこと聞かなくても…」
 シオンベールがいきなり二人に話かけてウキウキしている母ルルサの肩をポンポンと叩くが当の王妃は気にしない。
「侍女たちの中でも噂になってるのよお。お二人がいつゴールインするのかって。ねえねえ、いつなの?ねえねえご結婚はいつするの?」
 とテーブルに身を乗り出して二人に迫るおばちゃん…、もとい、王妃ルルサ。
 今度二人の顔は徐々に蒼くなってきている。これはいかんと国王トパークスがルルサに一言言う。
「おいおいルー。二人とも困ってるじゃないか。そのへんで釈放してやったらどうだ?」
 と苦笑している。
「え、え~っ。せっかくお話が聞きたいだけなのですけどぉ。あなたがそう言うなら…。でもお二人さん」
 とチラッと国王を見ると残念そうにバニットとローイに言う。
「お付き合いしてるのよね」
 とニコリと微笑む王妃。一般の食堂職員に拒否できるはずもなく二人は互いに目で話し合うとコクリと頷き合った。
「は、はい」
 真っ赤になって俯くバニットに変わりローイがこちらも赤い顔ではっきりとそう告げた。
「うふっ。やっぱりそうだったのねえ。あたしうれしいわあ」
 胸の前で手をパチンと叩くと本当にうれしそうに二人を見るルルサ王妃。やはりただのおばちゃんである。
「へえ。そうだったんですか」
 と苦笑する功助。
「お幸せに!」
 自分のことのように喜ぶシオンベール。
「それでそれで?どちらから告白したの?」
 ますますキラキラ瞳で二人を見る王妃。
「えっ、あ、あの…、わ……私から…」
 長い耳まで真っ赤にさせたのはバニットだった。
「あら、あなたからなの?へえ。なかなか積極的ねえ。うふっ、ドキドキしちゃう!」
 王妃は今はもう完全に近所のおばちゃんになっている。
「で、なんて言ったの?」
 再びテーブルにみを乗り出すルルサおばちゃん。
「ひっ、ひゃいっ!あ、あの…」
 目の前に迫ってきた王妃にまたまた驚くが意を決したようにバニットは一つ小さく咳ばらいをした。
「こほっ。えと…、あの…、その……。’私のことを食べて’と…」
 もう顔は真っ赤で湯気が出ているのがわかるほどだ。ローイも同じく今にも倒れそうなほど顔が赤くなっていた。
「あらららら~!いいわねえそれ~!」
 と満面の笑みの王妃。シオンベールもそれを聞いて両手で顔を覆うと身体をくねくねとくねらしていた。
 その時功助と国王は空気となっていた。二人とも無言で出された料理を黙々と、そう、黙々と食べていた。
 そしてそのあとなんとか復活したバニットとローイ。ぎこちなさはあったが無事に食事を終えることができた。
「ねえバニットさん、ローイさん」
「「はい」」
 二人揃っていい返事をした。
「うふふふ。婚約が決まったら教えてちょうだいね。絶対よ。いい、わかった?」
 と二人の目を見る王妃。
「は?私たちのでしょうか?」
 とバニット。
「そうよ。いい、教えてちょうだいね」
「は、はあ。本当によろしいので?」
 今度はローイが不思議そうに王妃を見つめた。
「そうです。私に直接教えてくれてもいいけど…。ってこれは無理かもしれないわね。そうねぇ…。ねえコーちゃん、あなた一食にも二食にもよく行くのよね」
 急に声をかけられた功助。
「ぶほっ!けほけほ。は、はい。たまに行きますが…。ケホッ」
 コーヒーを口に淹れたところでちょっとむせてしまった。
「ふふふ。ならこのお二人のことがわかったら連絡してちょうだいね。いい?」
「へ?は、はい。いいですが…」
「ということでお二人さん。コーちゃんに伝えてくれるかしら?」
「「は、…はい…」」
 またも仲良くとまどいの返事をするバニットとローイ。どちらも米噛みに冷や汗が一筋流れていた。

「それではコースケ様、そろそろ下がらせていただきます」
「あっ、うん。今日もありがとうミュゼ。ゆっくり休んで」
「はい。それではおやすみなさいませ」
 ミュゼリアは一礼すると自室に戻っていった。
「さてと、寝るとするか」
 暗闇でももう慣れた寝室に入るとこれもまたすっかり馴染んだベッドに入った。
「ふう。今日もいろいろあったな。さてと、寝よう」
 ゆっくりと目を瞑る功助。そして数分後規則正しい寝息が聞こえてきた。

 異世界の美しい満月が輝く深夜…。功助の眠るベッドの少し上、それは唐突に現れた。
 テニスボール程の白く輝く光の球。それがポッカリと浮かんでいた。突然現れたその光の球はまるで功助をじっと見つめているようにゆっくりと、ゆっくりと明滅を繰り返している。
それはやさしい光。ゆらゆらと揺れている白い光の球。
 その時功助が寝返りをした。光の球は少し驚いたようにビクッと震えた。しかし功助は光の球には気づかずまた深い眠りに入っていった。そして再びおだやかな寝息が聞こえてきた。
 光の球はしばらく功助の身体の上に浮かんでいたが現れた時と同じく唐突に消えた。だがまさに消える直前。光の球の中に白い何かの姿が見えた。
 そしてまた功助の寝室には静寂が訪れた。
 部屋には功助の気持ちよさそうな寝息だけが残った。

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R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

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