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第1章 フェンリル
15 魔力移植
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「コースケ様!お一人で姫様とフェンリルを、でしょうか?」
驚いたバスティーアがズズッと近づいてきた。
「うわっ。バ、バスティーアさん、近いっ近いっ」
数歩後退る功助。
「おっと。失礼いたしました。それで大丈夫なのですかコースケ様」
今度は真剣な目で功助を見る。
「なんともいえませんが。なんか今あのフェンリルを見てもまったく恐怖心が無いんですよねえ。なぜでしょう?」
「コースケ様。なぜでしょうといわれてもですね…」
苦笑してふうとため息をつくミュゼリア。
「まあ、そういうことは置いといてですね。で、コースケ様。お身体の具合はいかがですか?」
心配そうに功助を見るミュゼリア。
「ああ。すこぶる快調だ。なんか力が湧いてでてきてるって感じかな。もしかして魔力も強くなってるのかもしれないけど」
「はい。そのとおりですコースケ様。ブレスレットをはずして魔力量が増大しております。あなた様の魔力はとてつもなく強く大きくなっております。あまり身体の外には漏れ出してはいないようですが」
とバスティーア。
「やっぱりそうですか。まあ、この話はあとでゆっくりしましょう。それよりバスティーアさん、魔族のことよろしくお願いします。それとミュゼ」
「はい」
「少し危険だけどシャリーナさんに伝えてきてもらえるかな」
「はいっ!おまかせください。このミュゼリア・デルフレック、命に代えてもシャリーナ隊長にお伝えいたしますっ!」
「いや、命は賭けないように。それじゃ二人とも頼みました」
「はい」
バスティーアはそう言うと城内に戻っていった。
「はい。それでは行ってまいります」
ミュゼリアはフェンリルと戦っている魔法師隊の方に走っていった。またスカートを少し持ち上げて走っているので白い素足がまぶしいぞと功助。しかし、足フェチじゃなかったはずなんだがと苦笑した。
シオンベールを見ると城壁に向かってブレスを吐き続けている。周りには多数の兵士がシオンベールを止めようと武器で攻撃しているがまったく効いていないようだ。その兵士の武器をよく見るとそれは木剣であったりただの石を投げていたりとなぜそんなものを使っているのかと不思議に想いそれを見る功助。
しかし、相手がいくら城壁を破壊していてもあの竜は、あの黄の竜はここ白竜城の王女なのだ。兵士たちにも親しまれている王女なのだ。白竜城に滞在しまだたった一週間だけだがシオンベールを悪くいう者はだれ一人いなかった。それどころかシオンベールのことになると涙さえ流す者もいた。驚くことにそれが大の大人、見るからに豪傑で百戦錬磨ではないかという男だったりしたのは記憶にまだまだ新しい。
今も城を破壊している竜を木剣で殴りながら泣いている兵士さえいる。
「シオーーーーンーーっ!!」
功助は大声でシオンベールを呼ぶ。思いを込めてシオンベールの名前を叫ぶ。するとシオンベールの動きが一瞬止まり功助の方を見た。
その金の瞳と功助の瞳と重なった瞬間。
’コースケ様…私を殺して…ください…’
功助の頭の中に響いたその声はやはりさっき聞こえた声と一緒だった。その声は悲痛に満ちどうにもならない自分の身体への恐怖が伝わってきている。
「シオン……?やっぱりシオンなのか……。シオン安心しろ。俺はお前を助けるっ!!」
再び動き出したシオンベールはまた城を破壊し始めた。
シオンベールの下に走る功助。近くにいた兵士がその行動に驚き静止させようとしている。
「おいっ!ここは危険だ、すぐに退避しろっ!」
「貴様早く逃げんかっ!」
「近づいちゃいかんっ!」
と言っている。
その時軽自動車ほどの崩れた城壁の一部が頭上から降ってきた。
「逃げろぉ!」
「避けろぉ!」
兵士が功助に大声で叫んだ。しかし功助は冷静にそれを注視しあわてずに右拳を握ると腰を低くして一気に右ストレートを巨大な瓦礫に放った。
まるで発泡スチロールを殴ったようだった。衝撃も重量感も何も感じずその大きな瓦礫は功助の拳一つでバラバラに砕け散った。
「なんだと!」
誰が叫んだのか、兵士たちは瓦礫を砕いた功助に唖然としていた。
チラッと兵士たちの方を向いた功助だがまたすぐにシオンベールの方に向くと想いをこめて叫んだ。
「しおんっ!今助けてやるからな。もうちょっと我慢するんだぞ。いいか、希望を捨てるな、いいなっ!!」
とにかくここからシオンベールを離さないとと思いシオンベールの後ろにまわった。目の前には無茶苦茶に動き回り地面をえぐり瓦礫を弾き飛ばしているシッポがある。功助はそれをどうにか両手でつかむとシオンベールに言った。
「我慢しろよっ」
功助はそのシッポを一気に引っ張り城から離した。
急に引っ張られてバランスを失ったシオンベールは前のめりに倒れた。
「あっ、悪いシオン」
といいながらもズルズルとシオンベールを引きずった。
引っ張られてなるものかとシオンベールは抵抗した。太く短い足の爪を地面に突き立てたり、小さな手でも地面を掴んだり。首を後ろに回してブレスを吐いたり。功助はそのブレスを右へ左へとステップしうまく回避した。
そして少し広いところに引っ張っていくとシッポを離す。
功助がシッポを離すとすぐにシオンベールは起き上がり、功助に向かって口を開いた。そうあのブレスが功助に向かって吐き出されたのだ。
分厚い壁に圧倒的なその高熱と衝撃で大きな穴を開けたブレス。それが功助に向かって一直線に襲いかかる。
「コースケ様ぁぁぁぁっ!!」
その声は悲痛な叫びだった。目の端に、大きく目を見開き右手をこちらに伸ばしたミュゼリアの姿がチラッと見えた。
功助自信もうダメかもと思ったが、とっさに目の前で両腕をクロスしブレスの衝撃にそなえていた。
腕をクロスして一瞬後、シオンベールの灼熱のブレスに包まれる功助。
白い光に包まれた功助は不思議な感覚に首を傾げた。
それはシオンベールのブレスを受けているのに、衝撃もなければ熱さも感じなかったのだ。あの壁を破壊したブレスだというのに。
そしてまたあの声が聞こえた。
’コースケ様……。もう、もういいのです。これ以上私の大好きな白竜城を破壊したくありません。お願いいたします。私を、私を殺してください。人竜球の壊れた狂った竜ではなく、シオンベール・ティー・アスタットとして死にたいのです。……それを叶えてくださるのはコースケ様しかいません。お願い…します……。私の大好きな…コースケ……様……’
「(やっぱりシオンだったか。心配するな。俺がお前を助ける。だから希望は捨てるな。いいなシオン。もうちょっとの我慢だ)」
数瞬のあとブレスは収まった。クロスしていた腕をおろしシオンベールを見る功助。
口を開けたまま功助を凝視し唖然としている黄金の竜。。
周囲を見ると地面はえぐれプスプスと煙を出している。草や大きな木は激しく燃えていた。
しかし、功助は無傷。ケガもなければ火傷もない。かすり傷一つ負っていない。
「コースケ…様…」
右手を前に出したままのミュゼリアが驚愕に見開いてた目をより一層見開いて功助を見ていた。
「ミュゼ。シャリーナさんは?」
「えっ……?は、はい。きちんとお伝えしついさきほど金の騎士様とともにマピツ山に向かわれました…が…。コースケ様っ!大丈夫なのですかっ!!」
「あ、ああ。大丈夫だ。話はあとな」
功助は右足を後ろへ引くと体制を低くした。
「よしっ、この隙に」
功助は呆然としているシオンベールに向かって跳んだ。そう人竜球があると思われる首の付け根あたりに跳んで行った。
「確か胸の真ん中だったよな」
跳躍しながら人竜球を目視で確認した。
「あった!」
やはり首の付け根。その少し下にそれはあった。以前掃除のおっちゃんに見せてもらったがそれは金色に輝きとても美しかったが今のシオンベールのそれはどす黒く濁っていた。
功助はその人竜球に飛びつくとしっかりとシオンベールの身体をつかみ落ちないようにしがみついた。
あっけにとられていたシオンベールが動いたのはその時だった。ぼろぼろの翼をはばたかせ身体を揺らし、首を大きく動かしその小さな手で功助を掴もうとしている。冷静さのないシオンベールは普通ならすぐにつかめる位置にいる功助を掴めないでいる。
功助は歯を食いしばり振り落されないようにしながら人竜球に右手の平を重ねた。その時功助の背中にシオンベールの鋭い爪が食い込み服とともに背中を切り裂く。
「うぐっ。く、くそっ!」
痛みに右手が人竜球から離れた。ブレスでも効かなかったのになぜ爪で身体に傷がつくのか不思議に思ったが今はそれどころじゃない。もう一度右手の平を人竜球に重ねると功助はその手に意識を集中し、自分の魔力を手の平から黒い人竜球につぎ込んだ。
体内に巡る未知の力。今まで感じたことのないその魔力をシオンベールの人竜球に注ぎ込み続けた。
暴れていたシオンベールはゆっくりとその動きを静めやがてお座りをして動かなくなった。
すると、功助の身体全身が白く輝くと徐々にシオンベールをも包み込むほどの大きな光になり、二人は白く輝く光の球に包まれた。
その光の中はとても柔らかで暖かかった。とても安らかな気持ちになり気を抜けば眠ってしまうのではないかと思うくらいに。
人竜球に魔力を注ぎ込んでどのくらいたったのだろう。1分ほどかもしれないし1時間にも感じるがおそらく数10秒だったのだろう。
しばらくして、注ぎ込んでいた魔力がこれ以上は入らないというように功助の手の平にあふれ戻ってきたのを感じた。
「よしっ!」
功助は人竜球から右手を離すと地面に跳び降りた。
地面に降りた功助がシオンベールを見上げるとシオンベールはまだ白い光に包まれたままだった。
そして、その白い光は徐々に小さくなりやがて、人の大きさにまで縮んだ。
その光がだんだんと薄れていくとそこには美しい少女が立っていた。
絹のような光沢を放つ金色の髪は真っ直ぐで、それと同じ金色の瞳は薄っすらと潤み桜色の小さな唇はかすかに震えているようだ。
その少女は功助の目をじっと見つめている。功助も少女の目をじっと見た。
「コースケ……様………」
「シオン なのか 」
「はい」
コクッと小さく頷くシオンベール。
そしてその両の目からは大粒の涙が頬を伝い地面に落ちた。
涙を流し微笑むシオンベール。するとシオンベールの身体が揺らぎ倒れそうになった。
功助はあわててシオンベールのそばに行きその華奢な身体を抱き留めた。
「コースケ様」
「シオン」
微笑む二人。
「よかったなシオン」
「はい。すべてコースケ様のおかげです。ありがとうございます。私は、シオンは今とても幸せです」
「そっか」
「はい」
驚いたバスティーアがズズッと近づいてきた。
「うわっ。バ、バスティーアさん、近いっ近いっ」
数歩後退る功助。
「おっと。失礼いたしました。それで大丈夫なのですかコースケ様」
今度は真剣な目で功助を見る。
「なんともいえませんが。なんか今あのフェンリルを見てもまったく恐怖心が無いんですよねえ。なぜでしょう?」
「コースケ様。なぜでしょうといわれてもですね…」
苦笑してふうとため息をつくミュゼリア。
「まあ、そういうことは置いといてですね。で、コースケ様。お身体の具合はいかがですか?」
心配そうに功助を見るミュゼリア。
「ああ。すこぶる快調だ。なんか力が湧いてでてきてるって感じかな。もしかして魔力も強くなってるのかもしれないけど」
「はい。そのとおりですコースケ様。ブレスレットをはずして魔力量が増大しております。あなた様の魔力はとてつもなく強く大きくなっております。あまり身体の外には漏れ出してはいないようですが」
とバスティーア。
「やっぱりそうですか。まあ、この話はあとでゆっくりしましょう。それよりバスティーアさん、魔族のことよろしくお願いします。それとミュゼ」
「はい」
「少し危険だけどシャリーナさんに伝えてきてもらえるかな」
「はいっ!おまかせください。このミュゼリア・デルフレック、命に代えてもシャリーナ隊長にお伝えいたしますっ!」
「いや、命は賭けないように。それじゃ二人とも頼みました」
「はい」
バスティーアはそう言うと城内に戻っていった。
「はい。それでは行ってまいります」
ミュゼリアはフェンリルと戦っている魔法師隊の方に走っていった。またスカートを少し持ち上げて走っているので白い素足がまぶしいぞと功助。しかし、足フェチじゃなかったはずなんだがと苦笑した。
シオンベールを見ると城壁に向かってブレスを吐き続けている。周りには多数の兵士がシオンベールを止めようと武器で攻撃しているがまったく効いていないようだ。その兵士の武器をよく見るとそれは木剣であったりただの石を投げていたりとなぜそんなものを使っているのかと不思議に想いそれを見る功助。
しかし、相手がいくら城壁を破壊していてもあの竜は、あの黄の竜はここ白竜城の王女なのだ。兵士たちにも親しまれている王女なのだ。白竜城に滞在しまだたった一週間だけだがシオンベールを悪くいう者はだれ一人いなかった。それどころかシオンベールのことになると涙さえ流す者もいた。驚くことにそれが大の大人、見るからに豪傑で百戦錬磨ではないかという男だったりしたのは記憶にまだまだ新しい。
今も城を破壊している竜を木剣で殴りながら泣いている兵士さえいる。
「シオーーーーンーーっ!!」
功助は大声でシオンベールを呼ぶ。思いを込めてシオンベールの名前を叫ぶ。するとシオンベールの動きが一瞬止まり功助の方を見た。
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’コースケ様…私を殺して…ください…’
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「シオン……?やっぱりシオンなのか……。シオン安心しろ。俺はお前を助けるっ!!」
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「おいっ!ここは危険だ、すぐに退避しろっ!」
「貴様早く逃げんかっ!」
「近づいちゃいかんっ!」
と言っている。
その時軽自動車ほどの崩れた城壁の一部が頭上から降ってきた。
「逃げろぉ!」
「避けろぉ!」
兵士が功助に大声で叫んだ。しかし功助は冷静にそれを注視しあわてずに右拳を握ると腰を低くして一気に右ストレートを巨大な瓦礫に放った。
まるで発泡スチロールを殴ったようだった。衝撃も重量感も何も感じずその大きな瓦礫は功助の拳一つでバラバラに砕け散った。
「なんだと!」
誰が叫んだのか、兵士たちは瓦礫を砕いた功助に唖然としていた。
チラッと兵士たちの方を向いた功助だがまたすぐにシオンベールの方に向くと想いをこめて叫んだ。
「しおんっ!今助けてやるからな。もうちょっと我慢するんだぞ。いいか、希望を捨てるな、いいなっ!!」
とにかくここからシオンベールを離さないとと思いシオンベールの後ろにまわった。目の前には無茶苦茶に動き回り地面をえぐり瓦礫を弾き飛ばしているシッポがある。功助はそれをどうにか両手でつかむとシオンベールに言った。
「我慢しろよっ」
功助はそのシッポを一気に引っ張り城から離した。
急に引っ張られてバランスを失ったシオンベールは前のめりに倒れた。
「あっ、悪いシオン」
といいながらもズルズルとシオンベールを引きずった。
引っ張られてなるものかとシオンベールは抵抗した。太く短い足の爪を地面に突き立てたり、小さな手でも地面を掴んだり。首を後ろに回してブレスを吐いたり。功助はそのブレスを右へ左へとステップしうまく回避した。
そして少し広いところに引っ張っていくとシッポを離す。
功助がシッポを離すとすぐにシオンベールは起き上がり、功助に向かって口を開いた。そうあのブレスが功助に向かって吐き出されたのだ。
分厚い壁に圧倒的なその高熱と衝撃で大きな穴を開けたブレス。それが功助に向かって一直線に襲いかかる。
「コースケ様ぁぁぁぁっ!!」
その声は悲痛な叫びだった。目の端に、大きく目を見開き右手をこちらに伸ばしたミュゼリアの姿がチラッと見えた。
功助自信もうダメかもと思ったが、とっさに目の前で両腕をクロスしブレスの衝撃にそなえていた。
腕をクロスして一瞬後、シオンベールの灼熱のブレスに包まれる功助。
白い光に包まれた功助は不思議な感覚に首を傾げた。
それはシオンベールのブレスを受けているのに、衝撃もなければ熱さも感じなかったのだ。あの壁を破壊したブレスだというのに。
そしてまたあの声が聞こえた。
’コースケ様……。もう、もういいのです。これ以上私の大好きな白竜城を破壊したくありません。お願いいたします。私を、私を殺してください。人竜球の壊れた狂った竜ではなく、シオンベール・ティー・アスタットとして死にたいのです。……それを叶えてくださるのはコースケ様しかいません。お願い…します……。私の大好きな…コースケ……様……’
「(やっぱりシオンだったか。心配するな。俺がお前を助ける。だから希望は捨てるな。いいなシオン。もうちょっとの我慢だ)」
数瞬のあとブレスは収まった。クロスしていた腕をおろしシオンベールを見る功助。
口を開けたまま功助を凝視し唖然としている黄金の竜。。
周囲を見ると地面はえぐれプスプスと煙を出している。草や大きな木は激しく燃えていた。
しかし、功助は無傷。ケガもなければ火傷もない。かすり傷一つ負っていない。
「コースケ…様…」
右手を前に出したままのミュゼリアが驚愕に見開いてた目をより一層見開いて功助を見ていた。
「ミュゼ。シャリーナさんは?」
「えっ……?は、はい。きちんとお伝えしついさきほど金の騎士様とともにマピツ山に向かわれました…が…。コースケ様っ!大丈夫なのですかっ!!」
「あ、ああ。大丈夫だ。話はあとな」
功助は右足を後ろへ引くと体制を低くした。
「よしっ、この隙に」
功助は呆然としているシオンベールに向かって跳んだ。そう人竜球があると思われる首の付け根あたりに跳んで行った。
「確か胸の真ん中だったよな」
跳躍しながら人竜球を目視で確認した。
「あった!」
やはり首の付け根。その少し下にそれはあった。以前掃除のおっちゃんに見せてもらったがそれは金色に輝きとても美しかったが今のシオンベールのそれはどす黒く濁っていた。
功助はその人竜球に飛びつくとしっかりとシオンベールの身体をつかみ落ちないようにしがみついた。
あっけにとられていたシオンベールが動いたのはその時だった。ぼろぼろの翼をはばたかせ身体を揺らし、首を大きく動かしその小さな手で功助を掴もうとしている。冷静さのないシオンベールは普通ならすぐにつかめる位置にいる功助を掴めないでいる。
功助は歯を食いしばり振り落されないようにしながら人竜球に右手の平を重ねた。その時功助の背中にシオンベールの鋭い爪が食い込み服とともに背中を切り裂く。
「うぐっ。く、くそっ!」
痛みに右手が人竜球から離れた。ブレスでも効かなかったのになぜ爪で身体に傷がつくのか不思議に思ったが今はそれどころじゃない。もう一度右手の平を人竜球に重ねると功助はその手に意識を集中し、自分の魔力を手の平から黒い人竜球につぎ込んだ。
体内に巡る未知の力。今まで感じたことのないその魔力をシオンベールの人竜球に注ぎ込み続けた。
暴れていたシオンベールはゆっくりとその動きを静めやがてお座りをして動かなくなった。
すると、功助の身体全身が白く輝くと徐々にシオンベールをも包み込むほどの大きな光になり、二人は白く輝く光の球に包まれた。
その光の中はとても柔らかで暖かかった。とても安らかな気持ちになり気を抜けば眠ってしまうのではないかと思うくらいに。
人竜球に魔力を注ぎ込んでどのくらいたったのだろう。1分ほどかもしれないし1時間にも感じるがおそらく数10秒だったのだろう。
しばらくして、注ぎ込んでいた魔力がこれ以上は入らないというように功助の手の平にあふれ戻ってきたのを感じた。
「よしっ!」
功助は人竜球から右手を離すと地面に跳び降りた。
地面に降りた功助がシオンベールを見上げるとシオンベールはまだ白い光に包まれたままだった。
そして、その白い光は徐々に小さくなりやがて、人の大きさにまで縮んだ。
その光がだんだんと薄れていくとそこには美しい少女が立っていた。
絹のような光沢を放つ金色の髪は真っ直ぐで、それと同じ金色の瞳は薄っすらと潤み桜色の小さな唇はかすかに震えているようだ。
その少女は功助の目をじっと見つめている。功助も少女の目をじっと見た。
「コースケ……様………」
「シオン なのか 」
「はい」
コクッと小さく頷くシオンベール。
そしてその両の目からは大粒の涙が頬を伝い地面に落ちた。
涙を流し微笑むシオンベール。するとシオンベールの身体が揺らぎ倒れそうになった。
功助はあわててシオンベールのそばに行きその華奢な身体を抱き留めた。
「コースケ様」
「シオン」
微笑む二人。
「よかったなシオン」
「はい。すべてコースケ様のおかげです。ありがとうございます。私は、シオンは今とても幸せです」
「そっか」
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