ただ、笑ってほしいだけ

古川優亜

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「ん。先輩?」
夜、寝てたら先輩がいなかった。
「どこにいるの?」
暗い廊下を歩きながら私は捜す。
「あ、先ぱ」
思わず物陰に隠れる。
先輩は不安そうにきょろきょろと周りを見ている。
先輩は執事見習い。
だから、男の子なのだけど。
あの様子はただ事じゃない。
「何してんだ、お前。」
「あ、王子様。」
後ろから上着をかぶせられる。
振り返れば王子様がいて。
私を見下ろす王子様は不安そうに見ていた。
「あいつは、誰だ?」
王子様は先輩を見ながら言った。
「執事見習いのニコラスだよ。突然いなくなったから捜しに来たの。」
「んで、隠れてんの。」
「いつもと様子が違うから。」
ふーんと言いながら王子様は優しく私の頭を撫でてくれた。
にしても。
「ニコラス、何してるんだろう。」
私が一生懸命に見てると突然体が浮かびあった。
「足、冷えるぞ。」
王子様の上着にくるまれて、腕に抱かれる。
「温かい。」
私が笑えば王子様も優しく笑ってくれる。
「いた!!」
突然ニコラスの大きな声が聞こえ驚く。
「ばれたか。」
王子様は小さく舌打ちをすると私を抱っこしたまま物陰から出る。
「て、シャーロット?」
「やっほ!先輩!!」
私を見て目を丸くするニコラス。
「こいつ、何故か俺に懐いてる。」
「はい、見ればわかります。」
温かいなぁ。
「どうして先輩がここにいるの?」
「ブライアー様の専属執事になりたいから!!!」
おぉ!!!
鼻息荒い!!
目がすごく光ってる!!
先輩はいつも冷めた目で冷静に動いてるのに!!
王子様、すごい!!
「・・・は?いゃ」
「やった!!」
私が思わず声を出すと王子様の声をかき消してしまった。
「これなら、先輩の後をついていくという名目で王子様と一緒にいられる!!!」
私が1人はしゃいでると王子様は
「採用。」
とめんどくさそうに言った。





「話を通してきました!!!」
さすが、先輩!!
もともとが優秀だから、すぐに執事長を丸め込んできたよ。
「シャーロット、今失礼なことを考えたよね?」
「ひぇ!!助けて王子様!!」
私が走って王子様の後ろに隠れる。
「やめろ、ニコラス。」
べーと舌を出せばニコラス先輩のこめかみに血管が浮かび上がる。
「きゃぁ~~~」
私は笑いながらニコラス先輩と鬼ごっこをする。
「こら、待て!!」
ぐるぐると王子様の周りを回り王子様に持ち上げられた。
「やめろ。ニコラスも子供相手になにしてる。」
「王子様も子供じゃん。」
「うっせ、黙れ。」
ほっぺをびよーんと伸ばされ地味に痛い。
「ごめひゃい。」
「ぷっ。」
王子様は私のほっぺをひっぱたまま突然笑い出した。
「はぁ、お茶を用意しときますね。シャーロット、リンゴを持っておいで。」
ニコラス先輩はため息をつきながらも笑い、私に手伝うように言う。
なんだかんだ言って王子様はニコラス先輩を頼ってるし、ニコラス先輩は私を信じてくれる。
この3人での日常がとても心地よかった。
(ずっと。ずっと一緒にいれたらいいのに。これからもずっと。)
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