光の姫巫女

古川優亜

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始まり

2 誰か助けて

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エミリーはもともと貴族の娘だった。
次女として生まれたエミリーは領主がメイドの一人にお手付きをして生まれた。
最初はメイドである母がなんとかエミリーを守っていたが、領主の本妻による悪質で卑劣ないじめが原因で心を病んでいく。
まだ、幼かったエミリーは母親が壊れていくのを黙ってみていることしかできなかった。
ただ、壊れていくのを怯えながら見ていた。
何度も何度も母親を呼ぶエミリー。
だが、壊れていく母親にはエミリーの声も届かずに、ただ壊れていく。
「ママ?ママ!!」
自分が笑っていれば。
どんなに苦しくても微笑んでいればきっと神様が助けてくれると信じて。
幼いエミリーは母親に振り向いてほしくて、誰かに助けてほしくて。
毎日たくさんの人に話しかけ、母親を助けてほしいと頼んだ。
だが、みんな奥様のことが怖くて助けることはしなかった。
「おねがいだから。だれか。だれか。」
エミリーは閉ざされた部屋で何度も何度も大きな声で、扉をなるべく強く叩き。
”おねがいだから、ママをたすけて”
いつか優しいママが返ってくる。
ただ、それだけを信じて、生き続けたエミリー。
そんな願いも虚しくエミリーにつらくあたるようになる母親。
毎日、笑顔で母親を呼ぶエミリー。
食事も運ばれなくなれば母親のために調理場からこっそりパンなどの簡単なものを盗み出しては食べさせていた。
使用人たちは気づいてはいたがあえて気づかぬふりをし、陰ながらにエミリーを支えていた。
だが、母親はどんどんやつれていった。
エミリーはなるべく笑顔で明るく母親のそばに居続けた。
そんなある日。
「ママ!おいしいパンをもらってきたよ!」
エミリーが手にいっぱいのパンを持って戻ると母親はべっとの上で息絶えていた。
「マ、マ?」
手からパンが落ちる。
ふらふらとしながら母親に近づくエミリー。
そっと手を握ればいつも優しく包み込んでくれる手は、冷たく重かった。
頬に母親の手をくっつける。
細くて骨ばった手は動くことはなかった。
目からぼろぼろと涙が溢れ、エミリーは初めて泣いた。
そして、母親の葬儀は誰も来てはくれなかった。
独りで雨に濡れながら母親のお墓の前でずっと立っていた。
「このままでは風邪をひいてしまいます。早く屋敷に・・・。」
エミリーより3つぐらい年上の男の子が傘でエミリーが濡れないように差していた。
バチン!!!
エミリーは強く思い切り男の子の頬を平手打ちした。
「どうして・・・どうして教えてくれなかったの。あなたは。あなたは人のこうなるとわかってたくせに!!!!!」
エミリーはそこまで言うと腫れた目で男の子を強く睨む。
高く上げた手は小さく震えている。
「申し訳ありません。お伝えせずに。ですが・・・。」
「もういい!!!」
エミリーはどんと男の子を突き放した。
そして、その日からエミリーは笑わなくなった。
どんなに酷いことを言われようが笑って受け止めていた少女。
困っている人がいたら優しく明るく手を差し出す天使のような少女。
それが、母親の死がきっかけで変わっていく。
笑わなくなり、何をされても表情が変わらない。
そして、誰からも守ってもらえず、体も心もズタボロになっていった。
男の子は一生懸命にエミリーを守ろうとしていた。
陰ながらに食べ物を渡し、傷薬を塗ったりしながら。
「どうか、もう一度笑って。どうか、もう一度声を聴かせてくれ。」
エミリーの小さな手を握りながら男の子は呟いた。
目から一粒涙が零れ落ちエミリーの顔にあたる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。でも、これだけは言わせてくれ。」
男の子は小さな声でエミリーの耳元で何か呟いた。
だが、なんて言ってたのかエミリーはよく聞こえず、目を閉じる。
そして、エミリーは奴隷として売られた。
男の子は何度も強く反対したが一人の従者であり、子供の意見は大人に聞き入れてもらえなかった。
男のは強く拳を握り、エミリーに向かって微笑んだ。
何かを覚悟したようなその笑顔は子供とは思えないほど美しかった。
「大丈夫です。絶対にあなたを迎いに行きますから。」
男の子はエミリーが売られる前日、抱きしめながら言った。
優しくエミリーの頭をなでながら男の子は言うとそっと離れた。
「愛しき少女よ。我と共にあれ。汝、光に守られよ!!」
男の子はエミリーにとある魔法をかけるとエミリーを寝かせてから部屋を出ていった。
「よい夢をみてください。俺の可愛い―ーーーー。」
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