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第1章
You Really Got Me
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起きると、すでに陽は傾いていた。
いつもなら、ホワイトの屋根で昼過ぎから夕方頃まで寝て過ごすが、今日はそうはいかなかった。
こうした日は、適当な寝床を探す。
今日は民家のベランダに、ちょうど良い寝床があったのでそこで眠っていた。
身体を伸ばして顔を洗っていると、腹が鳴る。
今日の夕飯はどうしようか。
ホワイトに戻って飯をもらっても良かったが、確かこの近くに魚屋があったはずだ。
あそこの親父は、機嫌が良いと魚の切れ端をくれる。
久しぶりに魚でも食うか。
そう決めて塀の上を歩いていると、前に一匹の白猫が座っているのが見えた。
後ろを向いているので、顔は見えない。
見たことがない奴だ。慎重に歩みを進めた。
どんな奴かわからないときは、警戒するに越したことがない。
身体が大きく見えたが、少しずつ近寄るとそれは毛が長いからだとわかった。
猫がこちらを振り返る。女の子だった。
しかもとんでもなく美しい。
白い綿毛のなかに二つの澄んだ青い目が浮かんでいた。
まるで雲のなかに二つの小さな青空が浮かんでいるようだった。
この空の上にはさらに大きな世界が広がっているらしい。
人間はそれを宇宙と呼ぶそうだ。
きっと、宇宙はあの瞳みたいなものなんだろう。
そうでないと説明がつかない、そんな美しさだった。
宇宙が一瞬、雲のなかに消えまた開いた。彼女が瞬きをしたのだ。
突然、彼女が立ち上がった。
俺のことをちらりと見て、塀を降りた。俺も慌てて塀を降りる。
彼女は俺の少し前を、とことこと歩いていた。
尻尾が誘うようにゆらゆら揺れている。俺が歩みを早めると、彼女も早く歩いた。
けれど、俺をまこうと思っているわけではないようだ。
その証拠に、角を曲がると彼女は歩みを止めてこちらを見ている。
まるで俺がついてきているかを確認しているかのように。
しばらく彼女について歩いていくと、彼女は西洋風の一軒家の前で立ち止まった。
これまで見てきた住宅の中でも、とくに大きい。
二階建ての茶色いレンガ造りの家で、窓がいくつかあるがカーテンが閉まっていて部屋の中は見えない。
家の正面には人間の背丈ほどの柵があり、薔薇の蔦が絡みついている。
薔薇の花が咲いていたが、冬に咲く薔薇は初めて見た。特殊な種類なのだろうか。
彼女は門の隙間をするりと通り抜け、家の裏手にまわった。
ついて行くと、二階のベランダへと登っている彼女が見えた。
ベランダに登ると、細く開いた窓から、室内にいる彼女が見えた。
彼女はどうやらここで飼われているようだが、さすがに人間の住居に入るのは危険だ。
中の様子を見てみる。
六畳ほどの広さの部屋には、まったく色がない。
ベッドや化粧台が置かれているが、どれも白色だった。
ベッドの上で彼女が顔を洗っていた。
こちらをちらりと見る。
「来ないの?」とでも言いたげな視線だ。
覚悟を決めて部屋に足を踏み入れる。
部屋に入ると、彼女が隣の部屋へと向かった。俺もついて行く。
その部屋は奇妙だった。
部屋中に、大量のロウソクが置かれている。
俺の背丈くらいある大きなものから、手の先くらいの小さなものまで、部屋のいたるところにあった。
中に人間がいる様子はない。
部屋の奥に彼女がいるのが見えた。
ロウソクの炎が、彼女にしたがえているかのように揺れている。
明かりに照らされた彼女はとても妖艶だった。
俺はロウソクを避けながら、彼女の元へと向かった。炎が喜ぶようにゆらゆらと揺れる。
彼女の目の前まで来た突然、身体の奥底に氷のような冷たい何かが降りてくるのを感じた。
奇妙で、強烈な違和感だった。そしてすぐにその違和感の正体に気づいた。
匂いがしない。
この部屋に入ってから少しも匂いがない。
女の子、いや生き物というのはすべて、何かしらの匂いがするはずだ。
彼女の顔がぐにゃりと揺れた。
彼女の顔がひどく平らに見えた。
厚みというものがない。
彼女が紙きれのように薄いと気づいたのは、一瞬遅れてからだった。
それ以上、何も考えられなかった。
頭がひどく重い。耐えられず下を向くと、足もとに奇妙な模様が描かれていることに気づいた。
これはなんだろう。
床に倒れ込むと、人間の足が見えた。
視線を上に向けようとしたが、目を開けていられない。
ゆっくりと、眠りの世界へ落ちていった。
いつもなら、ホワイトの屋根で昼過ぎから夕方頃まで寝て過ごすが、今日はそうはいかなかった。
こうした日は、適当な寝床を探す。
今日は民家のベランダに、ちょうど良い寝床があったのでそこで眠っていた。
身体を伸ばして顔を洗っていると、腹が鳴る。
今日の夕飯はどうしようか。
ホワイトに戻って飯をもらっても良かったが、確かこの近くに魚屋があったはずだ。
あそこの親父は、機嫌が良いと魚の切れ端をくれる。
久しぶりに魚でも食うか。
そう決めて塀の上を歩いていると、前に一匹の白猫が座っているのが見えた。
後ろを向いているので、顔は見えない。
見たことがない奴だ。慎重に歩みを進めた。
どんな奴かわからないときは、警戒するに越したことがない。
身体が大きく見えたが、少しずつ近寄るとそれは毛が長いからだとわかった。
猫がこちらを振り返る。女の子だった。
しかもとんでもなく美しい。
白い綿毛のなかに二つの澄んだ青い目が浮かんでいた。
まるで雲のなかに二つの小さな青空が浮かんでいるようだった。
この空の上にはさらに大きな世界が広がっているらしい。
人間はそれを宇宙と呼ぶそうだ。
きっと、宇宙はあの瞳みたいなものなんだろう。
そうでないと説明がつかない、そんな美しさだった。
宇宙が一瞬、雲のなかに消えまた開いた。彼女が瞬きをしたのだ。
突然、彼女が立ち上がった。
俺のことをちらりと見て、塀を降りた。俺も慌てて塀を降りる。
彼女は俺の少し前を、とことこと歩いていた。
尻尾が誘うようにゆらゆら揺れている。俺が歩みを早めると、彼女も早く歩いた。
けれど、俺をまこうと思っているわけではないようだ。
その証拠に、角を曲がると彼女は歩みを止めてこちらを見ている。
まるで俺がついてきているかを確認しているかのように。
しばらく彼女について歩いていくと、彼女は西洋風の一軒家の前で立ち止まった。
これまで見てきた住宅の中でも、とくに大きい。
二階建ての茶色いレンガ造りの家で、窓がいくつかあるがカーテンが閉まっていて部屋の中は見えない。
家の正面には人間の背丈ほどの柵があり、薔薇の蔦が絡みついている。
薔薇の花が咲いていたが、冬に咲く薔薇は初めて見た。特殊な種類なのだろうか。
彼女は門の隙間をするりと通り抜け、家の裏手にまわった。
ついて行くと、二階のベランダへと登っている彼女が見えた。
ベランダに登ると、細く開いた窓から、室内にいる彼女が見えた。
彼女はどうやらここで飼われているようだが、さすがに人間の住居に入るのは危険だ。
中の様子を見てみる。
六畳ほどの広さの部屋には、まったく色がない。
ベッドや化粧台が置かれているが、どれも白色だった。
ベッドの上で彼女が顔を洗っていた。
こちらをちらりと見る。
「来ないの?」とでも言いたげな視線だ。
覚悟を決めて部屋に足を踏み入れる。
部屋に入ると、彼女が隣の部屋へと向かった。俺もついて行く。
その部屋は奇妙だった。
部屋中に、大量のロウソクが置かれている。
俺の背丈くらいある大きなものから、手の先くらいの小さなものまで、部屋のいたるところにあった。
中に人間がいる様子はない。
部屋の奥に彼女がいるのが見えた。
ロウソクの炎が、彼女にしたがえているかのように揺れている。
明かりに照らされた彼女はとても妖艶だった。
俺はロウソクを避けながら、彼女の元へと向かった。炎が喜ぶようにゆらゆらと揺れる。
彼女の目の前まで来た突然、身体の奥底に氷のような冷たい何かが降りてくるのを感じた。
奇妙で、強烈な違和感だった。そしてすぐにその違和感の正体に気づいた。
匂いがしない。
この部屋に入ってから少しも匂いがない。
女の子、いや生き物というのはすべて、何かしらの匂いがするはずだ。
彼女の顔がぐにゃりと揺れた。
彼女の顔がひどく平らに見えた。
厚みというものがない。
彼女が紙きれのように薄いと気づいたのは、一瞬遅れてからだった。
それ以上、何も考えられなかった。
頭がひどく重い。耐えられず下を向くと、足もとに奇妙な模様が描かれていることに気づいた。
これはなんだろう。
床に倒れ込むと、人間の足が見えた。
視線を上に向けようとしたが、目を開けていられない。
ゆっくりと、眠りの世界へ落ちていった。
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