After of Dragon

木造二階建(2×4)

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エルフ族の村 4

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 老師と少女はエルフの森を歩いていた。前には鼻歌交じりに大きく手を振って楽しげに歩くエルフの娘がいた。その足取りは軽く、花の綿毛が舞うようにご機嫌に見えた。
「老師様、エルフさんは一体どこへ行こうというのでしょう」
 少女はわずかな不安と、それを上回る期待の入り混じった声で老師にささやいた。
「さあ、私もわからないよ。だが、彼女は嘘をつくタイプではないからね、期待していいんじゃないかな」
 老師の声にも、好奇心が混じって少し楽しそうな雰囲気だった。
 森をやや長く歩いて、一行がたどり着いたのは、森の中とは思えないほど開けた空間の、一面に広がる湖だった。
「ここよ」
 エルフの娘は少し誇らしげに胸を張って、さあ刮目しなさいと言わんばかりに、湖の方に手を伸ばして紹介した。湖には村の中では比べ物にならないほど多くの精霊が飛び交い、それらはさまざまな色や形をしていて、ここは神の国なのではないかと思うほどだった。
「きれい...」
 少女の口からは自然にその言葉が出、その後息を飲んだ。老師もほう、といった様子で湖を眺めていた。
 エルフの娘は自信満々に、例によって大きな身振り手振りを交えて説明を始めた。
「エルフ族は時々、この湖で湯浴みをするの。ここにはより多くの精霊や、澄んだマナが多いから、私たちは心の浄化のためにここにくるの。ただ眺めてるだけでも充分に心が澄んでいくんだけど、湯浴みをするととっても気持ちがいいのよ」
 彼女が湖に近づくにつれて、ご機嫌だった足取りがさらにご機嫌になっていくのを感じていた二人は、納得した様子でお互いの顔を見合わせた。
「本当に、とても綺麗です。こんな素晴らしい場所で湯浴みができるなんて、とっても羨ましいです」
 少女が少し興奮気味に言った。それを聞いたエルフの娘は少し首を傾げた後、にやりと笑い、おもむろに少女の肩を掴んだ。
「何言ってるの、今からここで湯浴みをするんじゃない。ほらほら、早くその司祭の衣装脱いで脱いで」
「え、ええ!?」
 少女は驚嘆の声をあげ、両腕を自分の体を守るように巻きつけ、恥じらった。
 そんな少女の恥じらいをものともせずに、エルフの娘は少女に襲い掛かり、瞬く間に司教の服を脱がせてしまった。と、同時に自分の服もぱっぱと脱ぎ捨ててしまい、瞬く間に下着姿の娘が二人になってしまった。
「な、何をするんですか!」
 少女の抗議は虚しく泉に響いた。
「ほらほら、こっちこっち」
 エルフの娘は少女の手を引き、じゃぶじゃぶと泉に入って行った。
「そーれ」
 娘は少女に掬った水を浴びせ、はしゃぎはじめた。少女の顔に水がかかる。
「もう、やりましたね」
 少女もつられてなぜか楽しくなってきて、娘に水を浴びせ返した。
 しばらくの間、少女と娘が賑やかに水遊びをしているはしゃぎ声が静かな森に響いていた。
 少女はふと我にかえり、自分が裸同然の格好でいることに、それも老師がいる前で我を忘れて飛び回っていたことに気がつき、ひどく顔を赤らめた。
 しかし老師の姿はなく、きょろきょろと辺りを見回すと、まだはしゃぎ足りない様子のエルフの娘が言った。
「ああ、あいつのことなら、大丈夫よ。あの旅の時から、相変わらずね。せっかくなんだし、もう少し遊んでいきましょう」
 少女はキョトンと不思議そうにエルフの娘の顔を見やった。
 少し離れた木の影で、湖に背を向けてふうと一息ついている老師の姿があった。老師はエルフの娘の不穏な笑みを見逃さず、素早く湖から離れていた。
「やれやれ、変わってないものだ」
 老師は空を見上げ、森の風に乗って流れてくる二人の少女のはしゃぎ声をため息混じりに聞いていた。

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